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リビングでゆっくりとしていたら、ポケットのスマホが鳴った。
「はい、もしもし? 荒木ですが?」
「ヒョッヒョッヒョッ! 博士だよ〜ん!」
やばい、こういうときは絶対何かある。
スマホの向こうからこんな声が聞こえてきて何かいいことがあった試しがない。
この前は我が家に大量の猫がやってきて、玄関の前で大合唱を始めた。
その前は家中の水が逆流して、家の中にいるのに水深10センチメートルくらいになった。
とにかく博士から電話がかかってくるとやばい。
ブチッ。
速攻で電話を切って、持てるものは全部持つ。
準備を整えたら、さっさと家の外に出なければ!
「えっ……!?」
家を出たら、家全体がバリアみたいなので覆われていて、敷地から外に出れない。
茫然としていると、ポケットのスマホが鳴った。
「おいっ!? どういうことだ!」
「ヒョッヒョッヒョッ! ちみぃ、電話を切るなんてマナーがなって……」
ブチッ。
ああ、博士と話そうとしても不毛な結果に終わることくらい見えていたのに……
スマホがまた鳴る。
ちっ、と舌打ちしながら通話ボタンを押した。
「10秒やるから事実を話せ」
「フッフッフッフ! これは博士の……」
「10秒たちました」
「あっ、ちょまっ……!」
ブチッ。
どうでもいいからここから出ないと。
このままじゃ家の敷地から一歩も出られない。
スマホが再び鳴る。
「………」
悩んだのちに通話ボタンを押した。
「事態に関係すること以外のことを言ったら切る」
ガチの口調で脅すと、博士は粛々と話し出した。
「………そのバリアは外の時間から君を隔離するバリアになっている。つまり君の家の敷地の外と、内側の間には次元の歪みとも言える境界ができている」
「それで? いつ解除されるんだ?」
博士は少し沈黙したのちに、口を開いた。
「………君が望むならいつでも」
「本当はどのくらい隔離しようとしたんだ?」
「……5年です」
そんなに食糧の蓄えとかねえし。
ああ、でも外から時間が隔離されるから時間の流れとか違うのか。
電話線が繋がってるのとか、ネットが繋がる意味はわからないが………
「速攻で解除しろ」
「はい………」
するとスマホの向こう側からカチャカチャと音が聞こえてきて、
「あ」
………ん?
「あ?」
「あ、あー、今日は最高の実験日和だなー」
誤魔化すにしたって下手すぎるだろ。
「おい」
「はい」
「何があった」
すると博士は少し言いづらそうにした後に、恥ずかしそうに言った。
「ごめーん♡壊れちゃった! テヘッ☆」