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灼熱のヴァンパイア  作者: お茶もどき氏
11/13

人ならざる者

「さて、これで大人しくなったか。」


ネオはぐったりした様子のヴァンパイアを肩に担ぎながら呟く。

驚愕だ。あれだけの化物を彼はほんの一瞬で仕留めた。

ベテランのハンターと言っていたが、想像していた十倍ほどレベルが違うように思えた。

同時に恐ろしくも見える。化物を殺す者がいたのならば、そいつもまた・・・。


「そいつ、殺した・・・の?」


恐る恐る尋ねる。


「いや、死んじゃいない。もし死んだのならヴァンパイアは灰になって骨も残らない。」


灰になる・・・ほんとにフィクションと同じじゃないか。


「それじゃあ、今そいつは?」


「意識はある。だが身体を動かすことも深く思考することもできないはずだ。このナイフにはそういう性質がある。」


ふとネオが俺にくれたステーキナイフを思い出す。

アレを奴に刺した時身体が麻痺した様子だった。

恐らく同じ物なのだろう。


「じゃあそいつはどうするの?」


「連れて帰って尋問する。お前が狙われたことを含め背後関係を吐かせる。まぁやるのは俺じゃないがな。」


「そう・・・なんだ。」


聞いておいて曖昧な返事しかできない自分に少し情けないと感じてしまった。

そうだな。本当に情けない。

昼間から街をほっつき歩いて、死にかけて、助けられて、また死にかけて、また助けられて。

威厳も何もあったものじゃない。

そう思考していると徐々に闇の中へ引きずり込まれるような感覚へ陥った。


「それより承・・・承どうした?しっかりしろ!おい!」


眠くなってゆくようなまどろみの中にいる感覚。

恐怖と安心感と疲れと快感がごちゃ混ぜになったような気分の中ネオの声が遠くなっていく。


「出血のせいで貧血になったか! しっかりしろ! もう少しの辛抱だ! 承!」


ああ、ネオは俺を心配しているのか。

申し訳ないな。そう言葉に出る前に俺の意識はプツンと途切れた。





その様子を遠くのビルから観察する者がいた。


「へぇ・・・生き残った・・・面白いじゃない。」


緑色の瞳をした少女は微笑む。


「確実に死んだと思ったけど。意外や意外。運と仲間に恵まれているのね。」


浮世離れした白銀の髪をなびかせ、結界の外へ歩き出す。


「火上承・・・そして死神・・・フフッ、いいネタになりそ♪」


空に浮かびあがりそうなほど、文字通り浮足立つ気持ちのままに歩いてゆく。


「私も会ってみよっかな。あのラッキーボーイに。」


少女はそうつぶやくと、そのまま街の雑踏の中へ消えていった。





消毒液の匂いがする病院というのは好みが分かれるところだろう。

正直言って俺はあまり好きじゃない。この雰囲気は昔を思いださせるからだ。

とはいえ病室が不潔ならば怪我人に新たな病を呼び込むことになりかねない。

病を治すことが病院の責務ならば、この清潔に保たれた景色は合理的に他ならない。

もっともここは病院ではないのだが。


「ご苦労だったな。ネオ」


背後からの聞き覚えのある声に振り向く。

低音の威厳のある声をした壮年の男。

そこに居たのはキャソックを身に纏った司祭の男。

この男の名は "パトリック・ジョージ・アレクサンドリア"

名目上は俺の上司に当たる男だ。

同時にO.E.R.V(オーブ)日本支部の局長でもある。


「すまないな。教会に怪我人まで運び込んで。」


「構わんさ。一般の病院では説明が面倒だろうしな。ヴァンパイアの秘匿を是とする我々としては最善の選択だっただろう。」


「助かる。それで、尋問はどうなってる?」


「意外と早く終わったよ。尋問官としては拍子抜けだったがね。」


「そいつはまた。」


彼は捕縛したヴァンパイアから情報を引き出す尋問官としての顔も併せ持つ。

普段は温厚な男だが、時折覗かせる荘厳な雰囲気は他者を圧倒する程である。

"泣き喚きながら恐怖に身を悶えるほどの圧"というのは彼から尋問を受けたヴァンパイアの談であった。


「先に報告しておくが、今回も"金色"の情報は得られなかったよ。」


「そう・・・か・・・。」


"金色"

