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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-72.集結と叫びとそれぞれの善(ドグマ)
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72-(1) 君と重ねる

「……何が、どうなってる?」

 ディノグラード邸のリビング。映像器越しに映し出された出来事と情報に、ジークは只々

目を大きく見開いて立ち尽くしていた。

 それは場の仲間達も同様だ。必死に自分達に取り巻こうとする状況を把握しようとし、特

に当のレナに至っては見えない重力に今にも押し潰され、小さく小さく萎縮してしまってい

るようにも見える。

「ど、どうなってるの!? 一体何処から……?」

「リークか。それにしてはタイミングが良過ぎますね」

「ええ……」

 親友ともの動揺ぶりを肩越しに感じ、何としてあげればいいか戸惑うステラ。

 同じく彼女を支え、助けを求めるように視線を向けたマルタを一瞥し、サフレは気難しい

表情かおでリュカと顔を見合わせていた。

「おそらく、これは教団の自作自演よ。遅かれ早かれだけど、こんなに早く何ヶ所にも情報

が漏れるのは考え難い。私達じゃないんだから、そうなるともう一方しかないものね」

「そんなことして、何の得が……」

「既成事実、という奴だろう。これまで私達と教団の間だけでやり取りされていた“聖女”

の──レナに関する駆け引きを、一度公にすることで立て直したんだ」

「この前の当て付けって訳か。チッ、やってくれやがる」

「じゃあ梟響の街アウルベルツに残ってた隊長達は……」

「ええ。こうなることも含めての布陣だったと考えていいでしょうね」

 ピースが繋がる。リュカの一瞥しながらの首肯を受けて、ダンは忌々しく舌打ちし、リカ

ルドは身内達の狡猾さに複雑な表情を漏らしていた。

「表向きはマスコミが嗅ぎ付けて騒ぎになり、それを教団が正式に認める──良くも悪くも

これで私達の退路は塞がれてしまったわ」

「そんな……。だってちゃんと、教皇様に会いに行くって、約束したのに……」

「口約束だけでは安心できずに脅しを掛けてきたという所か。あれだけ強引な手段に出てき

た割にはあっさり退いたと思ったが、やはり腹に一物あったな」

「レナちゃん、すまん。俺がついていながら……」

 どうやら教団あいては、常にアドバンテージを握っていないと落ち着かないらしい。

 それは彼らがそれだけ、自らの権威の低下を憂い、焦っている証拠でもあった。尤もリカ

ルドやハロルドを除くジーク達はそんな相手の事情など知らない。只々出し抜かれたという

思いと、こうまでしてレナを苦しめて良しとするやり方に腹が立つだけである。

「拙いな……。俺達がこっちに来てる以上、ホームの皆が危ない」

「文字通りの人質か。もう少し慎重に戦力を分けておくべきだったかもしれないな」

「急いで戻ろう? 聖浄器云々なんて後回しだよ!」

「だな。先生さん、一度向こうに連絡を。シフォンやグノもいるし、最悪のパターンはない

と信じたいが……」

「ええ。すぐに」

 ダンに頼まれ、リュカが携行端末を取り出して操作し始めた。

 画面の向こうと今この室内でのざわめき。そんなジーク達のさまを、ヨーハンとセイオン

はそれぞれ神妙な面持ちで見守っている。


「──んしょ、っと……」

 そんな緊迫が汲々と張り詰めていたのは今朝方のこと。

 ジークは仲間達と共に一旦それぞれに宛がわれていた部屋に戻り、急いで出発の荷支度を

整えていた。昨日の今日で解いた旅荷がまた縛られて圧縮される忙しなさこそあったが、屋

敷内の持つ静けさが良くか悪くか、内心興奮していた心を宥めてくれた気もする。

(結局爺さんの聖浄器は後回しになっちまったな。止むのを待つ暇すらないなんて……)

