72-(4) 地上へ
「地図持って来ました~。これでいいですか?」
「ええ、ありがとう。ここに広げてください」
時を前後して、魔都市内病院。
ユリシズとの一件で負った怪我もすっかり癒え、イセルナとミア、そしてリオはいよいよ
退院という運びになっていた。いつでも出発できるよう既に荷物はまとめてあったが、それ
でも彼女達にはまだ確かめておくべきことがある。
病院の警備兵に頼み、魔都周辺の地図を持ってきて貰った。病室のサイドテーブルの上に
これを広げ、皆でこれを囲んで暫し眺める。
「近くにある導きの塔は……三つね」
「え? もしかして地上経由でお帰りになるつもりで?」
「うん。今のボク達が乗ったら、飛行艇が一つガラクタになるかもしれない」
同席する警備兵、合わせて二名。彼らがそう呟いているイセルナにはて? と小さな疑問
符を浮かべて言った。彼女から引き継いでミアが言い、にわかにこの場がピンと緊張してい
ることに気付く。
言わずもがな、再びの刺客──テロを警戒しての行動だった。
ジーク達が帰って行った時は無かったが、先日退院が決まった自分達を亡き者にしようと
する一団が院内に侵入してきた。保守同盟の手の者だ。幸い病み上がりでも軽く捌ける程度
の雑兵で済んだものの、再度その魔の手が飛行艇内で伸びてしまえば逃げ場はないし、最悪
機体自体を落とされかねない。
故にどうしても脳裏に過ぎるのは、皇国内乱前の爆破テロであった。
「今回、飛行艇は使いません。導きの塔を経由して地上に出ようと考えています」
「尤もこの判断も向こうは予測済みではあるだろうがな。末端の連中はともかく、指示を出
した者達は俺達の行動を抑え込もうと考えている筈……」
思い出した記憶で表情を歪めそうになり、しかし努めて気高く応じるイセルナ。
リオもそっと腰の剣に手を添えながら、静かに目を細めていた。達人の気迫。この警備兵
達が思わず無言のままごくりと喉を鳴らした。
地図によると、魔都近郊に建つ導きの塔は三つ。それぞれ北と東、南西に一箇所ずつ記さ
れている。
「で、でしたら、待ち伏せされている可能性が高いですよ?」
「ああ。最悪、薙ぎ払って押し通すしかないだろうな」
「でも不必要な戦いはなるべくしたくはありません。時間も奪われます。できるだけ早く、
且つ安全に皆と合流しなければいけませんし……」
リオは既に斬る気満々でいたが、イセルナは正直あまり気が進まなかった。
口に出した通り時間の無駄になるということもある。それにこちらを目の仇にしてくる者
達とはいえ、ただ場当たり的に傷つけ、殺めることが最上だとは思えない。
早く、安全に。
先日レナの出自がメディア各社にバレてしまった。加えて教皇エイテルがその報道を認め
たことで、彼女の秘密は単なる巷説から公然の事実と化した。流石に地底層に伝わる速度は
少し遅れているらしいが、それも時間の問題だろう。急ぎホームの皆と合流しようとしてい
る理由を、ここで一から十まで口にする必要性はない。
(ダン達が戻って来るのを待っていては……遅いでしょうね。何とか抜け出さなくっちゃ。
今苦しんでいるレナちゃんの為にも)
あーだこーだ。それから暫くイセルナ達は、この警備兵らに訊ねてどのルートを通るべき
か話し合った。
曰く、此処から一番近いのは東の導きの塔だそうだ。
しかし地図を読めば分かるそんな要素を、保守同盟の刺客達が見逃す筈はないだろう。急
ぐならばそれこそ多少押し通してでもだが、十中八九リスクを含むルートであることには違
いない。
「かといって遠い方を選ぶってのもね……」
「合理的ではない。そもそも、三つ全てに張られている可能性だってある」
「決めろ、イセルナ。どのみち俺達の行く手は絞られているんだ」
ふわりと無言のままブルートも顕現して地図を覗き込んでいる。リオは多少じれったさを
抱いているようで、そうこちらに促してきた。イセルナはちらっと二人を一瞥し、そうねと
苦笑う。
所要時間で決めていては逆効果か。ならば……。彼女は再び警備兵らに問う。
「では、衛門族の集落が無いのは何処ですか?」




