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グリの家は住宅が集まっているところのほとんど真ん中にあった。
その中で、俺は今何をしているかというと。
「そこで俺は言ったんだ。分かっていた、いや分かってはいなかったんだ。ただその大きな扉を開くためにどんな言葉が必要なのか。それを考えたら、自然と浮かんできた呪文があったんだ」
「それは……!?」
ゴクリ、とグリが息を飲む。
「『開け! ゴマっ!』そう唱えたときだ、扉は開いた。その奥には宝の山があったんだ」
「開け! ゴマっ!? すげぇ!」
必死に作り話をしていた。
いろんな童話や物語からちょいちょいストーリーを拝借していたらなんだか壮大な物語ができていた。
「いやー、凄かった! 特にあの『かぐや姫』を仲間にするために『願いが叶う七つの玉』を取りに行く話はヤバかったぜ!」
ほら、自分でも何言ったか覚えてないし。
でもグリは満足してくれたようで、彼お手製の夕飯を用意してくれた。
交易のおかげで調味料は結構整っていたので、懸念していた料理が食べられない事態も起こらなかった。
何より風呂があったのは本当によかった。
風呂に入らないというのは耐え難いことだ。
水道止まったから一生入れないかと思ってたけど、大丈夫なようだ。
「グリはひとり暮らしなのか?」
「あん? ………いや、兄ちゃんがいてな。冒険者やってるんだが、いったいどこにいるんだろうな」
連絡手段がない以上、風の噂以外には情報が入ってこないらしい。
最新の情報が3年前だそうだから、結構かわいそうだ。
「済まなかったな、村長のとこでは」
「あー、別に気にしてないぞ?」
「そうか。冒険者って聞いたら兄ちゃんのことを思い出しちまってな。なんとなく邪険にしちゃってよ」
学ばない馬鹿かと思っていたが、兄想いのいい馬鹿だった。
まるで雨の中でクソ野郎だと思っていた男が猫のために傘をさしてやってた感じ。
そんな安っぽいもので俺の同情を買おうってったって、そうは問屋が卸さねぇ!
「お前……いい奴だなぁ………!」
「そんなこたねぇよ」
照れたように頭を掻くグリ。
あっれ、こいつ結構かわいいとこもあるじゃん?
弟ができたみたいな気分だ。
「じゃあもし旅先でお前の兄貴に会ったら、伝えといてやるよ。なんで名前なんだ?」
「本当か!? ありがとう!」
嬉しそうにグリは笑って言った。
「兄ちゃんの名前は『グランツ・イバラキ』だ!」
「グリと◯ラじゃねえか!」