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灼熱のヴァンパイア  作者: お茶もどき氏
8/13

攻勢

熱い。身体が燃え盛るように熱い。

どうしてこんなに熱い。

俺の血が沸騰するかの如く滾っているからだ。

心臓は速く脈打ち体中に血液を循環させる。

激しく燃え盛る炎さながらに体中に熱を巡らせる。

熱は血から筋肉へ伝播しやがて体の表面にも伝わっていた。


「ガァァァアアアアアアアッッ!!!!!!」


「!?」


腹の奥から絞り出すような、獣の咆哮のような声。

紛うことなき俺自身の声だ。


「なんだこいつッ、まだこんな力が!それにコイツの体温!普通の人間じゃねェな!」


俺は自らの首を掴んでいるヴァンパイアの右腕を渾身の力で掴んだ。


「この握力ッ!なんだこの力ッ!?」


ギリギリと締め付けていた腕から少し力が抜ける。

その瞬間、熱せられた血が俺の脳内へ流れ込むのを感じた。

意識と視界がはっきりしていく。次にやることはこの状況から抜け出す手段。

・・・いや、それだけじゃこの怒りは収まらない。

考えるのは・・・そう。こいつに一矢報いるための手段だ。

おあつらえ向きにポケットの中に入っている食器。それもナイフ。

右手でゆっくり取り出し逆手に構える。


「な、なにを!?」


狙うはこいつの左耳だ。

ナイフを持った右手を右に突き出し、振り子の原理で突き刺す。


「ウオオオオォォォォォッ!!!!!」


遠心力を利用し振りかざしたナイフはヴァンパイアの左耳に突き刺さる。


「グァアアアアアアアアアア!!?!??」


ヴァンパイアの悲鳴が上がる。腕から解放され互いに倒れこんだ。

急に解放されたことで咳き込む俺。正面には倒れたまま動かないヴァンパイア。

ネオからもらったナイフが奴の耳に柄の部分まで深々と突き刺さっている。

してやったと思った。頭部の周辺には血だまりができている。

鼓膜を破り、脳まで達しているだろう。一撃で仕留めることができた。


だが。


「て、テんメエッッ・・・!!よくも、よくもやってくれやがったなァッ・・・!!」


それは相手が人間だったらばの話だ。

あろうことか手を地につき立ち上がろうとしている。


「こいつッ!?なんで・・・!?」


昼間ネオが言っていたことを思い出す。

『ヴァンパイアの生命力は人間の比じゃない。』

人間だと致命傷となる怪我もヴァンパイアなら生存する。

だが脳を損傷しても起き上がるまでとはさすがに想定していなかった。


「そんなのアリかよ・・・ッ」


急いで立ち上がり、臨戦態勢に入る。

奴は耳に刺さったナイフを投げ捨て、立ち上がろうとする。

だが、このヴァンパイアはフラッとよろめき再び倒れた。


「あ・・・!?」


ズサッと倒れるヴァンパイア。俺も何が起こっているのかわからない。


「クッソォ!クラクラするぜ!あのナイフのせいかァ?この傷も治らねえしよぉ!?」


ネオはあの食器をお守りと言っていた。

もしかするとヴァンパイアに対して有効打となる武器なのではないか。

ならもう一度だ。ポケットに入っているフォークを取り出し構える。

今度はフォークを奴に突き刺すことができれば・・・


「おいおい!次はフォークを突き刺せば倒せる。と考えているんじゃあねえよなぁ?」


「なっ!?」


「ケケケッ!ガキの考えそうなこった。確かにこの状況で俺にそいつをぶっ刺せば俺はたまったもんじゃねえかもしれねェ。だが・・・」


ヴァンパイアは膝立ちになり挑発する手ぶりを見せながら言う。


「ふらつくとはいえ、今俺の両手は自由に動く。お前がそのちんけなフォークを俺にぶっ刺す前に、俺はお前の腹に風穴を開けられる。どうだ?試してみるか?」


「くっ・・・!!」


フォークの長さはせいぜい十数センチ。頭部に突き刺すには腕が届く距離よりもさらに内側へ入り込む必要がある。

一度冷静に状況を分析する。

少なくとも奴の脚がうまく動かないことは本当だ。もしそれが嘘なら口を利く前に俺を殺すことができる。ならばアレは挑発で自らの攻撃の射程範囲まで俺をおびき寄せようとしている。

