表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-70.人身御供、蒼染の鳥(ブルートバード)
8/428

70-(0) 分断

※旧版(現〔上〕巻)の初回掲載日=2016.2/5

 飛行艇の便を急ぎ予約し、ジーク達は一路梟響の街アウルベルツのホームへと向かっていた。他人も多

い空の旅ではいつ“結社”に狙われるやもしれないとは考えたが、一旦は大会中に刺客──

と思しき者達も退けて抑止力も示してあるし、何より今はハロルド達の事を思うと少しでも

早く向こうに着きたかった。

 魔界パンデモニムから顕界ミドガルドへ。

 世界の層を越え、北方の大陸に着陸し、街へと続く街道を進む。

「ストーップ! ストップ、ストップ! 皆、あたしだよー!」

 それは、いよいよ街の中心部に入る寸前の事だった。

 郊外のまだ疎らな家屋。遠くに見えるのは、巨大な足場の骨組みと雨風を凌ぐ為のシート

に覆われつつも、時折ちらとその全体像が見える、目下最終調整の巨艇・ルフグラン号。

 ジーク達が乗る鋼車の列に、はたと何者かがそう言って立ち塞がったのだ。

「……レジーナさん?」

 いや、何者かではない。そこに立っていたのはレジーナと、エリウッド以下ルフグラン・

カンパニーの面々であったのだ。

 慌てて運転手に停まるように頼み、ジーク達は何事だと頭に疑問符を浮かべて次々に鋼車

から降りた。彼女達が、わたわたと大層焦ったようにこちらへ駆け寄ってくる。

「一体、どうしたんです?」

「あんたらもホームむこうから聞いてねぇのか? 今あっちは大変な事に──」

「それが更にややこしい事になってるんだってば。何か少し前、酒場の方に史の騎士団のお

偉いさん方がやって来て、ついさっきには正義の剣カリバーまで来てさぁ……」

 ジークが、ダンが訊ね、こんな時間すら惜しいと言わんばかりに口を開こうとする。

 だがレジーナが次の瞬間放った言葉に、一同は思わず途切れ、目を丸くした。

 何……だって? にわかに緊迫した互いの表情かおを見合わせ、再びレジーナ達の方を見る。

少なくとも冗談などではない。この二年間、それ以前から一緒に力を合わせてきた仲間なの

だから。混乱している中、それでもホームむこうの団員達が、何とか自分達に事の急を知らせよう

としたのだろう。

「……何か、あっちを出る前よりもややこしくなってねぇか?」

「それでハロルドは? リカルドさんは今どうなっているんです?」

 仲間達は各々に戸惑い、そしてこの急を要する事態を把握しようと努めた。

 レジーナら曰く、現在かねてよりホームに滞在していたセイオンと史の騎士団団長率いる

部隊、そこにヒュウガら率いる正義の剣カリバーの部隊までもが鉢合わせ、三つ巴の一触即発の状況

にあるという。

「うん。あたし達も導信だけ来たからよく分かんないんだけどさ? どうやら騎士団の方も

レナちゃんが目的っぽいのよねぇ……」

『……??』

 更にセイオン、史の騎士団まで。

 ヒュウガ達は十中八九、特務軍絡みの用事だろうが。はたしてジーク達は混乱していた。

 ダンが向こうの団員達から受けた報告によれば、セイオンの目的はレナで、その為に養父

であるハロルドとの接触を図ろうとしていた。それだけでも「何故」は膨らんでいるのに、

そこに史の騎士団──リカルドの本籍まで加わってくるとなると……。

「またレナか……。どうなってんだ?」

「やっぱりあれかなあ? セイオンが訊いてきたっていう、レナの《慈》が関係してる?」

「うう。そ、そう言われても……」

「……史の騎士団」

「クリシェンヌ教団、教皇直属の……」

 若干、頭からぷすぷす煙でも出てしまいそうだ。ステラも不安がる当のレナを優しく抱い

てやりながら、への字に唇を持ち上げて不満そうだった。

 サフレやアルス、そしてリュカ。博識な部類の仲間達が、ぶつぶつとこの新たな来訪者と

その意味について思考を巡らし──そして互いにハッと、何やら一つの考えに至ったかのよ

うに見える。

「だがまぁ、このままぼさっと突っ立ったままって訳にもいかねぇだろうよ。急ごう。何は

ともあれ実際に確かめてみない事にはどうにもならねえよ」

 一方でジークは一度ふるふるとかぶりを振り、鋼車の列に戻り始めていた。

 踵を返し、肩越しに仲間達に振り返り、そう尤もなことを言う。皆も概ね同意であった。

「──それは」

「暫し待って貰わねば困るな」

 しかし、その直後だったのだ。ザリッと、車列に戻ろうとしたジークや見送ろうとしたレ

ジーナ達の背後──つまり街の方から、見知らぬ二人組が現れたのである。

「……何だ。てめぇら」

 嗅ぎ取ったのは、害意。ジーク達は半ば本能的に身構え、中には腰や背の得物に手を伸ば

した者もいた。

 隆々とした大柄の男と、これより一回りも二回りも小さく見える優男。

 二人は共に、肩や胸当てといった防具を伴う黒衣に身を包んでいた。更にその胸元にあし

らわれているのは、三柱円架のピン。

 何者かは言わずもがなだった。緊張が、高まる。

『……』

 史の騎士団、隊長格の神官騎士が二人。

 即ち先刻、リザ・マクスウェルが連れて来た、部下達だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