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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-78.真声にして侵すべからず
70/436

78-(0) 理の啼き声

※旧版(現〔上〕巻)の初回掲載日=2016.10/5

 一体どれだけ気を失っていたのだろう。目を覚ました時、室内に差す日の加減からミュゼ

は少なくともあれから半日以上は経ってしまったのだなと理解した。

 レナ・エルリッシュの実親、セディナ夫妻を確保すべく赴いた散光の村ランミュースで、自分はハロルド

・リカルド両兄弟との戦いを強いられた。

 一対一ならまだ勝算はあった。リカルド・エルリッシュには競り勝っていた。なのにあの

時ハロルド・エルリッシュが邪魔をしてきて計画が狂ってしまった。……まさか色装を看破

する能力とは。“蒼鳥”やレノヴィンだけじゃない。もっと警戒すべき相手はとうの昔から

すぐ身内ちかくにいたのだ。

(ここは何処でしょう。どうやら倉庫の中のようですが……)

 西日に目を細めながら、ミュゼは室内をぐるりと見渡す。中は干し終わった藁や袋詰めに

された麦、樽に入った果物などが所狭しと置かれていた。

 自分を捕らえたものの、放り込んでおく場所に困って一先ずここに寝かせたのだろう。後

ろ手にされた手首に封印術式の光輪──十中八九、ハロルド・エルリッシュの仕業がなけれ

ば、ぼんやりする暇もなく今すぐにでも脱出している。あの後、手当ては施されたようだが

身体中のダメージが消えた訳ではない。

「誰かいますか? 今は何日の何刻ですか? あれから何が起こったのですか?」

 なので、外に向かって呼び掛けてみる。最初はしんとしていて返事がなかったが、遠巻き

に耳に入ったのか、恐る恐るといった様子の足音が複数近付いて来た。

 いいのかな? 出しちゃって……? そんな相談でもしているのだろう。木製の粗末な扉

の前で逡巡する気配がし、しかし封印の輪がしてあるのだからと彼らはおずっと扉を開ける

とミュゼを表に出してくれた。村人達は明らかに怯えていた。やはりこれは、彼ら自身の意

思という訳ではなさそうだ。

「……部下達は?」

「は、はいっ! すぐに連れて来ますっ!」

 わたわたと走っていく村人。どうやら部下達は無事らしい。もし一人か二人でも殺めてい

たら反撃の口火にでもできたのだが。

 程なくして別の場所に軟禁してあった部下達が戻って来た。同じく手には封印の光輪が嵌

められている。

「無事で何よりです。それで、あれからどうなりましたか? セディナ夫妻やエルリッシュ

兄弟は何処です?」

 申し訳ありません……。心なしか項垂れる彼らを今更責め立てる気も起きず、ミュゼはた

だ数度目を瞬くと、落ち着いた口調で彼らに事の経過を訊ねてみる。

「その事なのですが……」

 そしてこの部下の神官兵達からミュゼは知った。半日どころか、今は既に一晩を越して丸

一日が経とうとしていること。ハロルド達はセディナ夫妻を連れてとうに村を出、“蒼鳥”

達と合流したと思われること。そして何より先刻、神王ゼクセムによる宣託──レナを巡る

争いを止めよとの旨が天上より下されたという事実を。

「……それは、本当なのですか?」

「は、はい。間違いありません」

「聖都の方角からも光が差していました。神託御座オラクルとしての表明だと仰せられていましたの

で、おそらく今頃は統務院や万魔連合グリモワールにも正式にその御意思が届いているものかと」

「本当、凄かったよな……」

「ああ。今まで生きてきて、神様の声なんて初めて聞いたよ……」

「……」

 居合わせた村人達も口々にそう追従しては頷いている。彼らだけならまだ口裏を合わせて

嘘をついているかもしれないと考えたが、部下達もがそれに加わっている。調べればすぐに

分かることだが、本当なのだろう。それに神々を理由に使うなど、一介の村人達だけの知恵

とは到底思えない。

「ほ、本当ですよ?」

「ですからもう、私達はお咎めなし、ですよね……?」

「……」

 恐る恐ると村人らは言う。だがミュゼはその質問には答えなかった。

 保身が透けてみえる器の小ささというのもある。だがそれ以上に今の自分に事を断定でき

る権限や情報の持ち合わせはないのだ。決めるのは本山、総隊長や教皇様である。何よりも

彼らを見せしめ的に処罰しようにも、今回の任務が失敗──クラン・ブルートバードの知る

所となってしまった以上、それは逆効果にしかならないだろう。

(……それよりも)

 パッと頭の中でそんな思考を整え、ミュゼは空を見上げた。

 秋の変わり易い曇り空である。だが彼女は、つられるようにこれに倣った部下達もまた険

しい表情かおになると、目を細めて凝視する。

 空が戦慄いていた。上空の魔流ストリームが大きく乱れて激しさを増している。

 聖都の方向だった。周りの村人達は気付いていない。魔導の資質と心得がある者だけが視

ることができる、真の世界の姿である。

「本当に、解決したのでしょうか?」

 頭に疑問符を浮かべる村人達を余所に、部下の一人がそう表情を曇らせて言った。意図は

明白である。神王自らがわざわざ介入までしたというのに、聖都のそれはまるで混迷の最中

のように見えたからだ。

 ミュゼもこの部下の疑問に賛成だった。何か……嫌な予感がする。

「本部に連絡を。この戒めを解き、至急聖都へ戻ります」

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