学園生活の始まり
学園生活についての説明が長いです。
いよいよエルム学園に入学することになった。学園は王都の王宮の近くにあり、全寮制である。貴族寮と平民寮は当然別で男女も別棟だ。貴族寮は一人一人個室になっており、それに側仕えの部屋がある。炊事場やお風呂やトイレも付いている。この辺は毒殺などの対策といえなくもないらしい。警備も厳重だ。
それに対して平民の部屋は2人の相部屋で、側仕えは居ない代わりに掃除、洗濯などは寮母さん達がやってくれる。トイレは別であるが、食事は食堂で、お風呂は共同である。共同の炊事場もあるので何かを作って食べるのもアリのようだ。
自分のこの世界の母は貴族だったし、コロンバス家自体は貴族のような暮らしだったが、前世の暮らしも水準から言えば貴族のようなものだ。私は前世で庶民だったから、全てに貴族らしい暮らしよりも庶民の暮らしの方がなじみが良い。なので、父親が庶民だからと庶民の寮を希望したところ、すんなりと承認された。ミリーゼには渋い顔をされたけど、どうせ歩いて行ける距離に住むのは今までと変わらない。
この世界にも1週間、1カ月、1年という概念があるが、1週間は6日で1カ月は4週間、1年は16カ月である。季節もあって、春夏秋冬それぞれ4カ月くらいが該当する。雪も降るが、王都はそれほど積もったりしないのが普通だ。
授業は1週間のうち5日間で、午前に座学、午後に実習というのが基本になっている。各季節には1カ月のお休みがあるので、その間は家に帰る子が多い。
3年間で卒業し、その後は専門職の学校に進むか、志望する施設に通うことになる。なお、この3年間で嫁や婿を探して婚約する人も多い。
寮には開講の3週間前には入れるようになっていて、その間に部屋の準備をして寮と学園内を見学し、生活するのに慣れるようにする。
寮での私の部屋の相方はフェルミーナという可愛らしい名前の、男前な女の子だった。顔立ちは端正なのだが、それが一層精悍な感じを与えるし背丈は170cmくらいある。
こちらから名乗り、挨拶をすると慌てて頭を下げて「フェッ フェルミーナ・アインズです。よろしく・・お願いします。 フェルと呼んでください!」と言われた。
良く考えてみると、先ほどの私の挨拶は貴族のものだった。左脚を軽く後ろへ引き、右手は胸へ、左手はスカートをつまみ、軽く膝を曲げながら優雅に一礼し、口上を述べるというやつ。
「あ~、ごめんなさい。私つい癖で・・。
平民なのは間違い無いのよ。お気遣い無く。ロルフィと呼んでね」と言って笑うと、相手は引きつった笑いを浮かべた。
改めてよろしくと言い、握手のつもりで手を出すと、おずおずとしながらも握ってくれた。どうも警戒されてしまったらしい。
恐いと思うのは知らない事があるからだ。取りあえず自己紹介をすることにし、コロンバス商会の娘であると説明した。するとフェルミーナは、
「あ~、輸入品を扱っているあそこの。 私は薬剤商をしているアインズ商会の娘です」と言った。
えっ、薬剤商って言った!?
思わず手を取って、
「えっと、どんなお薬を商ってるのかな! 是非教えてほしいなっ」
とたんに食いついた自分にドン引きしていたが、気を取り直して教えてくれた。
「え~と、・・ 一般的な薬と、魔法薬を~」
え、今「魔法薬」って言ったよね。 言ったよね!
「どっ、どんな魔法薬なのかな?」
自分が知っている内容について興味を持ってくれたことで落ち着いたらしく、その後いろいろな事を話してくれた。魔法薬は魔石を溶かして作った薬の総称で、様々な用途に使われている。魔石を扱う上で魔力は必須なので彼女自身も魔力持ちである。まあ、それはこの学園に来たことからも明らかではあるのだが。
うちとけてみると、フェルは初見の印象のとおり、気さくな性格であることが分かった。1年経ってもまだ男だった部分が消えていない自分としては大変に好ましい。で、5日経った時点で指摘されてしまった。
「ロルフィって見た目は可愛いくせに、虫とか平気だし、物怖じしないよね。
犬に吠えられても平気だし、おまけに朝走ったり、筋トレしてたり・・
お母さんって、騎士かなにかだったの?」
いや、そんな訳ないですよ。母様は侯爵家のご令嬢です、というのもはばかられるので
「あ~、私の家って地方だから、結構そういうのは慣れているんだよね。
犬も飼っていたし、虫もあちこちに居るし~。
馬は・・・お隣さんで飼っていたので良く乗っていたし?」
そんな事を話しながら学園内を歩いていたら、2人の女生徒に囲まれたミリーゼとバッタリ遭遇した。
「あっ、ミリーゼ、お久しぶりっ」と手を上げると
「あっ、お久しぶり、じゃないでしょっ! 何で寮に来てくれないのよ」と怒られてしまった。
「え~っ、だって貴族寮って貴族しかいないじゃない。
私みたいな平民には敷居が高いというか~」というと
「何言ってるんだか・・」と呆れた顔をされてしまった。
あ、そうそう、周りに居る女生徒って貴族だよね。
「申し遅れました。春の精霊リューシュ様のお導きにて、お二人に出会えた良き日に感謝を。
わたくし、ロルフィーナ・コロンバスといいます。以後お見知りおきを。」と言って貴族の挨拶をした。挨拶大事。
慌ててフェルミーナも頭を下げて「フェルミーナ・アインズです。よろしくお願いします。」と挨拶していた。
2人の女生徒があっけに取られた顔をしてこちらを見ているので思わず顔をかしげると、ミリーゼはその2人に私を示しながら
「私のいとこなの。顔そっくりでしょ?」と言って笑った。
どうも顔が同じなので驚いていたようだ。言われて納得したのか、ようやく再起動して挨拶を返してくれる。
「春の精霊リューシュ様に感謝を。お初におめにかかります。
マリアレッタ・ファインセール・ローレンスです。」
「私はサリアレッタ・ファインセール・ローレンスです。双子の妹になります。」
おおう、似ていると思ったら双子だったのね!
隣のフェルミーナから小さく
「同じ顔のペアが2つも・・・」とつぶやくのが聞こえ、思わず吹き出してしまった。
どうやら双子ちゃんはミリーゼの隣の部屋らしく、2人で1つの個人部屋を使っているらしい。別にお金が勿体ないとかじゃなく、その方が安心出来るからのようだ。
ローレンスというのはローレンス侯爵のことで、ミリーゼの両親とは同格だ。交流もあり、私も当主は屋敷で見たことがある。寮では隣同士になった事もあり、早速仲良くなったみたいだ。ついでに私達も便乗して仲良くしてもらおう。