78-(2) 拡散攻防線
「な、何だ、こいつら?! 何処から出てきた!?」
「黒ずくめの被造人に鎧騎士……。まさか“結社”かっ!」
一方その頃地上では、始祖霊廟前の中庭でも戦いが始まっていた。
聖教典の開帳、その準備が整うまで地上で待機していた他の神官兵と騎士達だったが、突
如空間転移してきたオートマタ兵の軍勢に強襲され、瞬く間に防戦一方となってしまってい
たのである。
特に、その中に黒騎士──新型の狂化霊装が一体交ざっていたのが致命的となった。パイ
プ役をしていたリカルドが手に入れ、教団上層部から降りてきた情報によるとこの黒騎士は
生きた人間をその動力源に使っているという。そんな知識のせいもあり、下手に攻撃するこ
とを躊躇ってしまったせいもある。逆にヴェルセーク当人は全く彼らのような遠慮は無い。
狂化された力そのままを、鱗状刃の右腕で薙ぎ払い、気付けば相当数の神官兵らが重軽傷を
負って倒れてしまっていた。
「地下はどうなっている!? 教皇様達とは連絡がつかないのか!?」
「だ、駄目です。通じません! 魔流がジャミングされているようで……」
状況がいまいち把握し切れない。それでも神官兵達は霊廟の入口前に集まり、彼らの侵入
を防ごうと戦っていた。防衛線の内側で、技術兵がエイテルらの無事を確認しようとする。
だがシゼルが乱入し、多くの手駒を召喚しているためか、既に周辺の魔流は平素の流れから
大きく変質させられてしまっているようだ。
「くそっ! どこまでも邪魔を……」
「棟内から待機組を呼べ! このままじゃ霊廟ごと叩き壊される!」
上からの指示を待っていては間に合わない。そう判断して、現場の神官騎士らは辛うじて
無事な回線を全て本部内の友軍へのSOSに回させた。剣戟の音は否応なしに聞こえていた
のだろう。連絡を取るか取らないかよりも早く、既に数隊が駆けつけてくれる。だがどんな
に数を率いても、半ば無尽蔵に湧いてくるオートマタ兵達の勢いは押さえられなかった。何
よりもヴェルセークという怪物がこちらの友軍を数十・数百単位で抉り取ってしまう。
「真正面から押そうとするな! 数で囲め!」
「地理を活かせ! ミノフス隊、ランバート隊、シェスカ隊、左側面を!」
故に一同は、駆けつけてくる味方の数を当てに、オートマタ兵とヴェルセーク達を中庭と
いう空間の中に閉じ込めて時間を稼ぐ作戦を採ろうとしていた。背後は壁、右側面と正面は
霊廟前に最初待機していた兵力と、追加でやって来た味方の兵力を随時混ぜながら奥へ奥へ
と押し固めるように展開する。
左側面は、この追加の彼らの半分を注いだ。
銃弾が飛ぶ、剣先が突き立てられる。数で肉薄し、押さえ込む。一ヶ所に纏めてしまえば
範囲型の魔導で消し飛ばすことも──。
「グ……オアァァァーッ!!」
咆哮と、反射的に強張る彼らの全身。
オートマタ兵らにすし詰め状態にされてゆくのが癪に障ったのか、ヴェルセークが次の瞬
間吼えた。右の豪腕は届かない。ならばと今度は左手を正面にかざし、レーザーの光を溜め
込み始めたかと思うと、正面から敵援軍のやって来る左側面へ、掃射のようにこの一条の破
壊光線をスライドさせたのである。
『があああッ!!』
「ひ、退け! 退けーッ!」
ごっそりと、扇を描くように緑の地面が抉れ、その射線上に焼き爛れた神官兵達の山が築
かれた。密集して押し遣っていた作戦を、さも逆手に取られたのだ。
辛うじて逃げた者達は絶望したように顔を引き攣らせていた。目の前で、見知った顔がい
とも容易く死んでいる。
『……』
ガチャリ。更に暇を与えないように、オートマタ兵らは隊列を整え直した。
脅威のレーザーを放つ為にヴェルセークは後方へ。これを守るように四方にぐるりと長盾
と槍を装備したオートマタ兵が並ぶ。そこから更に二刀剣の兵と、機銃の兵が交互にこの外
周に並び、対峙する神官兵らとの接触線に構える。
「……そんな」
「もう駄目だ……。おしまいだぁ……」
だが、そんな時だったのである。
睨み合う──その実は“結社”の侵入者達に気圧される構図の中、突如としてぐいと引っ
張られる力があった。それは狙い澄ましたようにオートマタ兵らだけを捉え、中空へと千切
っては投げ、千切っては投げしてその防御層を突き崩す。更にその隙間を縫って、幾本もの
黒い触手がまるで鋭い刃のようにぐんと伸び、次々とヴェルセークの装甲に突き刺さったの
だった。フルフェイスの赤い左のレンズ眼がギロリとその方向を睨み、全身を縫い止められ
ても尚、破壊を続けようとする。
「何やってんだ、お前ら!」
「地下には教皇様や総隊長がいるんだぞ? 諦めるなんてことは許さない」
「ダーレン隊長、ヴェスタ隊長!」
「良かった……。まだ助けがあった……」
本棟の渡り廊下から飛び出してきたのは、まだ手負いのままながら事態の急変を知って押
し出てきたダーレンとヴェスタだった。両手に纏わせた《寄》でオートマタ兵達の陣形を切
り崩し、手加減なしの《影》の触手がヴェルセークに刺さっている。
「全く、やれやれだ。ただでさえ私達は骨折れ損のようなものだったのに」
「同感だ。正直癪だが、このままみすみす殺させれば、外交問題にもなりかねんしな……」
部下達を率いて拳を構え、或いは剣をざらりと抜き放つ。
私情は燻っているが、組織が和解を受け入れざるを得なくなった以上、もうそれを表に出
すことはできまい。やったやられたを除けば、彼らの中には一国の王子すら含まれている。
「諦めるな! 総員、俺達に続け!」
「この無粋極まる侵入者どもを、駆逐する!」




