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灼熱のヴァンパイア  作者: お茶もどき氏
5/13

勧誘

ネオに連れられ、部屋を出て階段を降りる。

シックな雰囲気の廊下を抜け、突き当りのドアを開くとそこは喫茶店のフロアだった。

客はいないし、照明も付いておらず、店員もいない。静寂に包まれた店内で椅子は全てテーブルの上に片付けられている。

閉店している喫茶店を買い取ったんだろうか。


「ここ、喫茶店だったんですか。」


「ああ、俺の店だ。今日は休みだがな。」


危なかった。思わず失礼なことを口走るところだった。

しかしよく見ればテーブルの上や椅子、ソファー席に至るまで埃一つ見えないほど清掃が行き届いている。

俺が寝ていた部屋も同じように清潔さがあった。よほどのキレイ好きなんだろう。


「あと、敬語じゃなくていいといったろう。そういう言葉遣いされるとムズムズするんだ。」


「わ、わかった。気を付ける。」


部活をやっていた頃は上下関係が厳しかった分そういう癖が抜けないのだろう。

敬語を使わないで怒られたことは初めてだった。

少し変わった人だけど。悪人ではない。そう思った。


「よし、やるか。オムライスでいいな?」


「あ、ああ。任せるよ。」


「まだ言葉が固いな。まぁ適当に座って待っててくれ。」


ネオは頷くと冷蔵庫から材料を取り出す。

近くのテーブルから椅子を下ろし腰かけて待つ。

厨房からは食材をを切る音が聞こえる。熟練であることが音で分かる。一切の無駄がない。

続いてガス台が点火する音、油のはねる音が続いた。

他人が作る料理というのは待つことも楽しみの一つだ。

調理音は俺の空きっ腹を刺激するには十分で、待っている間に漂ってくる香りはさらに空腹を倍増させた。

そんな事を考えているうちに両手に皿を持ってネオが厨房から出てきた。


「どうぞ、お客様。」


気取った言い方で目の前に料理を置いた。

オムライスは一目見て「美しい」と感じざるを得ないフォルムだ。

玉子の上にかかったとケチャップのコントラストは眩いほどの輝きを放っており、そこから下に覗くチキンライスは完璧な炒め具合であることが見るだけで分かる。自宅で作ってもこうはならないだろう。

正直これを崩して食うのは気が引けるほどの美形であり、オムライスの完成形と言わざるを得ない。


・・・いやテンション上がりすぎだとは自分でも思う。しかしそう思わせるほどこの料理は「完成」されている。


「そんなじーっと見てないで先に食ってればいいだろ。」


グラスに水を注いでネオが持ってきた。

ネオが戻ってくるまで俺が食わないでいたと思っているようだ。


「いや、そのなんていうか、美味そうなのが見た目で分かるなって。」


正直な感想を述べる。


「そりゃそうだ。じゃなきゃ飯屋なんかやってられん。」


ネオは自分で作ったオムライスをスプーンで口に放り込みながら言った。


「うん、我ながら悪くない出来だな。いつも通り。」


俺も恐る恐るスプーンを手に取り料理を口に入れる。


「・・・!!!!!!!」


――そこは別世界だった。

一口頬張ると意識は遥か彼方の風景へ誘われた。

優しさに満ちた、母の手に抱かれているような安らぎの空間。

圧倒的幸福感。周囲には花が咲き誇り優しい風が頬を撫でる。

楽園。そう呼ぶにふさわしい場所へ俺は・・・


「・・・・・はっ!?」


ふと現実に戻ってきた。

思わず感想も出ないほどの美味でこれほどのオムライスは食べたことが無い。

二口目にもまた先ほどの感覚を覚える。味わい深く、食うほどに腹が減る。

刻まれた鶏肉や野菜たちの豊潤な旨みを玉子が優しく包み込む。

スプーンを持った手が止まらない。次々に口に料理を運んでいく。

そうしている間に完食してしまった。非常に名残惜しい。おかわりを頼んだら作ってくれるだろうか。

いやいやいや、そこまで図々しいことはできない。またの機会にしよう。この店に来れば食えるなら二度と食えないわけではない。


「すごい食いっぷりだな。よほど腹が減っていたんだな。」


半分ほど食べ進めていたネオが口を開く。

・・・俺倍くらいの速度で食い進めていたのか。


「すごくおいしかった。また食べに来ても?」


「ああ、構わない。」


そうだ代金を払わねば。

これほどの料理を食わせてもらったんだ。

喫茶店といえど、3000円は払ってもいい。

そう思わせる一品だった。

ポケットから財布を探そうとすると


「代金はいい、俺の奢りだ。それより俺に聞きたいことがあるんじゃないのか。」


そういえばそうだった。

あまりにも美味いオムライスだったから本題を見失うところだった。

ハッとした顔を見られたのかネオは少し笑っているように見えた。


「まず、ヴァンパイアってなんですか。違うのは日光に当たっても平気なくらいと言っていたけど。」


「そういえばそれを説明していなかったな。ヴァンパイアは外見上は人間と全く同一の生物だ。しかし寿命は人間よりはるかに長い。起源は不明で人類史の裏には必ずその存在が仄めかされている。そして一番の特徴は人間を喰らうことだ。」


