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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-78.真声にして侵すべからず
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78-(4) 抗う駒たち

「学者の嬢ちゃんが、敵ぃ?!」

 時を前後して、南方上空のルフグラン号。レジーナ経由でジーク達がピンチだと聞かされ

たダン達南回りチームは、急いで同船内へと転送リングで戻って来た。そしてそこで合流し

た、傷の手当を済ませたシフォンやクレア、リカルド隊士らから一行は衝撃の事実を聞かさ

れることとなる。

「ああ。彼女はあのシゼル・ライルフェルド本人だったんだ。何故二百年前のヒューネスが

当時の姿のまま生きているのかは分からないが……僕達は見事に嵌められたという訳さ」

 曰く、地下水洞を進んでいたシフォン達に突如として本性を現し、牙を剥いたシゼル。そ

の圧倒的な力の前に彼らは為す術もなく痛手を負い、閉じ込められたのだという。

「私達を足止めした後、どこかに消えちゃったの。多分、ジーク達を追って聖浄器を横取り

するつもりだよ!」

 必死に訴えるクレア。ダン達は険しい表情にならざるを得なかった。

 ピンポイントに自分達を邪魔してきたこと。その身一つで為した空間転移。十中八九、彼

女は“結社”の一員だったのだろう。

「チッ……そういう事か。でもよ? それじゃあ何でお前ら、こうして船まで戻って来れた

んだ?」

 だからこそ、ダンは皆を代表して問う。

 しかしその質問をぶつけるや否や、シフォン達はきゅっと唇を結んだまま黙り込み、互い

の顔を見合わせていた。

 状況からして、誰か仲間が機転を利かせてくれたのだと思うが。そういえば、今この場に

リカルドの姿が見えない……。

「まさか」

「いや、命に別状はない。ただかなりのダメージだ。暫くはまともに動けないだろうね」

 眉根を寄せたシフォン曰く、その功労者は現在医務室で集中治療を受けているそうだ。

 全く、どんな無茶をやったのやら……。ダンはそう、グノーシュやミア、サフレ達と顔を

見合わせたが、今は呑気に見舞っている暇はない。

「……それで? 聖都あっちの状況はどうなってる?」

 操舵室中央の制御卓コンソールに表示されたクロスティア上空の様子。ダン達は誰からともなくこの

前に集まった。レジーナやエリウッド、ルフグラン・カンパニーの技師達に訊ねながら言う。

「正直言って、空撮からでははっきりとは分からない。街自体は現状、騒動も落ち着いて平

常を取り戻しつつある。だが、シフォン君達の話では、シゼル・ライルフェルドがジーク君

達の下へ向かった。始祖霊廟で、何か良くないことが起きているのは間違いない」

「イセルナやハロルドは? 連絡は取れないのか?」

「うん。さっきから何度も掛けてはいるんだけど、回線が上手く繋がらなくって……。多分

魔流ストリーム自体がジャミングされてる。ジーク君達を孤立させる為でしょうね」

「参ったな……。せめてその霊廟ってとこの様子を見れればいいんだが」

「流石に世界規模で監視の眼をってのは、この船には搭載されていないよ。今から撮りに行

こうにも時間が掛かり過ぎる」

「うーむ……」

 ジーク達の危機。そう聞いて急ぎ船に戻ろうとした時、アリアとロイドは賢明にも素早く

その意を汲んで送り出してくれた。それだけではなく、またウィルホルムに戻って来れるよ

う、仮ながら陣の敷設も申し出てくれた。

 確かな情報は、シフォン達がシゼルに裏切られたということだけである。だがそれだけで

疑わしきは充分だった。もう頭の中では、やるべき事は決まっている。

「イセルナは大丈夫だと言ってたが……。助けに行くぞ。どうせこっちはあと三日暇がある

んだしな」

「ああ。その言葉を待ってた。船長、急いで俺達をクロスティアに飛ばしてくれ」

「あ、うーん、それなんだけど。基本都市部って魔流ストリームが乱れがちだし、そもそもあそこには

結界が──あれ?」

 ダンが決断し、グノーシュ以下仲間達が頷く。

 しかし現地画像を確かめていたレジーナは、いまいち歯切れが悪い。始点と終点、双方に

きちんとした設備がない状態の転移には通常多くの困難が伴うからだ。

 にも拘わらず、次の瞬間、彼女は小さく驚いたように画面をずいと覗き込んでいた。エリ

ウッドや技師達、ダンらも「何だ?」とこれに倣う。

「穴が空いてる……。聖都の結界に、穴が空いてるよ!」

「は? 穴? 何でそんなモンが──」

「既に転移した者がいるということだ。見る限り、位置もちょうど教団本部の真上のように

みえる」

 導信網マギネット経由で収集した、聖都上空の魔流ストリーム状況。

 そこには確かに、渦巻くドーム状の塊の一点にまるで力ずくで捻じ切ったような穴が空い

ていた。何故と驚く一同に、これをじっと見ていたクロムが見解を示す。

「それって、やっぱり彼女なのかしら」

「そう考えて間違いないだろう。話の通り、ジーク達を追ったようだ」

「たたた、大変です! 急いで追わないと……!」

 ああ。リュカの確認にクロムが再度肯定し、慌てるマルタにダンが「分かってる」と言わ

んばかりに歯を噛み締めた。

 やはり状況は宜しくない方向に傾いているようだ。全く、結社やつらとはとことん反りが合わな

い……。

