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灼熱のヴァンパイア  作者: お茶もどき氏
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それは燃え尽きず

そうしてネオは病室を後にした。

そのすぐ後に姉さんがやってきた。

仕事を中断して病院まで飛んできたらしい。

医師からの説明を一緒に聞いて大事はないことを知ると安心したようだった。


病院を出るころにはすっかり夜だった。

車の助手席に乗り込んで帰路に着く。


「帰りはお弁当買っていこっか。何がいい?」


「カワノの餃子弁当がいい。姉さんも好きだったでしょ?」


「いいね、カワノ。私はから揚げにしようかな。」


そんな話をしてる間も、姉さんはずっと怒らなかった。


「あれ?鍵開いてる?」


「あっ、それは・・・その・・・」


「あのねぇ。空き巣にでも入られてたらどうするのよ。ったく。」


家に着いて、玄関の鍵が開けっ放しだったのは少し怒られたけど。

でもすぐ笑っていた。


リビングで弁当を広げ手を合わせ食べ始める。

テーブルをはさんで対面の姉さんはテレビを見ながらから揚げを頬張っていた。


「最近この女優よく出るねぇ~。バラエティウケがいいんかな。」


「どうだろう。俺はそんなにかも。」


「よね~。な~んかカマトトぶってる感じ。」


いつも通りだ。いつも通りなんだ。

姉さんは俺に何があったとか、そういうことを聞かない。

無関心じゃない。意図的に聞いてこないのだ。

俺の手が止まってるのに気づき姉さんは問いかけた。


「どうしたん?餃子ハズレだった?」


そんな訳ない。うまい。

きっと分かって聞いてくる。

俺から話し出すのを待っている。

ずっと、ずっと前から。

だから。俺もケリをつけなきゃいけない。

前に進むために。


「その・・・さ。姉さん怒らないのかなって。」


箸を置いて姉さんの目を見る。

すると姉さんも箸を置いた。


「ん~~。それは何に対してよ。玄関の鍵開けっ放しだったのは言ったでしょ。私のチーズケーキ勝手に食べたこと?靴下を洗濯出すとき裏返しのままのこと?それとも・・・」


「全部だよ。学校行かなくなって、昼間からほっつき歩いて、病院に運ばれて。」


「まぁ褒められたことじゃないね。」


「それだけじゃない。俺のせいで姉さんの人生めちゃくちゃだ。彼氏だって作ったこと・・・」


言い切る前に姉さんの箸が頬を掠めていった。

後ろを見ると箸は壁に深く深く突き刺さっている。

ゆっくり面を向き直ると姉さんは鬼の形相だった。

まずい。忘れていた。姉さんに彼氏の話は禁句だった。


「承くんよぉ~?それは言っちゃいかんでしょう?」


ビビるな。今日はヴァンパイアに二度も殺されかけたんだ。

アレに比べたら姉さんなんか目じゃない。

・・・いや姉さんのほうが怖いかもしれない。

でも姉さんの気持ちを、本音を聞かなきゃ、俺は前に進めない。


「でもそうでしょ!俺のせいで姉さんの人生を縛って!」


「そうじゃないっての!!」


姉さんは立ち上がり俺の胸倉を掴み引っ張りあげた。

こんなに怒ってる姉さんは初めてみたかもしれない。


「アンタ自分のせいで私が苦労してるって思ってんの?自分が私にとって邪魔だっていいたい訳!?」


「違う・・・違うんだよ姉さん。」


「何よ!言ってみなさいよ。」


深く息を吸う。

呼吸の音だけが部屋に響く。

言いたいこと。聞きたいこと。

それを頭の中で紡いで言葉にする。


「姉さんがわざと聞いてこないのは分かってた。姉さんは優しいから。」


「・・・。」


「俺が学校に行かなくなった理由も、姉さんは聞かない。だから俺、それに甘えて。」

「一日毎に自分がどんどん腐っていくのがわかった。底のない沼に落ちていくような。」


「姉さんが俺を邪魔なんて思ってないことはわかってる。でも俺がいるせいで姉さんのやりたいことができないんじゃないかって、考える時間があるほどそう思うようになって。」


