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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-80.賢者の遺したもの(前編)
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80-(4) 軍事と政治

「──にしても、すまなかったな。毎度ああいう堅苦しい所に放り出しちまって」

 ハウゼン王との謁見が終わり、一旦宛がわれた部屋に荷物を置いてきた後。

 ジーク達は城内の一角にあるサロンに来ていた。綺麗に整えられた真っ白なクロスの上に

ティーセットが乗り、ほっこりと静かに湯気が上っている。

 一行に相対して座り、そう口にしていたのは、今回の為に上京して来ていたセドだった。

 格好こそびしりと正装に身を包んでいるが、その口調は本来のざっくばらんなそれだ。貴

族としてではなく、盟友として。何より予め人払いをさせてあるのが大きいのだろう。

「いえ……。流石にもう慣れましたよ。まさか受け取るのがイベントになるとは思ってなか

ったッスけど」

「仕方ないですよねえ。聖都クロスティアではだいぶ悶着しましたし……」

 積もる話は色々とあった。二年間の修行の日々と、特務軍として始動したここ最近。

 何よりもジーク達が聞きたかったのは、皇国トナンにいるシノとコーダスの様子だ。これまでも

定期的に連絡を取りはしていたが、そこには気丈な振る舞いがある筈。なまじかつての内乱

で荒れた国土の復興という大仕事があり、尚且つシノ自身が政治家としての経験を持ってい

なかったことから、不安の種は尽きないのだ。

「最初は俺も大分ハラハラしてたけどな。だがこの二年で随分と成長したよ。元々努力家だ

からな。先々代の頃の家臣達も戻ってきて、今じゃ上手いこと支えられながら回してるみた

いだ。まぁ如何せん博愛主義過ぎる所はあるが……。コーダスも今じゃあ公務に参加できる

くらい回復してるしな。二人の事なら心配要らねえ。この先も俺達が、できる限りのサポー

トを続けるつもりだからよ」

 だからこそ、ジークは嬉しかった。この両親の親友ともが心強かった。

 二十年近い時を経て、果たされたリベンジ。そして今度は、もうあんなことが繰り返され

ないような平和な国へ……。

「……」

 テーブルの下で、ジークは密かにぎゅっと拳を握り締めていた。

 二人の為にも、この戦いを少しでも早く終わらせないといけない。安心させたい。

「本当に、何から何まで」

「はは、いいって事よ。それよりかお前ら、一応気を付けとけよ?」

 そうして昔話も絡んで咲いていた話の話題は、いつしか現在のそれへと向き始めていた。

カップに注いだ紅茶を片手にしたまま、セドは言う。

「勘のいい奴はもう気付いてるとは思うが、今度の式典……早い話が“厄介払い”だ」

「? ドウイウコトデス?」

「イセルナさんも言ってたように、他の国にも示しがつくからじゃないんですか?」

「ああ。それもある。だが俺からすりゃあ、今回も目的は寧ろ、国内みうちにこそあると踏んでる」

 オズがクレアが、先だって頭に疑問符を浮かべていた。ずずっと茶を啜ってから、セドは

静かに目を細めて続ける。

「二年前の大都消失事件以降、世の中の人間にとって聖浄器は、持っていると命を狙われる

代物ってことで一致しちまった。言ってしまえば疫病神なのさ。王器として聖浄器が祀られ

ている国の人間は、この二年間ずっと“結社”の恐怖に怯えてきた」

『……』

「それは翻せば、王や政府への不満にもなる。どれだけ奇麗事を並べようが、一方でそんな

ものは、領民の感情を置き去りにする方便でしかない」

 疫病神。そのフレーズにジーク達は大なり小なり、めいめいに眉間に皺を寄せていた。

 時に歓迎され、時に疎まれ。それはこの旅──“結社”との戦いが始まってからずっと浴

びせられてきた眼差しだ。とはいえ、セドとてそんな内情は解っている筈。解っていて、敢

えてこの表現を持ち出している。

「軍事と政治は不可分だが、必ずしもイコールじゃない。軍事は敵を倒せればそれでいいか

もしれんが、寧ろ政治はその後始末もおっ被る。ただぶっ飛ばせばいいのと領民の安全を保

証し続けるってのは中々両立しないもんさ。だからこそ、狙われる原因になる聖浄器がお前

らに渡ると分かれば──目の前でそれが行われれば、安心って寸法な訳だ」

「……それって、逃げだと思うんだけど」

「いや、無理もないよ。皆が皆、僕達のように戦える訳じゃない。巻き込まれるのはまっぴ

らごめんだと思っている人間は結構多いんじゃないかな?」

「あくまで他人事、か」

「んー……。そもそも、テロ組織にそんな見境ぎょうぎのよさがあるとは思えないんだがなあ」

 セドが語る分析眼に、ジーク達は思い思いの反応を示していた。

 むすっと頬を膨らませるクレアに、何処か冷めた様子で宥めるシフォン。茶菓子を頬張り

ながら一見無感動を装っているリカルドに、疑問を投げかけるジーク。

「こちらが中立だと言ってみても、向こうがそうだと思っている保証はないですもんね」

「そうね。元々テロリズムというものは、暴力支配をどんどん拡大していく所に活路を見出

す部分があるから」

「ああ。まぁ、そもそも大国って時点で中立もクソもねえんだが」

 セドが苦笑する。不安げにレナの視線を受けていたイセルナもこれに振り向き、ジーク達

他の面々と共に、彼のこの嘆きにも似た一言に複雑な気持ちになる。

「毎度毎度、政局に巻き込んじまってすまねえな」

 しかし当のセドはそれに気付いているのかいないのか、重ねて謝罪の言葉を紡いでいた。

テーブルの上に置いた茶は少し冷め始めている。

「式典なんて大きなイベント、何もなきゃいいんだが……」

 それは内心、ジーク達も懸念し始めていたこと。

 尤も、そうなればそうなったで、政治に関わる者達は戦いの口実にするのだろうが。

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