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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-73.彼女という起源(ルーツ)(前編)
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73-(1) 蒼鳥集結

 レノヴィン兄弟による反転攻勢──クリシェンヌ教団に対する事実上の宣戦布告から数日

が経った。

 当初この事件は導信網マギネットを通じて世界中の人々が知る所となったが、少なくとも此処梟響の街アウツベルツ

には殊更の混乱はなかったようだ。守備隊が睨みを利かせてくれたこともあったが、それ

は十中八九、両者のやり取りの中でそもそもの発端が教団側にあったと明らかにされたこと

が大きいのだろう。

「──いやぁ、よくやった! スカッとしたぜ!」

 そうしてジーク達が古界パンゲアより戻り、ようやく団員全員が合流を果たして。

 ホームの宿舎では、件のジーク本人を中心に、ダンが呵々と笑いながら彼の背中をバシバ

シと叩いてた。痛いッスよ……。ジークは苦笑いで為すがままにされていたが、それはそれ

として仲間達に囲まれるさまは止んでくれない。

「いやまぁ、そりゃあ溜飲は下がりましたけど……」

「これからどうするんスか? 結局啖呵切ったのは変わらないんでしょう? 教団と本格的

にやり合うとなりゃあ、面倒な事になりますよ」

「……すみません。僕が勝手なことをしたせいで」

「あ、いや」

「別にお前らを責めるつもりはねぇよ。実際、ああでもしないとどんどん向こうは付け上が

ってくるままだったろうしな」

「そうね……。道中端末で状況は見せて貰っていたけど、ジークとアルス君があの時連携し

ていなかったら、私達はあのまま不本意な譲歩を余儀なくされていたでしょうし」

 アルスがレジーナ達に連絡を取り、あの公開いってを打ったと知ったのは騒動が一通り過ぎ去っ

た後のことだった。

 ばつが悪そうにアルスが改めて謝ろうとする。

 だがそれを遮ったのは団員達で、何より団長・イセルナもこれを擁護した。ダンのように

あからさまに表に出す訳ではなかったが、やはり彼女も教団の一連の強引さにはかなり頭に

来ていたらしい。

「うう。でも、元はと言えば私のせいで……本当に──」

「気にするな。お前のせいじゃない。奴らの本質など昔から分かっていた」

 だが誰よりも憤っていたのは、間違いなくハロルドであっただろう。後ろめたさに駆られ

再三レナが皆に頭を下げようとしたのを止め、言う。団長不在、団員分断の状況を狙った卑

劣さも然り。何より養女むすめを何度も泣かせたという怒りも然り。

「ああ、レナちゃんはなーんにも悪くない」

「そうだよ。信者やってるレナには悪いけどさ……今回の一件で教団に対するイメージ、大

分変わっちゃったもんね」

 団員達が、ステラがふんすと言う。レナは何処か哀しげな苦笑いで、その綺麗な金の髪先

をくるくると弄っていた。ジークもぼりぼりと髪を掻き、ばつが悪そうになっていく。

「……まぁ、あれだ。俺もついカッとなってって所もあったからさ……」

「いえ。私こそ。皆さん私の代わりに、怒ってくれて……」

「はいはい。謝り合いはその辺りにしておきましょう? もう教団と拗れてしまった事実は

変わらないわ。私達が今考えるべきはこれからどうするか、でしょう?」

 なので、このままだと延々ループしそうだった。そんな皆を見遣ってイセルナがぽんぽん

と手を叩く。一同は向けられた視線に頷き、互いに顔を見合わせて神妙な面持ちを取り戻し

ていった。

「だな。どのみち特務軍として教団の持ってる聖浄器も回収しねぇといけねえし……。その

意味じゃあ手間が省けたっちゃ省けたか」

「かな? 話し合いで譲って貰うに越したことはなかったんだろうけどね」

「十二聖ゆかりの組織だからなあ。そういやハロルドさん、リカルドさん。クリシェンヌの

聖浄器ってどんなのなんです?」

「ん? ああ、それは……」

「光の書──『聖教典エルヴィレーナ』だよ。私も実物を見た事は無いが、聖都の何処かに

安置されている筈だ」

「やはり敵地に、ですか。あまり悠長にはしていられませんね。もうあれから何日も経って

しまっていますし」

「そうね。支度が整い次第、すぐにでも出発した方がいいわ。もうサーディス長官から辞令

も受け取っているし、早速聖浄器回収にんむに臨みましょう。……数も労力も掛かるのは間違いない

でしょうし、ここは手分けした方がいいわね」

 ダンが締めるように言い、シフォンが苦笑する。ジークが肝心の聖浄器ブツは何なのかと訊ね、

リュカの呟きに応えて、イセルナが少し考え込むように唇を触りながら言った。

 皆で話し合った結果、決まった振り分けと目的地は次の通りである。


 北ルート(聖都クロスティア方面)

 :イセルナ、ジーク、レナ、ハロルド、リカルド、シフォン、クレア、オズ


 南ルート(サムトリア共和国方面)

 :ダン、ミア、グノーシュ、リュカ、サフレ、マルタ、クロム、ステラ


 当面クランの主要メンバーは、南北二チームに分かれ十二聖ゆかりの聖浄器回収の任に当

たる面々と、ホームに残りその守備とアルスの警護に当たる面々に分かれる事になった。後

者は主にリンファやイヨ以下侍従衆、及びアスレイ・テンシン・ガラドルフ隊を中心とした

団員達である。またレジーナやエリウッド、クランと契約を結んで久しいルフグラン・カン

パニーの技師達は、今後新しいホームとなる飛行艇の維持・管理を一手に担う。

「折角新しい編成表を作ったのに、また別行動か」

「仕方ねぇよ。一から十までこの大所帯でうろうろする訳にもいかねぇだろ」

「特に今は、教団と喧嘩になってる訳だしな」

「もし表通りになるとすりゃあ……本当の本当に結社やつらとの決戦になった時か」

「……」

 めいめいに団員達が零している。そんなテーブルを囲む仲間達を、ぽつんとアルスは遠巻

きから物音一つ立てずに眺めていた。

 ぽんと、リンファがそんな彼の肩に軽く触れている。言葉こそなかったが、それは彼女ら

侍従衆の彼を守り抜くという意思表明だったのかもしれない。

 沈黙。エトナがふよふよと淡い翠を纏いながらそんな相棒の頭上に浮かんだままでいる。

ジークがミアが、ちらと一度こちらを見遣っていた。

 まだ学生である彼を戦いに巻き込む訳にはいかない。それこそ、これからは本物の戦争に

なるのだから。

「……」

 解り過ぎてしまう皆からの眼。

 故にアルスは、決してその表情を晴らさなかった。

「……なぁ、レジーナさん」

「うん?」

「その、今回からルフグラン号を使うって話だけど、俺達が三つに分かれちまうんだぜ? 

どうするんだ? 船は一個しかねぇんだから、かなり動き回る事になっちまうが……」

「ああ……。そのことね」

 そして、作戦会議が進む中で、ふとジークが問うた。すると彼女はまるで待ってましたと

言わんばかりにニッと嗤う。

「それなら大丈夫。あたし達に任せておいてよ」

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