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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-72.集結と叫びとそれぞれの善(ドグマ)
24/436

72-(0) どよめき、蠢き

※旧版(現〔上〕巻)の初回掲載日=2016.4/5

 突如として巷に湧き起こった、現代の“聖女”の噂。

 嘘か真か? そもそも何処から……? 当然ながら第一報第二報を聞いた人々は驚き、戸

惑いを隠せなかったが、そんな当初の混乱を鎮めたのは他ならぬクリシェンヌ教団の現教皇

エイテルだった。

「冒険者クラン・ブルートバード所属、レナ・エルリッシュさんは間違いなく、我らが開祖

“聖女”クリシェンヌの生まれ変わりであります」

 異例ともいえる対応。開かれた記者会見。

 そこで彼女らはレナが《慈》──“聖女”クリシェンヌの生まれ変わりであることを公式

に認めた。また個々の魔力波長、魂の同一性について幾人かの魔導師がメディア各局で解説

を担ったこともこの肯定を後押しする結果となる。

 世界に、衝撃が走る。

 それは単に多くにとり馴染みの薄い知識への驚きだったり、魂というものの実在に対する

動揺だけではなかったのだろう。一方では迷走するこの時代に希望を灯す聖女再誕に沸き、

また一方ではそこから更に先の思考──このまま彼女をクラン・ブルートバード、“結社”

との戦いに巻き込ませて良いのかという疑問、義憤へと変わり始めて。

 エイテルらによる“火消し”は成功したかのように見えて、彼らを止められない。

 人々の困惑と揺さ振られた衝動はやがて大きな渦となり、世を騒がすだろう。

 酒場で、財友館で、街頭で。

 映像器の前で人々は立ち止まり、ざわざわと集まり、この報に釘付けになっていた。自ら

省みて思考する速度よりも速く、メディアが多くの情報を流し込んでくる。

 各国は大よそがまだ慎重に対応を選んでいる時期だった。一部の信仰の篤い国では早い段

階で再誕を歓迎する声明こそ出したが、何の脈絡もなく報じられ、教団がそれに乗り掛かっ

ている状況を鵜呑みにするほど王達は素直ではない。

 とある小さな村だった。

 薄曇りの空の下、質素な姿の夫婦が新聞を片手に呆然としていた。

 表情かおは見えない。ただ動揺に半開きの口元が、全身が震えていて、夫が妻を何とか支えて

やろうと、自身も戦慄きながらそっと肩に手を回している。


「──彼女がこの時代に、か」

 そして彼らもまた、そんな世の中のさまを観ていた。

 刻一刻と変化する中空の色彩が混ざり合い、却って殺風景を演出する中、一枚の大きな硝

子の円卓に座る七人はそう静かに事の次第を見つめていた。

「ただの偶然にしては出来過ぎているな。こちらに与せぬもの達の差し金か」

「何、案ずる事はない。今の今まで何もしてこなかったんだ。今更何ができる?」

 影になって表情は見えない。だが彼女の再誕に疑心を抱く者がいる一方、鷹揚と構えて楽

観的な者もいた。

 七人。だがそんな彼らをまとめるように、芥子色のフードを目深に被った男は言う。

「だけども邪魔者になりうる事は確かだ。一応、警戒はしておこう」

 言って、彼はちらと自席上座の向かいに座る人物に目配せをする。するとこの者──白衣

を引っ掛けた女性は拝承といった様子ですっくと立ち上がった。

「悪いね。宜しく頼むよ」

 カツンカツン。

 そしてまるで頷くかのように口元に微笑を浮かべると、彼女は一人颯爽としてこの場から

歩き去るのだった。

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