77-(3) 導都ウィルホルム
時を前後して。
ダン達南回りチームは道中刺客に襲われたり、ジークら交戦の報を聞きながらも、当面の
目的地である導都ウィルホルムへと到着していた。
高く頑強な石垣で区切られた街の正門を潜る。そこは巨大な、一大学園都市だった。
周囲よりも数段高く、中心の棟から六方向に分岐してそびえる煉瓦造りの建物がおそらく
魔導学司──魔導の最高学府だろう。この街は文字通り同学府を中心にして広がっていた。
煉瓦や石造りの古風な家屋が建ち並び、その両側が幾つもの路地を形成している。
多くはやや丸みを帯びた四角形の石畳で、中心部たる魔導学司本棟に向かって緩やかに勾
配している。風格という奴なのだろうか。どこを見渡しても辺りには魔導師らしき通行人で
溢れ、何となくダン達のような余所者には息苦しい。
「ふわあ……。大きな街ですねえ……」
「街というよりはキャンパスみたいだな。梟響の街の学院を思い出すよ」
「魔導学司校自体が魔導学司が各地に建てた養成所だもの。多少なりとも雰囲気が似るんで
しょうね。私も、実際に来るのは初めてだわ」
「……ボク達、浮いてる?」
「かもしれねぇな。余所ならまだしも、ここは魔導師の街だろ。俺達みたいな冒険者の類は
寧ろ少数派だったりするのかもしれん」
「確かに……。ダンさんやグノさんみたいな格好の人、あまりいないね」
「いても正規の契約で入って来てる警備兵くらいなもんじゃねぇか? それよりも突っ立っ
てないで行こうぜ? 予想はしてたが、じろじろ見られ始めてる」
魔導師じゃない──。まるでそんな当たり前を違和感に、少しずつ往来の視線が一行に向
けられる始めるのを感じた。ステラがローブの被りをきゅっと握る横を、グノーシュが言い
ながら皆に促して歩き出す。
ロゼッタに都合して貰った、魔導学司との会談予定は三日後だ。
一先ずダン達は街中をぶらつきながら当面の宿を探してチェックインし、荷物を置いてか
ら再び外に出た。時間は少し余っている。情報収集がてら散策をしてみることにした。それ
にまだ、サムトリアン・クーフを出てから新しい『陣』を敷ける場所も見つけていない。
ちょっとした観光気分だった。
尤も、こうしている間にもジーク達北回りチームがレナの自由のため奮戦しているのを知
っている手前、心の底から気楽にというのは難しい。実際ミアやステラ、マルタは終始緊張
したように唇を結んだ表情をしていた。
「……何か食うか?」
なのでダンが、通りすがりの露店を見つけて促してやると、ステラとマルタがぱぁっと少
し華やいだ。ホクホク出来立て大学芋だった。とりあえず三人分買ってやり、楊枝で刺して
頬張っている。それでもミアは、黙々と食べるだけで父の気遣いには乗らなかった。……単
に元々の寡黙な性格なのかもしれないが。
「流石は学問の街だな。本屋がごろごろとある」
「アルスがいたら喜んでいたでしょうね。どれも余所では手に入り難い専門書ばかりだし」
「……」
教養組──サフレやリュカは通りのあちこちに居を構える書店・古書屋を見つけては覗き
込んでいた。クロムが黙っている。もっと別の意味で、彼は現を抜かしてはいけないと自ら
を戒めているのか。
「おっ?」
そんな最中だった。ふと石畳から延びた広場に出てくると、見上げた煉瓦棟の頭上に複数
の大型映像器が備え付けられているのに気付いた。リアルタイムでニュースを流しているの
だろう。……見れば、画面にはちょうどイセルナとジーク、レナ、ハロルドと教皇エイテル
が握手を交わしている様子が映し出されていた。
「……ジーク達、作戦通り進んでいるみたいですね」
「ああ。イセルナやハロルドもいる、下手は打たねぇさ。俺達は俺達のやるべきことをやれ
ばいい。信じてやるのが、仲間だ」
そう敢えてニッと笑ってみせたのは、他でもないダンの気遣いだ。特務軍参加の初っ端か
らトラブルに、いやそもそも今まで散々トラブルの渦中に放り込まれ続けてきた不安とスト
レスに、仲間達が何も感じていない訳がないからだ。
こと娘達、レナと仲の良い面子は尚更だろう。強がってはいるが、しっかり見てやらなけ
ればなと一人内心で思う。
「……ダン。会談までに三日あるがどうする? まさか無為に過ごしはしないだろう?」
「ん。その心算ではあるんだがな。こっちでの結社の動きや聖浄器についての情報収集──
噂でも何でも、直接足を運んだからこそ知れるものもある筈だ。まぁ大半は魔導学司から色々
訊けるだろうし、なら他のことをって考えるんだが、如何せんこの街はあんまり陣をホイ
ホイ敷ける場所はなさそうだしなあ……」
ぽつり。クロムがそう神妙なままの面持ちで横目を遣り、訊ねてきた。ダンもダンとて事
前に整理中の思考を口にするが、それでも中身がふわっとしているのは否めない。
「つーかよぅ、グノ。お前が道中何かと急かすからだぜ? そりゃあ何があるか分かんねぇ
し、余裕があるに越した事はないが、俺達の目的はあくまで翠風の町なんだからな」
故に、ガシガシと軽く後ろ髪を掻きつつ、ダンは親友に向く。
だが当の彼は、寧ろニヤニヤと笑っていた。まるでそれが想定内だとも言わんばかりにど
っしりと構え、その瞳にはある種の嬉々のようなものが宿っている。
「分かってるさ。だが此処に来るって話になったから、せっかくだと思ってな」
「うん?」「……?」
「ダン、ミアちゃん。皆も聞いてくれ。案内したい所がある」




