表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-74.彼女という起源(ルーツ)(後編)
39/436

74-(0) 失望の銃口

※旧版(現〔上〕巻)の初回掲載日=2016.6/8

 部下を率い、ダーレンとヴェスタが不敵に嗤っている。

 だが何よりも胸の奥に熱を帯びたように突き刺さるのは、そんな二人の周りに取り囲んで

立ち、こちらを忌々しげに見つめる散光の村ランミュースの村人達の眼差しだった。

 保身、忌避、執着。

 向けられたそれは大よそ人間の悪意といっていい。

 しかしジーク達はそんな眼差しへすぐさま拳を振り上げることもできなかった。……知っ

ているからだ。これまでの旅で幾度となく経験してきたヒトの生の心、利害が絡んだその瞬

間の叫び。もしこの声に力で応じ、押し込めてしまえば、自分達は彼らにとって取り返しの

つかない「悪」となるだろう。

「ジ、ジークさん。皆……」

「……っ」

 背後でレナが震えている。セディナ夫妻もだ。やっと親子が再会できたというのに、彼女

達は今まさに引き裂かれようとしている。

 声が漏れた。ジークは内心沸き立つ憤りに拳を震わせていた。腰の柄に伸ばそうとして思

い止まった位置から手が動かせない。

 どうする? 無茶を承知であの神官騎士二人をぶちのめして逃げるか? いや、それでは

セディナさん達を危険に曝すことになる。少なくとも夫妻を連れた上でなければ行えない。

 守り切れるか? この数を相手に。

 戦うだけならどうとでもなる。だが夫妻が傷付かないようにと気を配れば配るほど、難易

度は数段飛ばしに跳ね上がる。見捨てる──そんな選択肢など端から無い。レナの、仲間の

両親だ。一旦転送リングで夫妻ごと船に戻るか? 正直まだ聖都にすら辿り着けていない状

態で手の内を見せてしまうのは得策ではないが……。

『……』

 ちらと密かに、肩越しに仲間達を見る。イセルナやハロルド、シフォン、クレア、オズは

既にこちらの意図を汲んでくれたようで、剣や弓、付与術エンチャント用のピンなどに手を伸ばして応戦

の構えを取り始めている。

 セディナさん達とレナを頼む。

 俺があの騎士どもを押さえておくから、その間に──。

「そこまでだ」

 しかし、その時だったのである。

 ハロルドの横に立っていたリカルドが突然拳銃を抜き、彼に向かって銃口を突きつけたの

だった。ジークは勿論、イセルナやシフォン、クレアの手が止まる。思わず振り返り、オズ

も咄嗟に右手の機関銃を向けていたが、躊躇無く彼を切り捨てるには心を持ち過ぎた。

「叔父さん……? 何で……」

「悪いなレナちゃん。俺にも立場ってもんがあるんだよ。悪いことは言わない。抵抗しない

でくれ。それがセディナさん達の身を守る事になるってことくらいは、解るよな?」

「……」

 弟にこめかみへ銃口を突きつけられたまま、ハロルドは黙っていた。

 レナがハロルドの、叔父の仲間の裏切りに動揺している。ジークが「こんな時に……」と

言わんばかりの形相で彼を睨んでいた。イセルナが一瞥を遣り、小さく頷いたシフォン達は

次々に得物をしまい直す。

「ほう? 仲間割れかい? だがいい判断だ。もし抵抗していたら、この後ここで起こった

であろう惨劇は、全て君達の所為になっていたからね」

「別に俺らとしちゃあそれでも良かったんだがよ。コソコソやらねぇでもぶちのめせる口実

ができたしな」

 ヴェスタがさらりと、そうとんでもない腹積りを打ち明ける。

 一方でダーレンはやはり血の気が多かった。あからさまに残念だと舌打ちし、ひっ!? 

と竦み上がる村人達、そして元同僚だったリカルドの帰還を疑わしく見遣っている。

「……本気か? リカルド」

「ああ。今の俺は史の騎士団所属の神官騎士だ。筋は通す」

 部下達がおろおろ、互いの顔を見合わせて戸惑っている。しかし兄に問われて答えるのも

そこそこに、彼は一人すたすたとダーレンとヴェスタ達の側に歩いていってしまった。

「連行しろ!」

 かくして、ジーク達は抵抗する術も封じられ、史の騎士団に捕えられることとなった。

 村人達が見守る中、一行は手錠を掛けられ、村の入口に横付けされていた馬車の中へと押

し込まれる。

 ジーク達は唇を噛んで俯いていた。レナがセディナ夫妻──カインとクラリスより引き離

され、されど“聖女”の身から仲間達とは別格の待遇で移送される。馬車の車輪がガラガラ

と少しずつ動き始めた。その姿が少しずつ遠くなっていく。村人達はようやくの安堵の息を

ついたが、しかし置き去りにされた夫妻とは皆そこはかとなく距離を置いて目を合わせられ

ずにおり、各々がばつの悪い顰めっ面を隠せない。

 夜の山道に馬車が溶けゆき、点々とした松明の灯だけがその存在を示す。

 封印の呪文ルーンを刻んだ鎖に繋がれた車内で、ハロルドはスッと静かにその視線を暗がりの中

から外にいるであろう弟の方へと向けていた。

「……」

 ガラガラと車輪の回る音がする。

 かつての同僚達に交ざり、リカルドは一人じっと神妙な面持ちのまま迫り出した踏み板に

腰掛け、馬車の扉に背を預けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