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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-74.彼女という起源(ルーツ)(後編)
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74-(2) 浄器と盟約と

「オッケー。そのまま真っ直ぐこっちに引いてくれ」

文様ルーンを間違えるなよ? 一つ一つ慎重に確認しろ」

「おーい、こっちにもボルトくれ。足りなくなった」

 時を前後して、サムトリアン・クーフ大統領府内中庭。

 ロゼ大統領との面会を終えたダン達南回りチームは、一旦二手に分かれて別行動を取って

いた。内ダンとミア、グノーシュは大統領府に残っている。セキュリティの観点から高い塀

に囲まれた中庭。三人が見守るその一角で、ルフグラン号から連れてきた技師達が忙しそう

に右へ左へと動き回っていた。

 それは即ち、陣を敷設する為だった。面会後ロゼッタらに許可を取り、現在こうして転移

用の中継地点の一つとして登録している最中なのだ。四盟主の一つである。今後も何らかの

形で行き来する必要性が出てくるかもしれない。

「……本当に大丈夫かしら。領民に知れたら間違いなく抗議が来るわよ」

「彼らに──特務軍であれば何をしたって抗議したい者達は騒ぎますよ。それより、彼らに

こんな秘密兵器があるのはおそらく統務院でも把握している者は少ないでしょう。私達にと

ってはアドバンテージになる筈……」

 尤も、この先もっとあちこちで敷設されていけばその価値も落ちていくのだろうが。

 執務室の中から遠巻きに眺め、心配しているロゼッタにロミリアは言った。言葉通りの政

治的意味合いもあるが、いち魔導師としてもこの技術には興味があった。おそらく“結社”

の持っていた技術なのだろう。空間転移は両地点における大掛かりな設備が必要というのが

今日の常識だ。それをあんな金属板の魔法陣一枚と腕輪一つで可能になるなど、詳しく説明

されなければにわかには信じられなかった。

「……レナ達、大丈夫かな」

「全く平気って訳にはいかねぇだろうな。でもイセルナさん達やジークもついてるんだし、

何とかしてくれるさ」

「ああ。いざとなりゃルフグラン号に戻ってくればいいしな。別に無策でもなし。俺達は俺

達で出来ることに集中すればいい」

「……うん」

 敷設作業が仕上げに掛かり始めている。

 遠い北の地でもがいているであろう親友ともを想い、心配するミアに、グノーシュとダンは言

った。自分達はそう悠長に構えてもいられないのだ。実際、大勢で押しかけた所で向こうの

懸案が解決するかというとそうではない筈なのだから。


「次はこれだ」

「うわっ。また古そうな……」

「触れるならちゃんと手袋を嵌めてからにしろよ? 文化財なんだから」

 一方その頃、リュカとクロム、ステラ、サフレとマルタの五人はクーフ市内にある国立図

書館に来ていた。ロゼッタから話を通して貰い、内々に司書達に案内されて閉架されている

古文書を幾つか取り揃えて貰った。館内奥の会議室にて、リュカとサフレは白手袋とマスク

という重装備でもってこれらを一冊一冊読み解いている。

 ダン達南回りチームが一旦二手に分かれたのはこの為だった。

 知る為である。これまで只管「敵」として戦い続けてきた“結社”とは何か? 彼らが世

界を災いに巻き込んでまで集め回っている聖浄器とは何なのか? その詳しい真実を少しで

も明らかにする為である。

 大統領府に陣を敷設している時間を使って、文献を紐解く。

 リュカと、そしてクロムの学識をもって古文書の中から聖浄器についての記述がある書物

を次々にセレクトする。ステラとマルタからすればちんぷんかんぷんな羅列だが、学のある

二人やなまじ長い歳月を生きているクロムにとっては由緒正しい文章になるらしい。

「……うん。ここの年号もその辺りね」

「はい。断定していいと思います。──聖浄器の作られた時期は、魔導開放が行われた時期

とほぼ合致している」

 最初はリュカのおぼろげな記憶だった。

 もしかして。それを含めて確かめたくて、彼女は敷設を見守るダン達に声を掛け、一時別

行動を取ることにしたのだ。複数の文献・歴史書を照らし合わせて確認する。もしこれらの

記述に誤りがなければ、その事実はサフレの首肯する通りであると言えた。

「? それって何の意味が?」

「ええ。これは推測だけど、魔導開放はそれまで一部の人間のみが使っていた魔導を広く世

の人々にも与えるものだった。つまりはそれだけ魔力マナを消費──瘴気の発生し易い環境が生

まれる。聖浄器はもしかしたら、そのことを見越して作られた対魔獣用の抑止力だったんじゃ

ないかしら」

 答えられて、ステラが目を丸くする。緊張せざるを得なかったのだ。

 彼女は魔人メア。瘴気に中てられた結果生き残った、人間の総称──。

「でも、それが何で“結社”が聖浄器を狙う理由になるんです? 大盟約コードを消す為だとして

も、直接の鍵ではないって事じゃないですか」

「うーん。そこなのよねぇ。あくまで付随するものであって、大盟約コードの維持自体に関わって

いる訳じゃない」

「或いは、僕らがまだ知らないだけでそういった機能もあるのでしょうか?」

「だとしたら、何で世界中に散らばっちゃってるの? そんな大事なものなら普通中枢? 

みたいな所に置いとくものじゃん?」

「ああ。そう、なんだよなあ」

「……」

 リュカが虫食いだった知識から弾き出した仮説。しかしそれでもそれは、自分達が求める

真実こたえとまではいかない。マルタが問い、サフレが助け舟を出し、されどステラが突っ込んで

また疑問は入口へと戻る。

 まだ足りないピースがあるのだろうか……? リュカ達が文献の山を前に考え込む。

 そんな中で、クロムは一人じっと目を細めて考えていた。ジークがエイテル教皇と映像越

しに対峙した時、彼女に答えた言葉が脳裏に蘇る。


『こいつらはただの道具じゃねえ。心を……魂を持った武器だ』


『どうもこいつらは望まぬ形で聖浄器になったっぽいんだよな。化身っていうのかな。多分

その辺りが“結社”がしつこくこいつらを狙ってくる理由なんじゃねぇかと思うぜ』


(魂、か……)

 もう分かり合えないと諦めていたヒト達が、仲間に迎えてくれた彼女達がうんうんと頭を

抱えている。

 クロムはじっと押し黙っていた。

 苦虫を噛み潰すように。しかしそんな仲間達に向けてその口を開くこともなく。

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