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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-71.英雄になる者、だった者
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71-(2) 排斥運動

 先日、友人を助ける為だったとはいえ、講義をサボった上に史の騎士団と交戦──騒ぎを

起こしたとしてフィデロやルイス、シンシアは担当のエマやバウロにこってりと絞られた。

 雷が落ちるのは分かっていた。だから後悔はしていない。

 結局さんざ説教は受けたものの、クランせんぽうから皇子二人のピンチを救う一助となったと礼が

あった事もあり、一先ずは学院長・ミレーユが当日の講義欠席と厳重注意のみで収めてくれ

たのだが……。

「──で、この前のは結局大丈夫だったのか?」

「うん、お陰さまで。ありがとう。でも……ごめんね? 聞いたよ。色々無茶してユーディ

先生やマグダレン先生に随分大目玉喰らったそうじゃない」

「なぁに。大した事じゃねぇさ。ダチの為だったんだ、悔いはない」

「こいつと同じ思考というのもアレだけど……僕も同じさ。少なくとも誰かが介入しなけれ

ば、あの事態はもっと拗れ続けていた筈だよ」

 学院構内。例の三つ巴騒動も人々の肌感覚から薄れ始めていたその日、ようやく普段の学

生生活を送っていたアルスに、フィデロとルイス、傍らの学友コンビが問いかけていた。

 一方は意気揚々と、一方はあくまで今は落ち着き払って。

 私だって頑張りましたのに……。この二人に左右を取られ、後ろでぶつくさと小さく頬を

膨らませているシンシアに、宙に浮かぶエトナがニヤニヤと煽るように笑っている。

 一見して平穏に見えた。少なくともこの学び舎の中は、いつも通りを取り戻している。

「それにしても、何であんな事に?」

「……。実を言うと、キースさんから軽くだが聞いてるんだ。ハロルドさんとリカルドさん

がどうやら“大喧嘩”したらしいってね。まだそっちが込み入っているのなら、無理には聞

かないけれど」

『……』

 だからそんな風景の中でふいっと、やはり当然気になるであろう質問を、そのまま何とな

しにフィデロが訊ね、その不躾をフォローするようにルイスが継ぐ。

 アルスとエトナは思わず押し黙ってしまった。あの後詳しい情報を聞いたのだろう。後ろ

のシンシアも同じく唇を結び、じっと目を細めて気持ち自身の気配を殺している。

「どうする? アルス」

「そうだね。二人になら話してもいいとは、思うんだけど……」

 互いに顔を見合わせ、ちらと遠巻きを維持してこちらを警備してくれているリンファの顔

色を窺う。その向かいには同じくゲドとキース、シンシアの目付け役コンビもいる。

 彼女達もまた、互いに目配せをし、そしてコクと小さく頷き合っていた。ややあってその

仕草を同様にこちらに返し、構わないという合図とする。

「……その、一応まだ他言無用ってことで」

 そしてアルスは、身を寄せ合った友らに、ひそひそとこれまでの経緯を大まかに話して聞

かせた。

 二年の修行期間の中でレナが発現した《慈》の色装。その能力と彼女自身のオーラの波長

が、かの“聖女”クリシェンヌと同じ──即ち生まれ変わりであると判明したこと。

 養父であるハロルドはかねてよりその事実を知っていて、教団の権謀術数に巻き込まれぬ

よう実の両親から預かって守り続けていたこと。

 故に《慈》と“聖女”との繋がりに気付き、詳細を質そうとしたリカルドを、実弟であり

ながらも一時は本当に口封じに殺そうとさえしたこと。

「……そんな事が」

「そ、それってヤバくないか? 生きてるん、だよな?」

「うん。一時はどうなる事かと思ったけど、二人の対立はもう収まったよ。イセルナさんか