「人類の捕食者・・・上位種って事?」


「奴らはそう自負してる。俺はそう思わないがな。他にも常識外れの身体能力を持つ。アスリートなんかとは比較にならないほどの跳躍力や、馬鹿力なんかがいい例だ。」


コミックヒーローみたいなトンデモ能力って事か。

ますますフィクションみたいな存在だ。


「正直信じられないけど、信じるしかないよな。」


「現に君はそれで怪我をしている。身体が証拠だな。」


「じゃあ次。ネオはどうして俺をここへ?普通人が倒れていたら救急車でしょう?ヴァンパイアなんて普通じゃない奴に怪我させられたんだから呼べなかったってこと?」


口に入れた料理を飲み込んでからネオは答えた。


「まぁそれもある。救急隊に事情を説明するのも面倒だしな。だがそうじゃない。」


一呼吸おいて


「理由は三つある。一つ目。ヴァンパイアはその存在を隠蔽されている。警察でも専門の部署と俺らハンター、そしてハンターが所属する組合しかその存在を知らない。」


「どうして?怪我人だって大勢いるんだろう?」


「魔女狩りが起きないようにだ。」


「魔女狩り?」


「比喩だよ。中世ヨーロッパじゃあ不吉なことが起こると街の怪しい奴を吊し上げて、そいつを魔女ってことにして「魔女のせいだ」って言って処刑した。そうして何万人って無実の人間が殺された。現代でもそれがヴァンパイアに置き換わって起こる可能性がある。」


何かの本で読んだ気がする。流行り病とかが起こると魔女のせいにして処刑したとかそんな話。


「でも昔の話だろ?今だったらそんなに・・・」


「また魔女狩りが起こらない、そう言い切れるか?」


ネオの目は本気だった。


「最初は教会が民を救おうとしたんだろうよ。だが始まってみればどうだ。互いに疑心暗鬼になって殺しあって、町が一つ無くなったなんて話もある。悪を裁くという大義名分の前では人は盲目になるいい例だ。」


俺がある日突然無い罪を着せられて処刑される なんてこともないとは言いきれない。

現に俺は根も葉もない噂を流されて部活を辞めた。

噂話で信じるとまではいかなくても距離を置くとか、人の行動は変わってしまうのを俺は身を持って知っている。


「無くは無い・・・話なのか。」


「そうだ。二つ目の理由はヴァンパイアが持つ異能に起因する。」


「異能?吸血とか以外に?」


「ヴァンパイアはこの人間社会に紛れ込んで人を捕食する。だが能動的に人目につかないところへ連れ込んでってのは手間がかかる。だからヴァンパイアは捕食活動の際、周囲に人を寄せ付けないように結界を張る。」


「結界・・・あいつもそんなこと言ってたな。」


「ヴァンパイアが使う"人除けの結界"は食事を"見られないようにする"ための結界だ。内部に侵入すると吐き気や眩暈を起こして最悪気絶する。」


「でも俺、何ともなかった。そりゃ腹を思いっきり蹴られたときに吐いたけど、気分が悪いとかそんな感じはしなかった。」


「そこなんだ。三つ目の理由は。」


ネオが真剣なまなざしで俺を見る。


「え?」


「人間は本能的に結界には近づかず、自然と避ける。そういう第六感のようなものが備わっている。しかも内部に入ってもまともに動けはしない。だが君はどうだ。」


「どうって・・・」


「結界内に踏み入り、行動の制限も受けない。しかもヴァンパイアの蹴りを受けて痛み程度で済んでいる。食欲も旺盛。正直普通じゃない。」


普通じゃないって?

少し傷ついたが反論はある。


「俺、昔から運動部で身体が丈夫なんだ。そういう事じゃないの?」


「その程度でヴァンパイアに対抗できるなら奴らはとっくに絶滅してる。いいか?君は結界の影響を受けずに行動できる特殊な体質なんだ。だから君を保護して話を聞く必要があった。O.E.R.V(オーブ)辺りに見つかると面倒なことになるしな。」


なにやら事態は大事(おおごと)らしい。

特殊体質といわれても正直ピンと来ない。


「それって、珍しい?」


「ああ、かなり。」


"かなり"と来た。俺はヴァンパイアハンターの界隈ではよほど稀有な体質らしい。

となると話が読めてくる。


「で、だ。ここからが本題だ。」


恐らくは俺を助けたのは偶然。だが俺の負傷具合を見て察したネオは俺を自宅で保護した。

その理由はきっと


「承。俺と共にヴァンパイアと戦って欲しい。君の力は俺にとって必要なものだ。」

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