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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-71.英雄になる者、だった者
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71-(4) 信条の徒(イデオロギスト)

 そうして軽く刺客を斬り伏せ、病室に戻ってくると、室内は随分と物騒な散らかり具合に

なっていた。

 案の定、こちらにも刺客がなだれ込んで来たのだろう。窓は壊され、ベッドはずたずたに

されている。しかしその肝心の刺客と思しき者達は無数の氷刃に貫かれ、或いは手酷くぶん

殴られたのか、顔面やら腹を陥没させてぐったりとあちこちに倒れていた。

『あ、リオさん』

『……もしかして、そっちも何かあった?』

 にも拘わらず、部屋の主であるイセルナとミアはけろっとしていた。リオが一人戻って来

たのを見ると穏やかに視線を向け、逆にこちらを気遣ってくる余裕すらある。

 とはいえ、これは一騒動だ。当然ながら激しい物音を聞きつけ医師やナース、警備の傭兵

などが押しかけ、場はちょっとしたパニックになっていた。

 迎え撃つにしたってもうちょっと加減してくださいよ──!? 刺客の侵入を許してしま

った落ち度もあってそう強くは出られなかったものの、彼らはぐちゃぐちゃに壊れた室内を

目の当たりにして悲鳴を上げていた。やはり二人が刺客達を返り討ちにした跡らしい。まだ

入院中という体ではあるが、この程度で寝首を掻かれていては修行のやり直しだ。

『と、とにかく一旦別室を用意しますのでそちらへ。その、色々と後始末しやらなければならな

いことがありますので……』


 ──故に今、リオとイセルナ、ミア及び数名の警備兵は一般病棟から離れたこの空き会議

室にいる。

 彼らが見下ろす足元には数名、ボロボロになりながらも意識を取り戻した刺客達が縛られ

た状態で一纏めにされていた。警備兵達は少なからずおっかなびっくりで後ろに、リオ達三

人はこれらの前に立ち、自らの手で尋問を行おうとしている。

「ねぇ。いい加減、答えてくれないかしら? 貴方達は何処の誰から指示を受けたの?」

『……』

「黙っていても何も変わらないわよ? ただもっとプロな人達に引き渡されるだけ」

「ふ、ふん」

「敵に破れて更に、仲間を売るなどできるか」

「わ、我々は崇高な理想の下に集まっ──がらハッ?!」

 最初の内は、やはり相手もプロなのか中々口を割らなかったが、結局業を煮やしたミアが

掌に込めた《盾》のオーラ球を押し付けた事により、力ずくで割らせる方向となった。

 ミシミシ……。項垂れていた横顔に強烈な排斥の力が加わり、刺客の一人が面白いくらい

に上半身をへしゃげて床に突っ伏している。

「五月蝿い。さっさと喋る」

「は、はィィ!! じ、自分達は……ぐふっ、リ、リストン同盟の者だ……」

 ミアがそっと目を細め、イセルナとリオが互いに顔を見合わせた。

 正式にはリストン保守同盟。互いの素性を隠し、保守というイデオロギーにおいてのみ手

を結んだ諸勢力の集まりである。即ち反開拓派の諸連合──“結社”に共鳴するような過激

派も少なからず潜在すると云われている。皇国トナン内乱の少し前、同国行きの飛行艇を爆破した

“結社”の犯行を、当時急激な改革を進めていた前皇アズサへの制裁として歓迎したのがそ

の例だ。

 白状はした。だがミアはまだ《盾》を解いていない。どんどん床との間で“圧縮”されて

いく仲間を見て、他の刺客達は震え上がっていた。それで? 無言で促す彼女に、彼らは最

早半ばやけくそになる。

「リストン……。じゃあ“結社”ではない? 支持者シンパ?」

「そ、そうだ」

「我々は統務院が進める誤った方向を、何とか正そうと立ち上がっているのだ」

 それでも立場というか、主義主張を止めない所は筋金入りなのだろう。だからこそ過激な

革命思想──彼らから言わせれば秩序の保守だそうだが──にも傾倒し、テロ活動にまで加

担するのであるが。

「その為には、お前達クラン・ブルートバードは邪魔なのだ」

「お前達がいるから、世界が余計に掻き乱される……」

「もう止めろ。これ以上ヒトを巻き込むな! 折角結社かれらがこの歪んだ世界を正そうと、在る

べき姿に戻そうとしているのに、何故邪魔ばかりする……!?」

 正直、イセルナ達はイラッときた。本当の事など何も知らない癖に。

 自分達はクロムから聞いて知っている。その“結社”は、お前達末端の人間など幾らでも

切り捨てて、それこそヒトの世が滅んでもしまってもいいとさえのたまっている。本末転倒

な話だ。テロという手段に訴える事は勿論、ヒトが為す以上、そのヒトが滅んでしまっては

意味などないだろうに……。

「五月蝿い」

「ぐべぇッ?!」

 改めて、刺客達が《盾》に潰されていた。本当にかつてのクロムと同じ陣営の者なのだろ

うか。少しは話ができるかと思ったが、これでは。文字通りまさに狂信というものである。

 同時に、自分達が彼らにきちんとした反論が出来なかったのももどかしかった。

 いや、おそらくこちらの論理は彼らには通じないのだろう。前提が違う。仮にお前達が所

詮は使い捨てられるんだと罵っても、彼らはとうに織り込み済みなのだろう。

「……それで? これからどうする?」

「そうですね……。此処は魔界パンデモニムですし、やはり彼らはこのまま当局へ──万魔連合グリモワール

担当者に引き渡すのが妥当かと」

「だろうな。もっと引き出せる情報ものは引き出したかったが」

 リオに問われ、イセルナが小さく肩を竦めて答えていた。ミアがそれを横目で見遣り、そ

っと拳の《盾》を解除。ぐったりとそれまで押し潰されていた刺客達が床に倒れ込む。

「……殺せ」

「馬鹿言わないで。もう倒した相手なのに……。命を、粗末にするな」

「粗末、か……」

「ふふ。だからお前達は分からないんだ。俺達は使命の為なら幾らでも、この身を捧げる覚

悟がある」

『……』

 疲弊していた。だがその眼はギラつき、尚もその信条に固執していた。

 暫くして、警備兵の連絡で万魔連合グリモワール所属の当局者らがやって来る。刺客達はそのまま次々

と手錠を掛けられ、ぐったりとしたまま外へと連行されて行った。

「無駄だ。我々はセカイ、セカイは我々……」

「生けとし生ける者は、常に偉大なる歯車なのだ……」

 三人は無言のまま顔を顰める。

 連行されるその最後の瞬間まで、彼らは己が主義主張イデオロギーを曲げなかった。

 まごう事なき狂信。

 壊れた玩具のように、彼らの笑い声が部屋に廊下に響いていく。

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