「アンタ・・・ったく。」


姉さんはそっと手を離した。

頭の後ろを掻きながら姉さんはバックからいくつかの書類を出した。


「まず、私は承を全面的に信用してる。やりたいことを実現させるために私は助力を惜しまない。だから、学校行かなくなっちゃったのも承が決めたことで何か理由があるんだと思った。」


その書類は通信制高校のパンフレットだった。


「学校を変えてみるのもアリかなってさ。いくつか調べて見たのよ。ギリギリまで承から話してくれるのを待って、ダメならこっちで決めたとこに転入させるつもりで。中卒じゃなかなか今の時代厳しいから。」


「あんだけ野球一筋だったのにさ。もう全然って感じでしょ。多分部活で何かあったんだろうなってのは見当つくよ。この前の足のケガからだもんね。そのケガも監督から聞いたんだ。『他のチームメイトが故意に起こしたケガ』だって。でも承には聞かなかった。文字通り傷口を抉るような事したくなかった。」


「姉さん・・・。」


「んでまぁ、上級生と喧嘩したのもさ、褒められたことじゃないけどよくやったと思う。傷ついたプライドっていうの?そういうのはきっちり取り立てたんだろ?」


「まぁ、うん・・・。」


「なら上出来だ。けど消えた火はそんな簡単に着きやしない。そういうのはきっかけが必要なんだ。だから私はずっとそれを待ってた。そんだけ。」


意外だった。あの件はさすがに自分でもやりすぎたとは思っていた。

それどころか姉さんは俺のほうを心配していた。

気づけば涙がこみあげてきていた。

自分の情けなさと、姉さんの本音に。

必死でこらえる。きっとそれすらも見透かされ姉さんは続けた。


「だからさ、私が彼氏作らないのは承がいるからじゃないの!私が生涯で愛する男は承を除いてたった一人なんだから!」


「なんだよ、それ。」


「ほら食べよ。冷めた餃子はおいしくないからね。」


「うん・・・いただきます。」


その時に食べた餃子は少しだけしょっぱい味がした。

そんな僕らを、仏壇の父さんの写真はずっと暖かく見ている気がした。





目覚ましの音で目が覚める。

いや正確には目覚ましが鳴るより数分早く目が覚めていた。

ベッドから身を起こしジャージに着替える。

水をコップ一杯飲んだら顔を洗って家を出る。

朝一のランニング。

少し前までの朝のルーティンだ。

せいぜい半年程度では体に染みついたこれはそう簡単に抜けないらしい。

いつものコースを自分のペースで走る。

少し息切れがしやすいのはやはり体が鈍っているようだった。

酸素を体に循環させるイメージをする。

そうすると効率的に呼吸ができる。気がする。


昨日あの後、湯船につかりながら考えた。

俺は姉さんのために何ができるだろうか。

いつも笑っていてほしい。唯一の肉親だからというのもあるが姉さんにはいなくなってほしくない。心からそう思う。


その時昼間の出来事が脳裏をよぎった。

ヴァンパイア。

奴らは闇に紛れ人を食らう。

自分が今までヴァンパイアに出会わなかったのは単に運がよかったのだ。

なら姉さんは?この先襲われないとも限らない。

力がいる。奴らを俺一人でも倒せるほどの、姉さんを守るための力が。


『承。俺と共にヴァンパイアと戦って欲しい。』


・・・天啓とはこういうことを言うのだろうか。

自分の為すべきことがわかった気がする。

体が温まってきた。そろそろ上がろう。

明日からはまたあの鍛錬の日々へ戻る。

しかし自分のためじゃない。

誰かのために

姉さんのために

俺は戦う。


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