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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-79.古巣より、原初へと
78/436

79-(0) 帰る先

※旧版(現〔上〕巻)の初回掲載日=2016.11/5

 明け方のひんやりとした空間が、不意にぐにゃりと歪む。

 地面に展開する藍色の魔法陣。光の束は角柱の輪郭を作りながら上下明滅し、その中から

とある一団を出現させる。

『──』

 ダン達だった。聖都クロスティアでの危機を聞き、現地へ飛んでいた南回りチームの面々が、騒動も無

事収まりをみて帰って来たのだった。

 導都ウィルホルム市内の一角、ハーヴェンス家の庭。

 ダン達が戻ってくる為の陣は、ここに仮設されていた。出発前、事情を聞いたロイドがな

らば是非使ってくれと申し出たのだ。

 尤も、一行の責任者であるダンは遠慮がちだったが……。それでも状況が状況だけに断り

切れなかったと言ってもいい。

 魔導の光と、風圧。

 明け方とはいえ、流石に空間転移している最中を街の只中で隠すのは難しく、いつもとは

違う外の変化に気付いたのか、寝惚け眼で窓を開けてくる隣人達も少なからずいた。当然な

がら、数拍置いて頭が目の前の光景を理解し、見開きこちらを凝視してくる。

「あっ。おじちゃーん」

 そうしていると、ぱたぱたと家のテラスを開けてサーシャが姿をみせた。後ろからロイド

とアリアもついて来る。店の準備が早いのか、或いは自分達を待ってくれていたのか。

「お、おう。まだ陽も昇らねぇ内から元気だな」

「事情が事情でしたからね。私達も、おちおち寝入ってはいられませんよ」

 朗らかに微笑わらうロイド。娘の頭をポンと撫でてやりながら、確かにその目元は少し眠そう

だ。悪ぃな……。ただダンはそう小さくごちることしかできない。

「……じゃあ早速悪いが、陣の撤去を。なるべくご近所さんに迷惑のないようにな。併せて

もう閉じていいって知らせを魔導学司アカデミアに」

 だがあまりのんびりもしていられない。ダンはすぐに肩越しに振り向き、船から連れて来

た技師達に指示してこの仮設の陣を取り外させる。ガチャガチャと、明け方の庭に気持ち息

を殺した工具の音が鳴り始める。それを眺めながら、ロイドとアリアは苦笑していた。

「別に、このまま置いてくれても構わないんですよ?」

「そうよ。ロイドもいいって言ってくれてるんだから、甘えておけば?」

「いい訳あるかよ。魔導学司せんぽうとも仮の物ってことで話をつけたんだ。今更なし崩しに置きっ

放しにはできねぇよ」

 元妻の言葉に、ダンはやや視線を逸らし、嘆息混じりで言う。

 返答内容は確かに事実だった。だがその実、何よりも、この先彼女達夫婦への隣人達の眼

が心配だったのだ。ちらと肩越しに気配を読む。実際今もひそひそと、塀越しにこちらを観

ている住民達がいる。ただでさえブルートバードは、一部の人々にとって“疫病神”扱いさ

れている節がある。それが分かっていて、彼女達を巻き込む愚策など採れない。

「まあまあ。実際、ロイドさんが今回場所を提供してくれたからこそ、私達も迅速に向こう

へ加勢に行けたのですし……」

「ま、併行して魔導学司アカデミアにも協力を頼んでなきゃ、どのみちこの街の結界にゴッツンコだっ

たけどな」

 仲間達も、そんな彼の思いやり──苦手意識が解っていたのだろう。リュカやグノーシュ

が宥め、或いは軽くし、この妙に弱腰になるリーダーを支えようとする。

「……」

 ロイドとアリア、二人の申し出は十中八九本心なのだろう。でも、だからこそ余計に周囲

の悪意、人々の白い眼が彼女達の環境をややこしくする。跳ね除けることを困難にする。

 ダンは思う。アリアには幸せになって欲しい。そもそも離婚という形を取ったのは、冒険

者と一般人という両者の差を埋められなかったからだ。当時は自分ももっと荒っぽくて、辛

い思いをさせてしまった。苦々しい記憶だ。

 一方でサーシャはまたミアに構って貰っていた。また会えたのが嬉しそうで、キャッキャ

と笑いながら手遊びをして貰っている。

 娘達の横顔。普段あまり感情を表に出さない子だが、眺めていて微笑ましい。

「……とにかく、おかえりなさい。無事で良かった」

 そしてたっぷりと間を置いて、アリアが言う。それは帰って来た一同全員に向けた言葉の

ようにも聞こえたが、見据えるその眼は真っ直ぐダンを見ているようにも思えた。

「……ああ。ただいま」

 魔導の光も風圧も止んだ。

 夜明け前の導都ウィルホルム。ダン達とハーヴェンス一家は、また出会う。

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