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東京デトックスニーランド。
それは老若男女問わず大人気の遊園地。
デトックスとは体の毒素を抜くこと。
つまり、『たくさん遊んで日頃から溜まった毒素を抜いていこうぜ!』
という意図で名付けられたものである。
マスコットキャラクターの『ニッキーラット』は、子供にも大人気。
赤い短パンを履いた二足歩行の灰色のドブネズミで、好きなものは『生八ツ橋 ニッキ味』だ。
千葉なのに東京、よりも東京なのに生八ツ橋の方にツッコミが殺到したらしい。
ともかく、まだ遠いがあの特徴的な城。
見間違いようもない。
「もうあと5時間ってところか」
オスカルがそう言う。
絶望感は半端ないが、それ以上に『デトックスニーランド』に行けることが嬉しくてテンション上がる。
だってこの訳の分からん世界にやっとよく知ってるものが出てきたんだぞ?
しかもよりにもよって遊園地。
最高かよ。
「あのダンジョンには魔物が出るから、戦う準備だけはしておけよ」
「おう!」
グリが槍を構えて元気に返事をしている。
やっぱり馬鹿だ。
そういえば魔物とか言ってたな。
デトックスニーランドに魔物かー……。
そもそも職員の人いるのかな? いなかったら遊園地で遊ぶとかできないんじゃないか?
遊べない遊園地とかどうなのよ。
「魔物ってどんなのなんですか?」
「うーん、正体は不明なんだがな? ただこの魔物の恐ろしいところは斬っても斬れないんだ」
斬っても斬れないってなんか強そうだ。
あんまり戦い向きじゃないというか、正直戦える気がしない。
子供の頃からそんなにスポーツとか好きじゃなかったしなー。
「ダンジョンには入れてるんですか?」
「いや、まだ入れてない。その魔物はダンジョンの入り口で待ち構えてるんだ」
なにそれ怖い。
ダンジョンのモンスターがダンジョンから出てきたら、スタンピードじゃないか。
「まあ魔物は幸い攻撃してこないが……俺たちの予想ではアイツを倒せば入れるはずなんだ」
「どんな奴なんだ!?」
「慌てるな、ついたら嫌でも見ることになる」
そう言ってオスカルは少し歩くスピードを速めた。
あっ、待って待って、まだ筋肉痛が………!
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「ソウタ、グリ。見ろアイツだ」
デトックスニーランドに到着したとき、オスカルは声を小さくしてゆっくり歩き出した。
そうして物陰に隠れると、オスカルは俺たちにその魔物を見ろと言う。
すると数人の冒険者が剣や弓で少し大きめの何かを一生懸命に斬っていた。
だが全く効いていないようだ。
「見えるか? 奇妙な生き物だろ?」
「そうっすね。なんかドブネズミ? が二足歩行してるし」
「そうだろ? 何よりネズミがズボン履いてるってのがもう絶対魔物だよな」
そう口々に俺の後ろで話す2人。
いやいや、違うだろ。アレは………。
「お、おい! どこ行くんだよ!」
「ソウタ! 早まるな!」
物陰からゆっくりと歩き出し、その魔物扱いされているネズミに近づいていく。
「くそっ! なんで攻撃が効かないんだ!」
「死ねぇ、化け物!」
「ボクは敵じゃないよ!」
「んなもん信じられるか! くたばれ!」
近くに行くと聞こえてくるのは、必死に自分が敵じゃないと言う彼の声だった。
だから俺はなるべく大きな声を出し、手を振った。
「ニッキーーーーーーー!」
すると、冒険者たちとニッキーラットはこちらを向いた。
冒険者たちは何事かと変な顔をする。
そして、ニッキーの目から涙がポロリと落ちて、
「ハハッ……! ボク、ニッキー………!」
あの高い声でそう言ったのだった。