らも託されてたし、事情もはっきりしたからダンさんや兄さん達が──何よりレナさん自身

がハロルドさんを許したからね。これからも、一緒に戦ってくれる」

「そう……。でもこれで全部安心という訳にはいきませんわよ? 実際、私達も含めてその

ゴタゴタであの史の騎士団と──教団と刃を交えた。何もお咎め無しで済むとは思えません

もの」

「そうだね。今回は色んな人が味方してくれて追い返せたけれど、今後どうなるかはまだ不

明瞭な部分が多いかな……」

 ルイスが静かに呑み込んでいる。フィデロが今更ながらに、スケールの大きさに少し後悔

し始めている。

 問題は教団だった。向こうにも面子があろう。まさかこのまますんなり引き下がってくれ

るとは、アルスも正直思っていなかった。あの場は当のレナの懇願、教皇との面会の約束を

結んだことで手打ちとなり、兄達がディノグラード邸から帰ってくれば、彼女は三度出掛け

てゆく事になる。

『──』

 ちらり。アルスは僅か、本当に僅かだけ構内の往来に注意を向けた。

 昼間の学生達が多くを占めて行き交う石畳、植木。その陰にそっと溶けるようにしてリザ

が残していったミュゼら監視役の神官騎士が数名、じっとこちらを見つめている。リンファ

やゲド、キース。こっそり付いている者がいるのはこちらとて同じだが、事実上の人質だと

思う。もし兄達が外出中、彼らや或いはこちらが下手な敵対行動を取れば、彼らはすぐさま

自分達を排除しに掛かるだろう。そうなれば事態はあの乱戦の二の舞となってしまう。

 同じく警戒しているのだろう。リンファもゲドとキースも、それぞれの主の為に彼らの動

きを注意深く見遣っているようだった。

 だが気掛かりなのはもう一つある。周囲の眼だ。時折自分を腫れ物のように見つめては逸

らすといった者がちらほらと視覚の中に映る。やはりこの前の三つ巴騒動によって、自分達

兄弟とクランへの心証はまた一段と悪くなったようだ。

「……うん?」

 そんな時である。はたとアルス達の耳に、何やら物々しい声の群れが届いてきた。

 最初にルイスが気付き、続いて面々が何だろうと声のする方向──学院の正門を見遣る。

するとそこにはプラカードや旗を掲げ、何かに抗議している一団があった。デモ隊だ。

「戦争反対ー!」

「レノヴィン兄弟と、クラン・ブルートバードはすぐに出て行け!」

「もう次は無い! 今度この街に戦火が及べば、我々の生活は立ち行かなくなる!」

 大よそ、そんな主張。アルス達を排斥せよという旨のデモ行進だった。

 アルスが登校していることを知ったのだろう。デモ隊は学院内に突入しようとしていた。

それを守衛や、駆けつけた守備隊が必死になって止めている。その騒ぎにつれて何処からと

もなく野次馬も集まり、正門前の怒声は更に大きなものへと変わっていった。

「五月蝿ぇよ!」

「昼間っから何やってんだ! 迷惑なんだよ!」

「無責任な……。それが犠牲になってくれてる相手に対する態度かよ」

 加えてデモ隊に反対する集団──市民達が方々から現れ始め、事態は更にややこしさを増

していった。喧々諤々。罵声も飛び交う。中にはそのまま殴り合いを始める者達も出始め、

守備隊らがその度に彼らを引っ張り出し、現行犯として詰め所へと連れ去っていく。

「……」

「まぁ、あんまり気にすんな。言わせておきゃあいい」

「そうだよ。アルス達が今までどれだけ苦労してきたかも知らないで……」

 どうしたって、遠くからそのさまを見つめるアルスの表情は曇る一方だった。それをフィ

デロが、エトナがポンと肩に手を遣って代わりに憤ってみせて慰め、この不愉快な争いから

彼を遠退けようとする。

 小走りでリンファがやって来て、言った。ルイスも同調する。

「アルス様、こちらへ」

「今の内に離れよう。見つかったら色々と厄介だ」

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