俺の手持ちで奴にとどめを刺せるものは、恐らくこのフォークだけ。

挑発に乗って奴の周囲へ行くのはあまりにもリスキーだ。

そうなると俺が取るべき行動は・・・


「ヒャハハハッ!!逃げるかッ!それもいい選択だッ!だがなぁ、俺の結界はそうそう簡単にゃあ出られねぇッ!俺が回復するまで死ぬ気で逃げ回るといいさァッ!!」


踵を返して俺は全力で逃走した。

まずは全力で奴から距離をとる。家の近くだ、土地勘は間違いない。

そしてただ逃げるわけじゃない。俺には歴戦のヴァンパイアハンターがついている。

5分ほどだろうか。全力で走った後、ズボンのポケットからスマホを取り出す。

頭の先から汗が伝う。部活を辞めてからこんなに走ったのは初めてかもしれない。

だが気にしている場合じゃない。スマホのブラウザを起動し検索ボックスに打ち込むワードは・・・


あの店の名前・・・なんだ?


「えっと・・・あの店の名前・・・いやわかんねえ!なんか外国語だったような・・・」


まずい、店の名前が出てこない。このままでは助けも呼べない。


「駅周辺の喫茶店・・・・・数多すぎだろ!えーっと・・・あった!ここだ!」


外観の写真は昼間に俺が居た喫茶店で間違いない。

すぐ下にある電話マークをタップし発信する。

1コール、2コール、3コールしても応答はない。

大した時間ではないがその時は永遠のように長く感じた。


「頼む・・・アンタが頼みの綱なんだよ・・・!!」


俺の命が掛かっているのだ。常日頃から神様にでも祈っておくべきだったか。

そう思った時。


『はい、ラパン・ド・r・・・』


「繋がった!もしもし!ネオ!?」


それがネオの声だと認識した途端に間髪入れずに返事をした。


『・・・その声、ショウか?』


「いまはなんとか逃げてるけど・・・ともかく助けて!」


『状況説明が先だ。何があった?』


「ヴァンパイアに襲われてる!」


『・・・了解した。すぐに向かう。ともかく今は無事なんだな?』


「ああ。なんとか。」


『よし。電話は切らずにこのままにしておけ。』


わかった。と返事をすると今に至るまでの状況を説明するように求められた。

家に帰って宅急便を受けたらそいつがヴァンパイアだった。

隙を見つけて奴の耳にナイフをぶっ刺した。

挑発に乗らず全力で走って逃げてきた。

いきさつを説明すると少し間をおいてネオは返事をした。


『驚いた。豪く幸運だお前は。』


「ああ。訳も分かんないまま死ぬところだった。」


『それもそうだが・・・まぁ後でいいか。他に何か情報は?』


「えっと・・・そう!周りの景色が止まってる!俺とアイツ以外は時間が止まったみたいに動いてない。」


『時空干渉型の結界・・・まずいな。』


「まずいって、何が?」


『その結界に侵入するためには少し道具が必要だ。それを取りに行ってから助けに行く。』


「時間はどのくらい?」


『30分だ。それまでにそいつからお前は逃げ続けなきゃならん。』


30分だって!?

正直冗談じゃないのかと思った。

だがこうなればもうやるしかない。

30分逃げ続けてネオが来るのを待つ。


「ッ!!やるよ!やらなきゃ死ぬんだろ?やってやるよ!!」


『・・・!! いい心意気だ。』


半ばヤケクソではあったが、俺は生きることにしがみつくことにした。


『よし、必ず助ける。まずは今後の作戦を伝える。よく聞いておけ。』


ネオは逃げ続けるためのアイデアを話し始めた。

俺が今生きているのは奇跡に近い。だから今後は一度のミスが文字通り命取りとなる。

絶対に生き残ってやる。

俺はそう決心しながらネオの言葉に耳を傾けた。

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