表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-74.彼女という起源(ルーツ)(後編)
43/436

74-(4) 分かたれたものら

『うおおおーッ!!』

「押せ押せ! リカルド隊の意地、見せてやれ!」

「ちっ……。何をやってる! 不良上がりの相手に手間取ってんじゃねぇよ!」

「しゃにむに、か。仕方ない。ここは──」

「させるかよっ!」

 一方、聖都南方、街の正面ゲート前広場。

 ジーク達を逃がし、ダーレン・ヴェスタ両隊と時間稼ぎの戦いに突入したリカルド達は、

状況が許した勢いのままに激しく打ち合っていた。

 尤もそれは勝っているからではなく、寧ろ劣っているからである。

 雑兵は隊士達が押さえ、ダーレンそしてヴェスタの《影》をリカルドが投げつけた閃光弾

で以って切り込み、とかく動きを封じる事に徹する。

「皆さん、急いでここから離れて!」

「巻き込まれても知らないんだからねっ!」

 更に援護射撃をしながら、シフォンとクレアが周囲に留まっていた市民やじうま達を逃がし、遠ざ

けようとする。

「役立たずどもが。この程度の数、引き剥がして──」

 そして存外の反撃に苛立ち、ダーレンが《寄》のオーラを広げた掌に込める。

「ッ!?」

 だが直後、目の端に迫ってくるのは影。ダーレンは寸前で練ったオーラをほぼ全て防御に

回し、この硬く重い質量の一撃を受け止めた。ズザザッと大きく押し出される。顔を顰めて

見上げれば、それはオズが放ったチェインドパンチだった。

「ヤラセマセンヨ」

「……けっ。帝国の置き土産が」

 あちこちでの対峙。するとそうしている内に、街の中心部の方から新たな軍勢が駆けつけ

て来た。三柱円架の胸飾りをあしらったコートと防具──援軍の神官兵達だった。

「ダーレン隊長、ヴェスタ隊長!」

「加勢します!」

「ああ。ありがたい」

「ふん……。俺達で捌けなかったのは癪だが、まぁこれで形勢逆転だな」

 元より数の上で上回っていた訳ではなかったのだ。敵の援軍も加わり、リカルド達を囲む

神官兵らの人数は大きく膨れていく。

「くぅ……!」

 じりじりと。隊士らも押され始めていた。リカルド、シフォン、クレアにオズ。多勢に無

勢だった。このままでは完全に包囲されて潰されてしまう。

「……潮時だね」

 するとそんな戦況の変化を見計らって、シフォンがオーラを込め始めた。同時に彼の足元

からその霧のようなエネルギーが四方に広がってダーレン・ヴェスタ達にまで広がり、それ

まで朝日に照らされて明るかった周囲がにわかに怪しい薄暗さを伴う。

「っ!? これは……」

「お、おい。さっきの妖精族エルフがいっぱいいるぞ!」

「ど、どうなってんだ? 分身、したのか……?」

 戸惑う神官兵。既に情報を得ていたのかダーレンとヴェスタは比較的落ち着いていたが、

兵数の大部分を占める彼らが惑えば充分だ。クレアにオズ、リカルドと隊士達が彼の目配せ

を見てすぐさま撤退を始めた。同時に群れをなすシフォンの幻影達は一斉に矢を放ち、その

真贋を即決できない兵達を次々に倒していく。

「急げ! あの二人が追って来る!」

 ダーレンとヴェスタが部下達を押し退けて追おうとした時には遅かった。シフォン達は既

に霧と兵達の混乱に隠れ、その場を脱出してしまった後だったのである。

 やがてオーラで作られた霧は晴れていく。石畳と白亜の美麗な街並みは本来の雰囲気を取

り戻し、跡には射られた──出血ないし幻覚で苦しみ、地面に転がっている兵達の山が出来

上がっただけだった。

「ちっ……。逃げられたか」

「お前達しっかりしろ、あれは幻術だ! 怪我人の確認を急げ! 動ける者はこのまますぐ

奴らを追うぞ!」


「盟約の下、我に示せ──折光の衣ミラージュコート

 四人と隊士達は急ぎ市中へ逃れた。路地裏から路地裏へ、物陰から物陰へと移り、ようや

く追っ手を撒いた頃には皆じわりと汗をかいていた。

 しかし、のんびりと休憩している暇はない。一旦物陰に身を潜めて神官兵達が遠くへ過ぎ

去ってゆくのを確認してから、シフォンはオズに屈折の聖魔導を掛けた。目の前でその巨体

が消え去ったように見える。光の屈折を操り、他者の視覚に映らないようにしたのだ。彼に

は悪いが、その姿はどうしたって目立ってしまう。

「やれやれ……やっと逃げ切れたか」

「皆さん、はぐれたり怪我したりした人はいませんか?」

「大丈夫。全員ついて来てる」

「多少、やり合って傷のある仲間はいるがな」

 顔や腕、胸元の服に生傷をつけた隊士達が四人五人と。しかしそれでも彼らの表情は一様

に晴れ晴れとしていた。リカルドと同じく、ようやく心の荷が下り、本当の自分になれて気

持ちがすっきりとしているのだろう。

「ハロルドやレナちゃんがいたらしっかりと治療が出来たんだけどね。暫くは耐えてくれ。

それで相談なんだが、これから僕らはどうすればいいだろう?」

 うーん……。シフォンが問い、皆が一斉に唸り始めた。

 ともかくあの時は必死で、ジークをレナを教団本部へ送る事を最優先にした。向こうもこ

ちらの意図は汲んでくれている筈だが、この敵地アウェイでどうやって目的を達成する事ができるだ

ろうか……?

「あ。精霊さんだ」

「こいつは……兄貴からか。ふむ、ふむ。なるほど……」

 そんな時である。ふと一行の頭上からふよふよと小さな光の球が降りてきた。最初一瞬は

目を細めたが、魔導を心得る面々にはすぐに分かる。光球──伝令に来た精霊はリカルドの

掌に着地し、静かに点滅しながらその内容を教えてくれた。

「エルマ=ニシュか。確かにあそこなら光の書があるかもしれねえ。兄貴達はルアークの聖

女の塔を調べるそうだ。どっちかにあればよし、無ければ本山前で合流して乗り込むとよ」

「ナルホド。手分ケシテ、デスカ」

「妥当な作戦だね。時間を掛ければ掛けるほど、僕らはおそらく不利になるから」

 ハロルドからの伝言曰く、向こうは東の『聖女の塔』を当たるそうだ。その間に自分達に

は西の『エルマ=ニシュ大聖堂』を調べて欲しいとのこと。

 魔導に隠れてオズが、声と微妙な空気の揺らぎだけで呟いていた。シフォンも向こうから

の方針に賛成し、そう言って静かに硬い表情になる。

「そうと決まれば善は急げだよ。で、その聖堂ってのは何処にあるの?」

「……ああ。それなんだが──」

 するとリカルドは、数拍何処か歯切れの悪いような間を置いてから、言う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