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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-81.賢者の遺したもの(後編)
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81-(3) 縮まる余白

 ジークがついっと指差した空。

 その頃、南方上空に浮かぶルフグラン号では、イセルナや船内で合流したダン以下クラン

の幹部メンバーが集まっていた。宿舎棟内の一室を閉め切り、とある会議が開かれていたの

である。

「──そう。アルス君がそんな事を」

「ああ。頭のいい方だからな、前々から気を揉んでおられたようだ。それが今回、始祖霊廟

での一件で爆発してしまったのだと思う」

 イセルナやハロルド、シフォンと向かい合って座るのは、リンファとイヨ──侍従衆を束

ねる二人だ。そんな両者を斜向かいにして眺め、腕を組み難しい顔をしているのは、ダンや

グノーシュ、そしてリカルドである。

「私達の不手際です。私達が、もっとアルス様のご意思を汲んでいれば……」

「いえ、イヨさんは悪くありませんよ。そもそも私が団長として、彼の感情の行き先を封じ

込めるような立ち回りをしたのだから」

 話題はこの場にいない、他ならぬアルスについてだった。先日リンファとイヨから至急の

連絡が届き、彼が学友達の前でその鬱積した心情を吐露した一部始終を報告してきたのだ。

 責任を感じて俯くイヨに、イセルナはそう淡々と、自らその架を背負おうとした。

 元を辿れば、このルフグラン号──将来のホームを造って欲しいとレジーナ達に依頼した

のは他ならぬ自分だ。激しさを増す“結社”との戦いに備え、より高い機動力の確保と人質

的に取られうる被害の抑止を考えての判断だったが、それが一方でアルスという学院生を置

き去りにする可能性は当時から認識していたのだから。

「……」

 そして、今回それが噴出した。

 リンファ達の話ではジークがシゼルに謀られたことよりも、それを結果的に見過ごしてしまっ

た“自分が許せない”と語ったという。

 正直彼の、この兄弟の十字架トラウマを甘く見過ぎていたのかもしれない。彼らはいつも自分をか

なぐり捨ててでも、誰かを助けようとする。そうしなければ今ここに生きてはいけないのだ

と言わんばかりに。

 そんなことはない。共に歩みたいと願うから、自分達がいる──。

 だがこちらのそんなメッセージも、深く絡みついた心の傷には十分に届いていなかったよ

うだ。勿論それを「我が儘」と責めるつもりはない。誰だって、いつの時代も、何かしらの

痛みを背負って生きている。押し付けがましかったのだろうかと、振り返る。

「これは、予定よりも早くアルス君をこっちに移さないといけなくなるかもしれないね」

「移すたって……。学院はどうすんだよ? せめてきちんと卒業するまで支えようって話だ

ったじゃねえか」

「でも、当のアルス君自身がそれほどまでに後ろめたさを感じていて、はたして学業に専念

できるものかな? ここでまた僕らの事情で押し込めたとして、それは彼の将来を潰すこと

にはならないだろうか?」

「それにアルス様自身、ご自身の意思が均衡を破るものだと自覚しておられるようだった。

だからこそ、今までずっと本心を打ち明けられずに溜め込んでいたのだろう」

「うーん……。やっぱあれだな、兄も兄なら弟も弟だ。他人に尽くさなきゃ駄目だっていう

強迫観念があらあ。そんなこと、ねぇのによ」

 だって、仲間だろ──?

 嘆息をつきながら語るダンは、はたしてイセルナの思うそれと限りなく同じ眼だった。解

っているからこそ、難しい。解っているからこそ、もどかしい。彼らと自分達、どちらかの

“一方的”がもう少し和らげばこの状況も改善するのだろうが、おそらくそんな日がやって

来るのはもっと遠い未来だ。想えば想うほど空回るのだとしても、自分達はあの兄弟を見捨

てることなんてできない。

「でも、気負わせてしまったことは確かよ。私達は少し、大人の事情をあの子に強制し過ぎ

たのかもしれないわね」

『……』

 悶々とし、誰からともなく押し黙る場。それでもイセルナは、団長として仲間として、自

らが招いた軋みを正面から受け止める覚悟でいた。

「ま、何とか宥めておいてくれや。兄貴でもなし、あいつもそう感情一辺倒で突っ走るタマ

じゃねえだろう? 少し時間を置いてやれば自分から頭を冷やすさ。俺達も、な」

「……そうだな。もう暫く、様子を見守ることにするよ」

 一方で副団長ダンは、時が解決してくれることを願った。激情に任せた末に失うといった経験

は、いつ遭っても胸が痛い。リンファも深く息をついて頷き、侍従としてアルスの経過を注

視することを約束した。ぽつりと、イセルナが誰にとでもなく言う。

「一度、クラン全員で話し合う場が必要かもしれないわね。例えば顕界ミドガルドでの回収が済んだ辺

りにでも」

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