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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-72.集結と叫びとそれぞれの善(ドグマ)
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72-(3) 防人となれ

「……むぅ」『……』

 大都バベルロート、統務院本部。

 中空に幾つものホログラム映像が各国の王達を映し、更に議事堂内にはこの日本部へ直参

していた議員達を含めての緊急会合が行われていた。

 各国の元首、統務院議員、錚々たる面々。

 だがそんな彼らの多くは一様にして悩ましげな、難しく苦虫を噛み潰したような顔をして

いた。対して登壇しているのは、終始飄々としているヒュウガ──正義の剣カリバーの最高司令官で

ある。王や議員達は唸っていた。忌々しく、彼に向かって批判の矛先を向けようとしていた。

『どういう心算だ、サーディス!? 何の断りもなく史の騎士団に手を出すなど! 我々に

教団とも戦争をさせる気か!?』

「自分のした事が分かっているのか! お前ほどの肩書きを持つ者が剣を交えれば、最悪あ

のまま即全面戦争にだってなり得ていたのだぞ!?」

『幸いディノグラード公が緩衝材になってくれた、教団の側が仕掛けてきた騒ぎだった故に

引っ込みはついたものの……』

「何故あっさりと帰って来た? これではこちらも大損ではないか。せめて教団側の落ち度

をアピールしておけば……」

 王や議員達はめいめいに頭を抱えていた。今回にしろ地底武闘会マスコリーダでの一件にしろ、特務軍

が始動する前にトラブルが多過ぎる。

 だが肝心のヒュウガは何処吹く風といった様子だった。画面越しや議席から次々と飛んで

くる彼らの非難も、彼にとっては実に矮小で想定の範囲内過ぎるという訳か。

「……」

 そんな直属軍司令官の片割れを、同じくこの場に出席していたダグラスは渋い顔をしつつ

も見守っていた。隣には副官のエレンツァもいる。彼女もまた澄ました顔を保っているが、

はたして内心ではどんな風に思っていることか。

「……そう仰られましても。自分は命令通り動いただけです。クラン・ブルートバードに十

二聖の聖浄器回収の指令を伝える──その為に、遂行の障害となるために緊急の措置を取ら

ざるを得なかったというだけです。あそこですごすごと退けば、対結社特務軍は始まりから

躓いてしまいますし、何より我々の威厳も損われたと考えますが」

 うっ……。肩を竦めて朗々と語るヒュウガ。王や議員達はぐうの音も出ずに押し黙った。

 そうだ。どちらにせよ“何もしない”訳にはいかなかったのだ。あの時あの場所であの者

達と鉢合わせてしまった、元よりそれ自体が不運だったのだと。

(……よくああも開き直れるものだな。知っていて、発ったというのに)

 だが一方で、ダグラスは内心この片割れのしたたかさに閉口する他なかった。全員ではな

いが、王達の中にはこの男が、独自にブルートバードと史の騎士団──教団が好ましくない

接触をするだろうと察知していたことを知っていた者もいた。その上で自ら率先して諭そう

とはしなかったのだ。

 地底武闘会マスコリーダでの刺客騒ぎの時と同様である。

 彼らは常にリスクとリターンを天秤にかけ、しかしその本音は大きく個人的信条的な情動

に拠っている。

「それでも良いというのなら改めて剣を取りますよ。自分としては、徒に滞在し続けて教団

と皆さま方が直接対立するような状況を作りたくなかったのでありましてね」

『……』

 だからこそ、この男の採った立ち回り方は巧みだと思う。

 先ず教団という難物が不穏な動きをしていることを調べ上げた。その上で、彼らの行動を

前提としつつ、自分達が最も得をするであろう状況とは何か? それを作り上げるのに必要

なこととは何か? 分析した後に動いたのだから。

 思うに、それは教団の“力”を削ぐことだ。自分と同じく、彼もまた大なり小なり気付い

ていた筈だ。

 クリシェンヌ教団──世界最大の信者数を誇るマンモス組織。

 だがただ祈りを込めるだけでは現実は良くならない。この二年間、世界各地では“結社”

の国盗りが頻発していた。故にこの二年間、人々が縋るものは信仰ではなくより明瞭な武力

へと移っていった節がある。

 ……焦った筈だ。教団の、組織の威光が少しずつ失われていくことに内部の重鎮達は焦っ

た筈だ。総会サミット前の強気な攻勢が逆転している。綺麗な名目はいくらでも作れるが、彼らがパ

ワーバランスの主導権を取り戻そうと躍起になっていた事は想像に難くない。

 そこに現れたのが“聖女”だった。レナ・エルリッシュ──あのブルートバードに所属す

る少女だった。自身まだどういう経緯でその秘密が明らかになったのかは厳密に把握してい

ないが、この情報を知った教団が何も手を出さない筈はない。

「僭越ながら、寧ろチャンスだと自分は思いますよ? かの教団とはいえ、一人の少女を秘

密裏に連れ去ろうとしたのですから。皆さま方はカードを得たのです。ご存知のように教団

は十二聖の聖浄器の所在が明らかになっている数少ない勢力の一つ。どのみちあそこからも

回収しなければならないのなら、早い内に手を打っておいて損はないと考えます」

『むぅ……』

『それは、そうだが……』

 ダグラスはやはりか、と思った。やはりヒュウガは、この一件を利用して教団という難物

を攻略しようとしている。いや、正確にはクラン・ブルートバードを防波堤とし、より安全

に彼らと対峙しようとしている。

 その目論見があるからこそ退いたのだ。自分達が前面に出なければ、必然構図はレナ当人

を抱えるブルートバードと教団という二者になる。聖浄器回収というにんを与えておけば、こ

ちらが逐一促さずとも彼らはあの巨大な信仰の群れと闘ってくれるだろう。

『──』

 ダグラスはちらりと中空のホログラムを、議席の向こうに座る王や議員達を見た。

 多くはまだヒュウガの起こした“騒動”に目が向いたままになっている。しかしハウゼン

王やファルケン王、ウォルター議長にロゼッタ大統領、四大盟主や一部の王達は既に同じく

この事に気付いているように見受けられる。

『まったく。実に話題に事欠かない者達だな……』

『皇子に公子、元使徒に続いて偉人の生まれ変わり……頭が痛いです』

『はははは! 面白いじゃねぇか。とことん活躍して貰おうぜ? その為の抜擢、だろ?』

『皆お主ほど享楽的ではないではないよ。だが起こってしまったことは、明らかになってし

まったことは、もう二度と取り消せぬか……』

 嘆息、哄笑、冷静。ハウゼン以下四大国の元首達はそれぞれに追認せざるを得なかった。

それはそうですが……。他の王や議員達が尻込み、尚もその不安を噴かそうとする。

「……ええ。ええ。そうですか」

 だがちょうどそんな時だった。それまでじっと面々の会合を聞いていたエレンツァが、は

たと近付いて来た部下の一人に耳打ちされ、一旦一同の注意を自分に向けさせる。

「皆様、落ち着いてください。状況は今も刻一刻と移っていますよ」

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