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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-78.真声にして侵すべからず
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78-(3) 戸口は立てられぬ

 教団本部の外、聖都の市中は落ち着きつつあった。他ならぬ神託御座オラクルからの思わぬ介入に

より、教団とクラン・ブルートバードの諍いに終止符が打たれたためである。

 これで一件落着だ──。人々はそう信じて疑わなかった。

 元より、頑なに教団側を擁護していた者がどれだけいたのか。教団関係者はともかく、大

半の人間は信仰と生活がそこまで深くイコールで結び付いていた訳ではない。

 第一の望みは、これまでの生活が続くこと。そしてあわよくば少しでも上向くこと。

 仮に敬虔な信徒であったとしても、その殆どは過激な抗議行動など望まなかった筈だ。力

に訴えるという選択は、それ自体が彼らの信じてきたものを根幹から否定し、冒涜する行為

に等しいのだから。

「せ、先輩……。やっぱり止めましょうよ~……」

 だがそんな市中に広がる沈静の中、果敢にも教団本部へと忍び込もうとしている二人組が

いた。彼らは共にワイシャツとズボン姿、小柄な方は首から写姿器をぶら下げ、先の崖道を

よじ登るもう一人を気弱そうに追っている。

 二人はとある雑誌社の記者だった。聖都の市民ではない。

 混乱が収拾してゆく市中をこっそりと迂回し、彼らは教団本部が建つ山の斜面を隠れなが

ら、駆け抜けながら登っていく。

「ばっきゃろう! 今更尻込みしてどうする。こうでもしねぇとデカい情報ソースなんぞ永遠に回

って来ねぇぞ。ただでさえうちみたいな小さい所はカツカツだってのによ」

 先を行く、先輩らしき負けん気の強そうな記者は言った。肩越しにこの後輩を振り返り、

ギロリと睨みを利かせるようにしてごちる。

「……対“結社”の戦いが始まってから、統務院も万魔連合グリモワールもすっかり口が堅くなっちまっ

た。自分達に都合が悪い情報は出さないって気が満々だ。いいか? 俺達ジャーナリストは

連中の広告塔じゃねえ。寧ろあいつらが隠したがること、埋もれて見えなくなっちまったこ

とを掘り起こして社会に広く知らせるのが使命なんだ。その為には権力と闘うことだって臆

しちゃいけねえ。会社は小さくても、志はどーんとデカくだ」

「……はあ」

 生返事をする。しかし彼は内心、この先輩記者の主張にはあまり賛同できなかった。

 悪いが、自分はそこまで熱くはなれそうにない。飛ばしを書いて、向こうさんや大手から

干されれば、それこそ食っていけなくなるではないか。

 ジーク皇子達と教団の和解。

 神託御座オラクル異例の広域声明。

 記事のネタとしてはもう充分過ぎるくらい、インパクトはあると思うのだが……。

「それに、各社横並びで同じことばかり載せてたら、それこそ幾つも社がある意味がなくな

るだろうが。……俺達がやらなくても、遅かれ早かれ誰かがやるぜ? 余所にはないソース

を見つけてきてすっぱ抜く。お前も記者の端くれなら、もうちっと欲を出せよ」

 街を見下ろせる削り取られた斜面を登り、茂る草木に隠れながら、二人は大きくぐるりと

Uターンしながら教団本部に向かって降りていった。

 目指すは本部の外壁。場所によっては、部分的ではあるが中の様子を覗き込めるスペース

がある。

「ん~……。やっぱ厳しいなあ」

「そりゃそうですよ。付け入る隙があったら困りますもん」

 担いできた小さめの脚立に乗り、間近に迫る斜面に足を引っ掛け、先輩記者はああでもな

いこうでもないと身を乗り出しては外壁の向こうに広がる本部の様子を探ろうとしていた。

それを嘆息をつきながら後輩記者は見上げ、写姿器を手に周囲の気配に注意を配っている。

「でも……何だか今日は割合すんなり覗けましたね。この前まではこんな際にまで神官兵が

うろついてて失敗続きでしたけど」

「ああ。そう言えばそうだな。大方ブルートバードとのいざこざにケリがついて、警戒のレ

ベルを下げたんだろうよ」

 答えながら覗き込み続ける。そんな時だった。……遠巻きに見える渡り廊下を、何人もの

神官兵達が大層慌てたように走っていくのが見える。

『急げ! 北の中庭だ!』

『しかし何でまた……。やっとブルートバードとも落とし所が見えたっていうのに……』

『畜生ッ! “結社”の奴ら、よりにもよってこんな時に邪魔を……!』

『無駄口を叩く暇があったら走れ! 教皇様や聖浄器を守るんだ!』

 だからこそ、耳を澄ませて飛び込んできたその断片的な情報に、塀の上から顔を出して覗

き込んでいたこの記者二人は思わず顔を見合わせていた。先輩だけではなく、後輩の方も脚

立の上に上り掛かって来、今聞いたそれを信じられないという風に眼を瞬かせる。

「……先輩」

「ああ。こいつは、とんでもない事になったぞ……」

 後輩記者が、理解したその事実に震える。

 だが一方でこの先輩記者は、寧ろ興奮したように目を見開き、嗤った。

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