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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-77.かくて携えぬ者達は
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77-(2) 地下水洞にて

 ジーク・イセルナ・レナ・ハロルドの四人と別れ、シフォンとクレア、リカルド及び同隊

士達は聖都をぐるりと迂回するように北へと向かった。

 街の北には、教団本部を背後から囲むように起伏の激しい丘陵地帯が広がっている。その

一角にあるのが四大ストリームの一つ、黄の支樹エギル・ストリームだ。今回の協力者シゼルの話によれば、こ

の巨大な魔流ストリームの存在により、聖都全域を覆う結界はその規模を山の手前ほどで留めざるを得

ないらしい。伸長すれば、その高エネルギーに相殺されて結界の維持が困難になるという。

 今回、今日この日の作戦は、その内情を知った上でのものだった。

 表向きはジーク達が直接交渉を行い、レナの自由と聖浄器の譲渡を模索する。勿論、話し

合いで済めばそれに越した事はないのだが、これまでの経過から向こうが急に態度を軟化さ

せるとは考え難い。そんな時、もし決裂した場合はこちらの出番だ。会談の最中、この山の

地下から本部へと潜入し、聖教典エルヴィレーナをいつでも確保できるように準備を整えておくのだ。ジー

ク達と合流し、レナに持たせてある志士の鍵で内部へ──始祖霊廟へと突入を敢行する。し

こりこそ残ってしまうが、自分達としてはクリシェンヌの聖浄器さえ手に入ってしまえば、

これ以上教団と争う義理などないのだから。

「あ、皆さ~ん。こっちです~」

 山道に入り、疎らに残るかつて整備された路を登っていくと、途中の林の前でシゼルが待

っていた。こちらに気付いてほんわかと手を振っている。シフォン達一行は軽く顔を上げる

と彼女の下へと近付いて行った。

「こんにちは、今日はお世話になります。……大丈夫でしたか? 途中、魔獣などが出るか

もしれないのに……」

「いえいえ。大丈夫ですよー。これでも多少魔導は使えますし。それにこれだけストリーム

が常時供給されているような場所なら、瘴気も滞留しようがないですから」

 イセルナの端末越しに、面々は昨日の内に繰り返し打ち合わせを済ませてある。リカルド

が取り出している携行端末──兄・ハロルドが散光の村ランミュースへ飛ぶ前に借りていった端末には、

既にこの辺り一帯の地図と教団本部を結ぶ水脈の分布図がインプットされている。

 林の向こう、山々の奥に黄の支樹エギル・ストリームが覗いていた。見氣の眼を持つ者にしか見えないが、そこ

には確かに淡く金色に近い輝きを放ち続ける巨大な光の柱が天地を貫くようにそびえている。

「イセルナさん達、もう教団と話し合い始めてるかな?」

「いや、四人が街の正面に出るのはもう半刻くらい先だ。距離的にも、俺達が先にスタート

しないと間に合わない」

 ディスプレイに表示される時刻を見ながら、リカルドが頭の中でタイムテーブルを読み返

していた。あまり悠長に立ち話をしてもいられない。早速シゼルを先頭に、目の前に広がっ

ている洞窟の入口へと足を踏み入れていく。

 地下水洞──聖都北の丘陵地から降りてゆくその空間は、まるで別世界だった。

 勿論、人の為に整備されている道などない。ゴツゴツと出っ張り、しかし表面は長年の水

流に揉まれてきたからか艶やかな上を、慎重に歩いていく。

「……まさか、こんな所があるなんてなあ」

「言われなきゃ絶対気付かないぜ」

「俺達も一応、聖都の出身なのにな……」

 隊士達が時折、そうめいめいにごちている。地元の人間でも中々知らない穴場であるよう

だ。いわゆる鍾乳洞である。見上げる天井には垂れ下がる無数の鍾乳石、足元周辺には無数

の石筍がじっと佇む。間近の支樹ストリームの影響なのか、その全てがぼんやりと奇麗な黄色を内包し

ている。

「よく調べたよなあ、こんな所」

「ふふ。徹底した聞き込みはフィールドワークの基本ですので。あ、次そっちを左です」

 感心しきりながらも、端末を手にしたシゼルの案内で一行は迷いなく進む。

 奥に進んでいるからか、辺りは魔導の灯り無しではすっかり暗くなってしまっていた。時

折リカルドが端末の画面を覗いて位置を確認しているが、実に複雑な地形である。

「……ん? 少し登り坂になってきたね」

「ああ。ぼちぼち折り返しだ。予定通りなら、光が見える先が本部北の庭になってる筈だ」

 一人でいたらきっと迷っただろう。案内がなければそもそも来ようとすら思わなかっただ

ろう。シフォンが地面の微妙な変化を捉え、リカルドも応じた。まだ洞窟内は暗がりのまま

だが、臆することはない。進むしかない。

「急ごう。そろそろイセルナ達も本丸に入っている頃だ」

「ええ」

 気を引き締める。この先で待っている、試練の時を乗り越える為に。

「──」

 だがこの時、一行はまだ気付いていなかった。

 先頭を行くシゼルの微笑みに、フッと陰が差したのを。

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