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トシヨンとお揃い帽子

 日陰になっている駐輪場内へ戻って少し待っていると、明智くんとトシヨンが速足で歩いてくるのが見え始めた。

 二人とも、頭に帽子を載せている。今日、近畿地方の天気予報では、六月下旬並みの陽気になるように伝えられていたことを、思い出すオチャコである。

 その予報が見事に的中したのか、まだ午前中にもかかわらずに日差しが強く、人の目に見えない紫外線のはずが、まるでフルパワー全開モードの熱湯シャワーかのように、オチャコの頭へ降り注ぐ、「ウルトラヴァイオレット状態」とでも名づけたい思いに浸る。


「オチャコ、久しぶり!」

「やあ、お待たせしたね」

「オーライ! 二人とも、元気にしていた?」

「うん、元気だったわ」

「僕もそうだよ」


 トシヨンは、後ろ手に紙袋を持っているけれど、笑顔を見せて、それをオチャコの胸の前へ差し出してくる。


「え、なにこれ?」

「中を見て」

「うん」


 紙袋には、小麦色の帽子が一つ入っていて、それはトシヨンが被っているのと同じ色とデザインである。


「二つを一緒に買ったのよ。オチャコとお揃いになるから」

「へえ~、ありがとねトシヨン。でもお金が二倍も掛かったでしょ?」

「それがねえ、桃野木もものきスーパーで、一つ買ったら、もう一つが無料になる、ゴールデンウィーク期間の限定で大セールをやっていたの。だから、一つ分の代金で済んだわ」

「えっ、もう一つが無料ですって!?」


 オチャコは、「()()()()()()()という駄洒落みたいなキャッチコピーで宣伝している、あの桃野木スーパーは、相変わらず気前のよいセールをやってくれているものだわ」と、少なからず驚かざるを得ない。


「ねえオチャコ、ちょっと被ってみて?」

「うん、そうするよ!」


 元気に答え、小麦色の帽子を被るオチャコである。

 その姿を見たトシヨンは、少なからず満足するのだった。


「よく似合っているわ」

「トシヨンもよ。ねえ光男さん、どうかしら?」

「そうだね。シックな小麦色が健康そうな肌に、とてもマッチしているし、二人とも、まるで仲のいい姉妹のようにも見えるよ」

「そう、ありがとう」

「ふふふ」


 褒めて貰えたようなので喜ぶけれど、突如、オチャコが叫ぶ。


「ああっ、そうだ! あたしだって、お土産を用意してあるのだわ!」

「え、なに??」

「ちょっと待ってね」


 オチャコは、ここまで乗ってきたサイクリング車のカゴに入れてあるショルダーバッグの中から、箱を二個ずつ取り出して、トシヨンと明智くんに手渡す。


「横浜名物の焼売と、もう一つは東京名物のお菓子だよ、バナナのね」

「まあ、二つもくれるの?」

「そうだよ。トシヨンって焼売、凄く好きでしょ? それに光男さんはバナナ通なのだから、必然的に、この二つを選んだのよ」

「オチャコ、横浜にも寄ってきたの?」

「そうじゃなくて、両方とも、東京駅で買ったわ」

「ふうん、そこでも売っているのね」

「うん、東京駅は横浜じゃないけど」


 女子の会話は楽しく弾むけれど、「まず荷物を置いてこよう」と明智くんが提案した。それでオチャコたちは、明智家の主屋おもやへ向かうことにする。

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