O.E.R.V内の識別名で"金色のヴァンパイア"と呼ばれている男の事だ。

俺はこの男をもう十年以上追っている。

だがその十年余りで見つかったのはほんの僅かな手がかりだけ。

それも手がかりとも言えないような判然としない情報ばかり。

しかし奴は実在している。まだ生きている。その事実が俺の足を前に進ませる原動力となっていた。

奴を・・・俺は・・・


「しかし"情報屋"と繋がっている証言を得られた。後でまとめた資料を渡す。何かの役に立つはずだ。」


「ああ、ありがとう。」


「それと、承君の治療に当たった安藤君から興味深い報告を受けているよ。ぜひ君にも話したいとの事だ。」


「興味深い・・・ね。」


安藤。彼女の事だからろくでもないことだろうが・・・

しかし優秀なスタッフだ。聞いておくに越したことはないだろう。


「詳細は安藤君本人から聞くといい。では、私は用事があるので失礼するよ。」


「分かった。ありがとう。」


後ろ手に組みながら優雅にも見える後ろ姿で廊下を歩いていく。


「おっと。そういえば。」


突如足を止め俺の方へふり返る。


「今度は何だ?」


「報酬は承君と折半の方がいいかい?それとも・・・」


「それを決めるのがアンタの役目だろう。」


"確かに。"とでも言いそうな素振りを見せまた廊下を歩いていく神父。

なんともまぁ威厳があるのかないのか。底が知れない男だ。

しかしそこが彼の人望の厚さを物語っている。


さて、俺は承がいる治療室へ足を運ぶ。

"安藤"というのはO.E.R.V(オーブ)及びこの教会に所属する治療術のスペシャリストだ。

同時にヴァンパイアの研究においては名の知れた人物でもある。

彼女は何というか・・・変わった人物で、話すと疲れるからあまり話したくないのが本音だ。


ドアの前に着くと深呼吸して息を整える。

ポケットからカードキーを取り出しドアの横にあるスキャナーにかざす。

ロックが解除される音と同時にドアが開いた。


「失礼する。」


室内は奥の部屋と今入ってきた部屋とがガラスで仕切られており、奥の部屋にはベッドで寝ている承の姿が見える。

他にも彼の近くには大きな機材がいくつか置かれている。ケーブルや管が承につながっているのが見てとれた。


「う~ん・・・非常に興味深いね・・・フフッ・・・うーんなるほどね・・・フフフフ・・・・」


一方、こちらの部屋側ではガラスの手前にあるモニターとテーブルの上にある資料とを見比べ、ブツブツと独り言を呟く女性がいる。

部屋に入ってきた俺には気づいていないようだった。いつものことではあるが。


「ミラ、来たぞ。」


すると彼女の頭のてっぺんの毛が生きているかのように跳ねた。

同時に俺の方へ振り向く。


「おっ!やあやあ来てくれたねネオ!ついに私の非検体になってくれる気に・・・」


「ならない。何度も言っているだろう。承の容態について聞きに来た。」


隙を見つければ俺を実験の材料にしようとする彼女こそO.E.R.V(オーブ)日本支部が誇る治療術師兼技術部顧問。

或いはマッドサイエンティスト"安藤ミラ"。

こと治療術や遺伝子研究においては日本有数の実力者なのだが・・・


「なんだなんだそれは残念だよ。しかし代わりの非検体を用意してくれるとは君も隅には置けないね!」


奥の部屋に眠る承を指さしながらそう言った。

もしかして承を非検体として引き渡したと思っているのか・・・?

まずい、このままでは承が本当に実験材料にされてしまう。

早めに話を切り替えよう。


「お前に承を渡した覚えはない。それで、パトリックがお前から"興味深い報告"を受けた聞いたが。」


「そうそう!そうなんだよ!君が運び込んだ承君だけどね、このデータを見てほしい。」


様々な数値が所せましと印字された紙を渡された。

恐らく承の身体情報なのだろうが・・・


「俺は専門外だ。わかるように口頭で説明してくれ。」


「ふむ、それもそうだね。見てほしいのはここの数値だ。」


ミラが紙面のある数値を指さしながら説明する。


「これは簡単に言うと"細胞の新鮮度"と言えばいいのかな。それを示している。」


「"細胞の新鮮度"?どういう意味だ。」


「人間の細胞というのは有効期限があってね、肌なんか大体一か月。血液は大体四か月。骨は大体五ヶ月で新しい細胞に入れ替わるとされている。」


「髪が抜け落ちたがまた生えて来たり、爪を切っても伸びてくるようなものか?」


「そうだね。新陳代謝っていうんだけど聞いたことあるだろう?」


「ああ、だがそれとこのデータになんの関係がある?」


「そうだね。承君の場合はね"新しすぎる"んだよ。」


「・・・??」


"新しすぎる"? どういうことだ。


「通常一日の新陳代謝で入れ替わる細胞は身体全体のたった2パーセントとされている。でも彼の"全身"の細胞はついさっきの出来立てホヤホヤなのさ。いや、別の細胞に置き換わっているという方が正しいかもしれないね。」


「どういうことだ。承が別人になったって事か?」


「データ上はそうなるね。でも各バイタルやその他の数値に異常はない。もちろん脳波にも異常はないし記憶の欠落もないんだろう?とするとこれまたデータ上はごく普通の高校生なのさ。」


「色々と説明がつかないな。」


「でも極一部分だけ通常通りの細胞鮮度を示した箇所がある。」


「そこは従来の細胞のままという事か?」


「そういうこと。該当箇所は右手の親指を除く各指先、及び右の手のひら中央部分を横切るような太さ1.5センチほどの直線。これなんでだかわかるかい?」


「うーん・・・わからん、説明してくれ。」


「承君が持っていたステーキナイフ。教会製の聖具(アーティファクト)もどき。確かキミが彼に渡したんだってね。ヴァンパイアの耳にぶっ刺したって聞いたよ。」


「ああ、そうだ。」


「あれの持ち手の直径が大体1.5センチ。武器として使用するなら握りこむだろう。そうするとピッタリ同じ場所に接触する。」


聖具(アーティファクト)に接触している部分のみ細胞が変化しなかった・・・なるほど、読めてきた。」


「まぁ想像通りだよ。聖具(アーティファクト)はヴァンパイアに対して有害な作用をする。自然治癒の阻害なんかはその典型だね。」


「で、本来ならそれは人間には作用しないはずだが、何故か承にはその反応が現れた。」


「それだけじゃない。そもそも全身の細胞が全く新しいものに同じタイミングで置き換わるなんて普通の人間じゃない。代謝がいいってだけじゃ済まない・・・だからほぼ間違いないと言っていいね。」


「ああ、あまり信じたくはないが。」


「火上承。彼はヴァンパイアだよ。」

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