「レジーナ、エリウッド、大至急俺達を飛ばしてくれ。ここやホームの連中も借りていく。

結界に穴が空いたままってことは、俺達もそこを通って転移できるんだろう?」

「う、うん。多少リスキーではあるけど」

「基本的に一方通行だ。それでも構わないね?」

「ああ。今は後のことを考えてる暇はねえ」

 奇しくも、シゼルの通った穴が進入路となった。ダン達の返事を受け、レジーナとエリウ

ッド以下技師達は急ぎ空間転移の準備に掛かる。

「私モ連レテ行ッテクダサイ。モウ修理ハ完了シテイマス」

「勿論だよ。がっつり働いて貰うからね」

「ああ。敵は彼女一人でない可能性が高い。また市中が戦場になるのは忍びないが……」

 急ぎ操舵室の地下から船底を通り、転移装置のある設備棟へ。

 併せて船内やホームから呼び寄せた団員達を引き連れ、一路ダンとシフォン達は、再びの

混乱に呑まれる寸前のクロスティアへと飛ぶ。


 減速したかのようにみえた歯車は、それぞれが良かれと思い、或いはその利を求めていく

が故にまた回り出す。

 教団本部、始祖霊廟での“結社”出現の報は、とある小さな雑誌社の特報を皮切りに瞬く

間に人々の知る所となった。

 それは勿論、聖都の市民らとて例外ではない。ようやく解決したとばかり思っていた一連

のいざこざが、また更に混ぜっ返されたと知った時の絶望は如何ほどであったか。

「やったぞ! 同志がやってくれた!」

「俺達も加勢するぞ!」

「聖都にも、在るべき姿を!」

 そしてこの飛ばし記事は、結果的に摘発を逃れ、市中に潜んでいた“結社”の残党達を奮

い立たせる事態を招いた。彼らはそれがシゼルだとは知らず、しかし同じ変革の思想で繋が

る同志だと高揚し、次々に武器を取って街に繰り出す。

 この事態に、警備を引き上げ始めていた神官兵らは大いに苦戦させられた。

 結社れんちゅうの工作員は、こんなにもいたのか……。

 残党達は街の方々から北へ、教団本部へと攻め上がる。その突然の蜂起に散在する各隊は

数の上でも劣勢を強いられた。

 何せ、ここまでの争いでミュゼにダーレン、ヴェスタを始めとした少なくない数の隊長格

が倒され、或いは本部内に戻ってしまったのである。指揮系統は瞬く間に混乱した。連携を

取るような暇もなく、次々に数の上で孤立してゆく。本部に事態を知らせ、応援を求めよう

にも上手くいなかった。言わずもがな、その本部自体もまた、シゼルと彼女が召喚するオー

トマタ兵や狂化霊装ヴェルセークを止めるので精一杯だったのだから。

「くっ……! 応援は!? 本山からの応援はまだか!?」

「だ、駄目です! 既にあちらにも敵の手が……。どうやらこいつらが湧いて出たのも、そ

の侵入者の影響のようで……」

「何て事だ……。というより、訳が分からんぞ。何故前線わたしたちよりも早く、市中にその情報が広

まっている……?」

 “結社”の信徒・信者の軍勢はさも合流する川のようにやがて一つのうねりとなり、街の

北へと向かい始めた。神官兵達はこれを防ぎ、押し留めようとするが、兵力の差は如何とも

し難い。留めることすらままならず、悪意の濁流に呑み込まれる。

 気付けば、彼らに交じって黒衣のオートマタ兵もその数を増し始めていた。悪夢である。

市中の神官兵達は、為す術もなく押し遣られ、一人また一人と倒れるしかない……。

『──』

 だが、そんな時助けは現れた。両者の最中に轟と空間が抉れるような衝撃が降り注ぎ、一

旦敵味方を問わずに吹き飛ばされる。

 な、何だ……? 神官兵達が、信徒やオートマタ兵達がそれぞれに尻餅をついて驚き、或

いは警戒して武器を真っ直ぐに構える。

「……おいおい。こりゃあ予想以上に面倒な事になってるぞ」

「彼女の強襲に乗じて、残党が盛り返してきた、という所かな」

「……そうはさせない。あそこには、レナがいる」

 ダンやシフォン、ミア。クラン・ブルートバードの軍勢だった。最初こそ神官兵らはぽか

んとしていたが、彼らが自分達に背を向け、庇ってくれているらしいと解った時、その表情

には少なからず泣き崩れるかのような安堵が零れる。

「シフォン、サフレ。奴らの両側に回れ。三方向から叩き潰す」

「了解。六番隊、総員右翼へ!」

「はい。七番隊、左に回り込むぞ!」

 ダンの指示を受け、二人のそれぞれ率いる隊が一旦街の路地へとなだれ込んだ。これに気

付いたオートマタ兵らが信徒達よりも先んじて追討に掛かろうとするが、その動きをリュカ

使い魔達シュヴァリエルやステラの《月》が回り込み、力を奪い、阻む。

「させないわよ?」

「ルナっち。がんがん吸っちゃって! 何よりも先ず数を押さえなきゃ」

 おお……。神官兵達は暫しこの連携プレーに見惚れていた。颯爽と現れ、流れるように敵

軍勢を呑み込んでゆく。戦い慣れした冒険者達だからこそ可能な迅速さだ。

「おいこら、ぼさっとしてんじゃねぇよ。お前らも働け。本部にゃあ、うちの団長達やお偉

いさんがいるんだろ?」

 ハッとなり、彼らはダン達と並び立って構えた。もう自分達だけじゃない──。数は依然

として向こうが勝っていたが、それも心では拮抗し、持ち直した。ミアが握り拳を鳴らす。

グノーシュが幅広剣に電撃を蓄える。オズとクロムがそっと眼光を持ち上げ、リュカとステ

ラが次の魔導を詠唱し始めた。ダンもぶんっと戦斧を振るって、鬨の声を上げる。

「さあ、お掃除だ。さっさと片付けて、イセルナ達を助けに行くぞ!」

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