物知り過ぎの明智くん
トシヨンがオチャコに代わって、どうして「お寺ミステリー探索」というテーマが生まれたのかを、丁寧に説明する。
明智くんは納得できて、快く賛同を言葉に表わす。
「ああ、そういう意味があったのだね。うん、分かった。それじゃ早速、お寺ミステリー探索に出掛けよう!」
「うん。まずは、敷地をぐるっと一回りしてみようよ。あたしの知らない場所も、まだ沢山あるし」
「わたしも、ここへくるの二度目で、クリスマス・パーティーの時は、境内の真ん中に、ずっといたから」
「そうだね。僕が先導するよ。後を歩いてきてよ。あ、それと、マムシが出没するような箇所もあるから、二人とも、よく気をつけてね」
「え、マムシ!?」
「まあ危険だわ。わたし、怖くなってきちゃった」
女子二人は、少しばかり驚かざるを得ない。日本各地に分布する、その毒蛇のことを知っているけれど、まだ一度も直接に見たことがない。
しかしながら、オチャコは勇気を奮う。
「探索に危険はつきものよ。でも大丈夫、トシヨンのことは、あたしがちゃんと守るからねっ!」
「うん、でも……」
トシヨンは、オチャコがマムシに立ち向かって噛まれるという、とても悪い光景を想像してしまい、ますます不安が募るのだった。
ここへ明智くんが、アドバイスをしてくれる。
「マムシという蛇は、なかなかに臆病で大人しいから、こちらから手を出さない限り、危険が及ぶことは少ないと思うよ。もし出てきても、騒がずにね。相手も人の気配を感じたら、すぐ逃げるだろうし」
「うん、分かった。トシヨン、聞いたでしょ。安心して」
「そうね。マムシを見つけても、わたし、叫んだりしないようにするわ」
こうして三人のお寺ミステリー探索が始まる。
広い境内の片隅に、奥へ通じている小路があるので、まずはそちらへ進む。桜の木が十本くらい並んでいて、もう緑の葉がずいぶんと茂っているのが分かる。
「なんか、凄くいい匂いがするわ」
「うん、これって桜餅と同じ香りよ」
「落ちた葉が、朽ちて発酵するから、こんな芳香がするようになるのだよ」
「へえ~、そうなのかあ!」
オチャコは、昔から桜の花を好きだけれど、今回は葉っぱも好きになった。
しかしながら、季節的に、今はイヤな虫が大量に発生しているので、あまり近寄らないことにする。この桜の小路を過ぎると、右手側に直径十メートルくらいの池がある。
色取りどりの模様をした錦鯉が五、六匹で集まって泳いでいるので、オチャコが「鯉さん、こっちにこい!」と駄洒落を言う。それで、明智くんとトシヨンが、つき合いで、軽く「あはは」と笑ってくれるのだった。
「餌はあげないの?」
「うん、いつもは特にあげていないよ。鯉は雑食性で、なんでも食べるから、オタマジャクシでも藻でも、あと池に落ちる昆虫とか、餌は豊富にあるだろうし」
「そっかあ、それにしても、マムシや桜の葉のこと、それに鯉のことも、ホントに光男さんは物知りね?」
「それほどでもないよ」
少しばかり照れる明智くん。
その一方で、トシヨンが憂いを含む表情をしている。
「食べられちゃうオタマジャクシ、ちょっと無情だわ……」
オチャコとは対照的に、しんみり語っている。そんな彼女も同じ十四歳。