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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-76.或る兄弟の嘆歌(ラメント)
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76-(4) 空の上で

「おーい、こっちにも薬を頼む!」

「誰かF7とT5の鋼板取ってきて~。あとボルトも~」

 転送リングを使い、ジーク達は聖女の塔からルフグラン号へと帰って来た。こちらが送っ

た精霊伝令を受け、シフォン達も既に戻って来ているようだ。

 これまでの経緯と被害を見聞きし、船内はにわかに慌しくなり始めた。正門前広場や聖堂

で負傷したリカルド隊士を中心に、団員達が《慈》の力で治療をするレナのサポートに走り

回っている。ヴェスタに装甲を貫かれたオズも、レジーナ以下技師組の面々に早速、寄って

集って修理され始めていた。

「……そうか。結局教団は取り付く島もない、か」

「ああ。まさか向こうに着く前にとっ捕まるとは考えてなかったんだけどな」

「でも態度自体は充分予想通りよね。向こうにしてみれば面子が丸潰れな訳だし」

 その一方でジークやイセルナ、手の空いた仲間達はエリウッドと操縦室のテーブルを囲ん

で話し込んでいる。特に行き先はない浮遊。制御は一旦自動操縦に切り替えてある。

「やっぱり聖浄器は本部の中、ですか」

「参ったなあ。それってつまり団長達が無駄にドンパチやってきただけって事じゃん」

「かもしれないけど、そもそも彼らが聖堂の司祭から聞き出していなければ確証は取れなか

ったことだよ。混乱こそ招いたが、意義はあった」

 団員達の、頭を抱えた気難しい表情かお

 だがシフォンはあくまで前向きに現状を捉えようと努めていた。皆で視線を寄越し、レナ

らに手当てされているリカルド隊士らのサムズアップに苦笑えみを返す。

「もう、直接対決は避けられないのでしょうか?」

「生憎な。だがまぁ、実際連中とは梟響の街アウルベルツでやり合ってるんだ。今更怯えてどうするって

のもあるだろ」

「そうだけど~……。そもそも原因を作ったのはジークじゃん」

「あははは……」

「どっちにしろ明日が正念場だね。でもオズ君は戦線離脱させないと駄目だよ? 辛うじて

コア部分は逸れてるけど、かなり深くまで装甲を貫かれてる。普通に過ごそうが戦おうが、こ

のまま放っておいたらいつコアにダメージを受けるか分かんないからね」

 発光する掌を優しく隊士達にかざしながらレナが言った。ジークはもう直接対決の覚悟を

決めていたが、クレアが茶化すようにそもそもの切欠は彼の挑発である。一方のレジーナは

オズのパーツを順繰りにバラしながら言った。本人は平気だと言っていたが、その実損傷は

かなり危険な所であったらしい。

「スミマセン……。マスター、皆サン」

「気にすんな。シフォン達を守ってくれてありがとよ」

「……そうなると、問題はどうやって教団本部に潜入するかだね。イセルナ。そっちの話だ

と現地で協力者を得てきたそうだけど……」

「大丈夫、なんですかね? そのシゼルっていう学者さん」

「教団のスパイとかじゃないんです?」

「うーん。そんな悪い方には見えませんでしたが……」

「その可能性は無いんじゃねぇか? もし奴らの仲間ならあそこまで道案内なんざしてくれ

ねぇよ。塔の中に入っても神官兵をかち合わせるような事はしなかったし、俺があのハゲを

倒した時もレナと一緒に見てただけだったしな」

「うーむ……」「ハゲ?」

「ジーク達が帰って来る前に邪魔してきた奴らの片割れだろ? ダーレン、だっけ」

「確かに不明瞭ではあるけど、彼女からの提案以外に方法が見つかっていないのも事実よ。

今は利用できるものは何でも利用しましょう。時間が過ぎれば過ぎるほど、基本的に私達は

不利になっていくのだから」

 押忍ッ!

 不安と模索。意見は分かれていたが、団長イセルナの一言で大よその方針は堅持された。

 ジークを信じたいというのもある。だがそれ以上に現状を打破する為の手が欲しかった。

アルスの策略により、導信網マギネット上では今も教団の一連の行動には賛否両論が挙がっている。信

頼と懐疑。だが両者はそもそも対“結社”戦争を認めるか否かという二分論に立脚している

と考えていい。百パーセントの味方などいないのだ。後ろ盾である所の統務院も、中々教団

と面と向かって戦えない──手を出せない以上、今回のゴタゴタは基本自分達でどうにかす

るしかない。

「……それにしても、ハロルドさんとリカルドさん、戻って来ないな」

「リカルドさんを追って行ったんだっけ?」

「ああ。二人とも急にこっちに帰って来てさ。散光の村ランミュースが危ないからとにかく急いで送って

くれって……」

「確かに僕らが聖都に送り出されていた今、村はがら空きだ。もしセディナさん夫妻が人質

に取られれば、僕らはほぼ確実に“詰み”になるだろうね」

「……。お父さん、叔父さん……」

 毛布の上に横にされている隊士の手を取ったまま、レナはくしゃっと顔を顰めていた。今

にも呼び戻された不安に押し流されそうである。

 ジーク達はそんな彼女をちらっと見た。心配なのは自分達とて同じである。

 だが今から行って間に合うのか? そもそもレナ解放の為の闘いなのに、その為にわざわ

ざ芝居を打って聖都内へと送り届けてくれたのに、それは悪手にはならないか?

「ハロルドがついていれば、余程の事がない限り大丈夫だとは思うんだけど……」

 心配ね。表向きはそう仲間を信頼しているようだが、その実は団長イセルナもまた彼らの状況が気

掛かりだった。

「連絡取れねぇかな? それかもう、連中とかち合っちまってるのか」

「一応、出がけに端末を借りてたから出来なくはないと思うけど……どうかなあ」

 そわそわ。

 助けに行こうにも、向こうがどうなっているかが分からない。

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