お馬さんのこと
ちょっと短めですが、切りが良いので。
ミリーゼの屋敷には馬が居る。乗馬したり、馬車を引かせたりするためだ。本来、乗馬用と馬車馬は別の能力が必要なのだが、この世界では同じ馬が役割を担っている。
で、乗馬については嗜みの一つとしてミリーゼも自分も習っている。
乗馬するにあたっては、やはり馬との交流が大事である。馬だって見知らぬ人を乗せるよりは普段から見知った人の方が安心なのだ。そしてこの安心というのが大きい。驚くことがなければ事故は起こりづらい。それに馬だって見知った人には配慮するものなのである。
この世界、自動車なるものはまだ発明されていない。でも「遅れてる」とも言えない。この世界の馬は大変に力が強く、耐久性も高いので移動手段として問題無く機能しているからである。前世の馬だと胃が小さいので適切な間隔で給餌と給水と休憩をさせる必要があるが、今世の馬は胃も大きく、この世界ならではの高カロリーの草を食べさせることで随分と遠くまで走ってくれる。どうも魔力も使っているらしい。ある意味、魔物である。
冬のある時に馬が疝痛を起こしていると厩務員さんから報告があった。行ってみると乾燥感がある丸い形の糞がコロコロしている。水と運動不足を疑って、水を飲ませて引き運動を30分ほど行い、状態が良くなってきた事を確認して口から管を使ってたっぷり油を飲ませておいたら、すっかり元気になった。どうもいつもの厩務員さんはしばらくお休みを取っており、代わりに来た人は不慣れだったらしい。私がテキパキと措置しているものだからビックリしていた。
そんな事があったせいか、その馬(レルという名前だ)は私が乗馬しにゆくとこちらをじっと見て、自分をアピールしていた。う~ん、私はここの娘じゃないんだけどね~。まあ、いっか。
馬車は馬自体の力が強いためか、前世のものよりも大きめのものが多い。緩衝装置もそれなりに進んでおり、乗り心地は悪く無い。街には乗り合い馬車が定期的に走っていて、私も良く利用していた。自分は商人の娘、ただの庶民ではあるが、ミリーゼと一緒の事も多く、その場合は必ず護衛が付いていた。護衛は大抵サーシャが付いてくれた。以前は王宮で女騎士として働いていたのだが、結婚を機会に辞め、子育て後に雇用されたらしい。剣を下げていかにも護衛でござい、という風体だがそれが抑止力になっていたのは間違いない。
サーシャには剣技と体術を教えて貰った。自分で自分を守ることは重要である。
といっても、まずは剣の重さに慣れるためにひたすら素振りである。剣を無意識に自在に振れるようになって初めて技の習得が出来る。ぶっつけ本番で技を決めるなど無理な話だと繰り返し言われた。なにそれダンスと同じじゃん・・。
後で良く考えたら、短剣の剣技でも良かったんじゃないかな?
馬上で剣を振るうのは更に難しかった。片手で手綱を操り、片手で剣を振る。両方同時にこなさないと剣が相手に届かない。剣は重いし、体を支えるために馬の胴を挟んだ脚もプルプルしてくるしで馬のレルも呆れたような視線を送ってくる。結局途中でリタイアした。騎馬兵って凄い。