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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-79.古巣より、原初へと
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79-(2) 王達の手札(カード)

 クラン・ブルートバードとクリシェンヌ教団との間で起きた諍い、及びその隙を縫って現

れた“結社”による擾乱。

 直接的に手を下した訳ではないとはいえ、ブルートバードを仲立ちにした教団との対立回

避という結末には、各国の王や議員達は内心少なからず安堵さえしていた。

 大都バベルロート内、王貴統務院本部。

 例の如く、彼らは中空に浮かぶ映像越しに出席し、或いはこの議事堂の場に臨席して事の

次第を精査する。全体としての態度は安堵、やれやれといったものだが、それぞれの国ごと

の利害はまた異なってくる筈だ。

 神託御座オラクル──異例とも言える神王ゼクセム直々の宣旨。そんなレアケースが今回起こった

ことへの違和感。

 それに、事件全体には直接関わっていないが、件の徒党の中に保守同盟リストンの手の者が混ざっ

ていたという報告もある。……何か大きな力が、事件の裏で働いていたように思えてならない。

『大方、地底武闘会マスコリーダでの失点を埋める為だったのだろうが……それにしても、彼らにとって

は随分とリスクの大きい一手だったろうに』

『さてな、内情までは分からんよ。大の為に小を切る覚悟を、とでも進言した者がいた可能

性もあるが……』

『それよりもブルートバードだ! 何だこの額?! 自分達が暴れた後始末を、よりにもよ

って私達に尻拭いさせるつもりかっ!?』

 やいのやいの。互いに他勢力の出方に推測を重ねる王もいれば、先刻ブルートバードから

請求されてきた金額に豆鉄砲を食らっている王もいた。

 どうやらこれからも、何かと話題や頭痛の種には事欠かないようである。会議の場は議論

というよりは、各々の鬱憤を表明する舞台のような様相を帯び始めていた。

『はははははっ! やりやがった! それでこそ俺達の選んだ、時代の旗振り役だ!』

『笑っておる場合か? 今回の決着で教団──宗教関連の銘柄が大きく下がっている。商品

の卸し比率も、一度考え直さねば……』

『全くです。冷や冷やしっ放しでしたよ。ですが今回教団が丸め込まれたことで、強硬派の

者達が更に頑なにはならないでしょうか?』

『可能性はなきにしもあらず、だな。今後も情勢を注視しよう。神託御座オラクルからの直接の声も

ある。手前勝手な解釈で暴走することも、抑制されればよいのだが……』

 そしてファルケン、ウォルター、ロゼにハウゼン。四大盟主国の王達も喝采し、或いは懸

念するという点では同じだった。

 呵々と笑うファルケンに、傘下の商売に影響が出ることを懸念するウォルター。四盟主で

も一番の常識人であるロゼにとってはやはり頭痛の種だ。そんな彼女に、ハウゼンも玉座の

上から、既に縦横無尽の熟考を始めている。

(おそらく、ロゼ殿の言う通りになるだろう。世界は穏健に揺り戻ってゆく層と、より振れ

幅を激しくして止められぬ層に分化していく筈。一つが終わったように見えても、何らそこ

で途切れることはない。これまでのように、一つのうねりは二つ三つと、また新たな波乱を

呼び寄せる……)

 今回事件が収束したのも、神威の上の、薄氷のバランスであった。

 故にいつまた崩れるか分からない。もう教団本体がブルートバート──自分達と直接的に

対峙する手札カードを持ち得なくなったとはいえ、より末端の勢力・個人までが同様である訳では

ないのだ。

 そもそも神格種達かれらの中に“結社”と内通・同調する勢力が存在するのはほぼ間違いない。

それは今し方話にも出たように、地底武闘会マスコリーダでの一件──天使ユリシズと神レダリウスの

介入でも明らかだ。ならば今回も、何かしらその一派が手を回したと考えればその異例さと

迅速さにも説明がつく。……尤も宣旨を下させることで得るメリットに関しては、不可解な

部分が多過ぎるが。

「ともあれ、状況は一歩前進といった所でしょうか」

 議論もとい喧騒は、尚も継続していた。

 苦笑いと嘆息を零し、臨席していた議員の一人が言った。うむ、と映像越しの王や同席の

議員達が頷いている。

『これで、ブルートバード──我々の確保した十二聖ゆかりの聖浄器は一つ』

『まだまだ先は長そうですな』

「案の定、結社やつらが邪魔をしてきましたからね。一体、あのアーティファクトの何が、奴らを

そこまで駆り立てるのか……」

『……』

 やはり解らない所はそこだ。ジーク達が元使徒クロムから聞いたように、“結社”の目的

は“大盟約コード”の破壊。だがそもそも精霊族との約束事を破壊しなければならない理由とは何

だ? 物理的にどうこうするものなのか? 何より聖浄器が、それに何故必要で関わってく

るのか……?

 ファルケンは小さく口角を吊り上げて笑っていた。ロゼも努めて表情を作らず、黙してい

たが、その実はそれらを知る為にも「ダン・マーフィ達が“賢者”リュノーの書庫に向かっ

ている」という情報を握るが故の孤独に耐えているだけのことである。

『彼女達が回収に当たっている間、我々もやるべきことをやらねばなりませんな』

『うむ。引き続き“結社”及び、同調する反分子の取り締まりを強化しよう。相手にとって

もこれは持久戦の様相を呈している。いつか奴らが大きく動き出すその時までに、出来る限

り戦力を減らしておく事は、間違いなくこちらの利となる筈だ』

 然り──。ハウゼンの言葉に、出席した王や議員達は皆一様に頷いた。戦いの手を止めれ

ばつけ込まれる。兵力の大半を強国が占めている現実もあり、そうした危機感においては、

大よそ彼らの見解は一致していた。

『しかし気になるのは、今回聖都クロスティアを襲った刺客達の子細だな。基本的には“結社”の構成員

だと聞いているが……』

「あ、はい」

「ちょうど正義の盾イージスの隊が、現地へと引き受けに向かっている最中の筈です」

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