 次から次へと。ジークは密かに、自分達に降りかかるトラブルの数々を呪いたかった。

 さりとて、そんなものは今更だった。自らが選んだ道だと今回も言い聞かせる。ヨーハン

の聖浄器回収が二度手間確定となったのもままならぬなとは思いつつも、そもそもまだ自分

達は正式に特務軍として動き出していないので、無理からぬことではある。

「……もう使われるべきではない、か」

 それよりも。ジークが気になっていたのはそのヨーハンが零していた言葉、態度だ。

 昨日の面会で彼が口にしたフレーズを小さく口ずさむ。

 君には分かっている筈だ──壁に立てかけてある六華をちらを見る。アルスから預かって

投げ掛けてみた質問も然り、やはりあの爺さんにはまだ含む所があるらしい。ぎゅっと旅荷

を結ぶ紐を引っ張り直し、ジークは暫くじっとそのまま一点を見つめて佇む。

『あ、あの……。ジークさん?』

 そんな時だった。ふとドアを遠慮がちにノックする音がし、レナの声が聞こえた。ジーク

は我に返ると膝立ちから立ち上がり、ドアノブに手をかけながら言う。

「おう。どうした? そっちは支度出来たのか?」

「は、はい。元々多くはなかったし、ステラちゃんやリュカさんが手伝ってくれたので」

 どうやら随分と気を遣われているらしい。女性陣らしいと言えばらしいか。

 彼女はドアを開けたジークに促されておずおずと中へと入って来、そして酷く申し訳なさ

そうに眉を下げたままで頭を垂れた。

「その、ごめんなさいっ! 私のせいで皆に迷惑ばかり……」

「気にすんな。別に俺達は責めやしねぇよ。大体、吹っかけてきたのは向こうだろ」

「それは、そうですけど……」

 思わず苦笑いが漏れる。だが彼女が真剣に悩んでいる──罪悪感を抱いているであろう事

は容易に見通せた。そういうだ。いつも彼女は、相手のことばかり心配し過ぎる。

(でも、今回ばかりは規模が違い過ぎるよ。私が“聖女”様だなんて、ジークさんはどう思

っているのか……)

 そのレナ自身は内心恐れていた。体内魔力オドの波長が、現教皇が如何に自分がそうだと認め

ても自覚はないし、何より自分などには荷が大き過ぎる。

 もっと言えばそれ自体は二の次だった。出自のショックより、自分がそんな魂を受け継い

だ生まれ変わりだと、遠い人だと思われてジークに避けられてしまうことの方がよっぽど怖

くて怖くて仕方なかった。

「水臭ぇなあ。仲間だろ?」

 なのに……そのジークは笑っていた。ニッと八重歯を垣間見せ、こちらの消沈する気持ち

を優しく抱き上げてくれるように笑っている。

「ハロルドさんの件、忘れたか? 俺やアルスだって実は王族だった。リンさんもただの剣

士じゃなかったし、サフレも貴族の出だ。副団長じゃねぇけど、元々訳ありが集まってるん

だからさ? どーんと構えててくれよ。それに……俺自身もちゃんと恩返ししたいんだ。本

当の生まれが分かって“結社”との因縁も分かって、気付けばこんな遠い所まで来た。でも

皆恨み言一つ言わずに助けてくれた。俺達兄弟の味方であり続けてくれた」

 ゆっくりと、レナが言葉にならないまま彼を見上げている。ジークは笑っていた。それは

同時に自分自身の想いを確かめる作業でもあった。

「今度は俺の、俺達兄弟の番だ。奴らがどんな屁理屈を捏ねてこようが、お前は誰にも渡さ

ねえ。お前がクランに居たいって望むなら、俺は教団とでも何とでも戦ってやる」

「ジーク、さん……」

 揺らぐ瞳。見上げた顔、白い肌。

 レナはじーんと感動していた。そして次の瞬間にはボフンと、耳まで真っ赤になってガチ

ガチに固まってしまう。

「うん? どうした、レナ」

「あ、いえ……。その、そんな風に言われるなんて……嬉しくて……」

 もじもじ。思わず顔を逸らして指先でその綺麗な金髪をくるくると弄る。

 最初、ジークは彼女の意図する所が分からなかった。確かに臭い台詞だったかもしれない

が、これは偽りのない本心だ。

 ぱちくりと、今さっき自分が口を衝いて出した言葉を反芻する。

 仲間だ、恩返しがしたい。今度は自分達の番。

 お前は誰にも渡さない……。

「あっ、いや! そ、そういう訳じゃねぇからな!? こ、言葉のあやって奴で……。そう

いう意味では、全く……」

 だから気付いてしまった時、ジークはレナと同じように真っ赤になっていた。わたわたと

目の前で両手を忙しなく動かし、必死になって否定しようとする。

「……はい」

 ぽつり。小さくレナが呟いて、ちらとこちらを期せずして上目遣いで見上げている。

 それから暫くお互いに、二の句が継げなくなってしまっていた。ただにわかに火照った顔

が熱くて、むず痒くて、相手を直視できない。

(……あんにゃろう。エトナの奴め。妙なこと吹き込むから……)

 ジークはふと、出発前の夜を思い出していた。

「おーい、ジークいる~?」

 そんな最中の事だったのだ。はたと再びドアをノックする音が聞こえた。

 開いていることに気付いたのか、その主はそのままひょいっと顔を出す。ステラだった。

白みかかった銀髪を揺らし、部屋の中のジークとレナの姿を見て一瞬固まったが、それでも

敢えて何ともないを装って中へと入ってくる。

「ああ、レナもいたんだね……ちょうど良かった。それより二人とも、応接間に集まって?

リュカさんが至急皆を呼んで欲しいって」

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