82-(6) 友軍(とも)来たる
「そもそも俺達は、首都に居た時点で布石を打ってたんだよ」
滞在していたマルセイユ邸で、サムトリアン・クーフの大統領府で。その先々で『陣』を
敷いてきたのは、何も移動の便利さや助けに応じる為だけではない。
こんな時の為だ。いつかまた、自分達という旅人をトリガーに結社が攻めて来れば、その
時可能な限り人々を守れるように。
『赤い……光の柱』
『燃え盛る炎。これは……ファルケン王?』
『でも何故? 何故彼はこんな状況で、嗤っていられるの……?』
実はクーフ滞在中、ダン達はロミリアにこの先の未来を占って貰っていたのだ。
不確定だが、いつか訪れうる未来。
彼女の《占》の色装は、そんな現時点での可能性を視る事のできる能力だ。
そして断片的に彼女の眼に映った情報達を整理する中で、この先ヴァルドーで何か大きな
事件が起こるらしいとの結論に至った。導都から翠風の町、次いで同国を訪ねる予定だった
ダン達は、ロゼやロミリアらと相談し、互いにある約束を結ぶことになる。
──もしこの国に“結社”の魔手が迫れば、ブルートバードとして加勢する。
──もし自分達の旅先で“結社”が現れれば、必要に応じて国軍を動かして欲しい。
いずれ向かう地であった。この先全く邪魔をされないとは考え難かった。
だからこそ半ば交換条件をもって、有無を言わさず、ダン達南回りチームは密かに強力な
援軍を確保していたのである……。
「総員、領民の保護を最優先に動け! 隊員達を全力でサポートしろ!」
「陣形を──障壁群を維持しなさい。先ずは国軍と守備隊の救護活動を終わらせるわ。第五
隊から十隊は、結社達の迎撃を」
「分かってると思うけど、雑魚一人とて逃しちゃ駄目だよ? こういうのは根こそぎ始末し
ておかないと後々面倒だからねえ」
マルセイユ邸内の陣からルフグラン号を経由し、現れたのは、サムトリア共和国の正規軍
大隊と“黒姫”ロミリア及び“万装”のセロ率いるそれぞれの冒険者達だった。市内中心部
から食い潰すように展開しようとしていた“結社”の軍勢を、逆に手薄になった密度を突き
破って次々と撃破していく。
壊れた家屋、死傷した人々。彼らを保護して避難させてゆく守備隊員らをフォローするよ
うにサムトリア軍が左右に大きく展開する。そこへ更にロミリア配下の魔導師達がぐるりと
囲むように障壁の防御線を作り、迫る信徒やオートマタ兵達を後方から無数の攻撃術式で薙
ぎ払っていった。
目に見えぬ早業で、セロが狂化霊装の全身を何本もの鎖で縛り上げ、引き裂いた。粉々に
砕ける鎧と巨体を背後に、ストールに隠した両腕をそっと広げ、そして何事もなかったかの
ように被った帽子に手を添える。
「……チッ。目測を誤ったか」
「上等じゃねーか。二年前の決着、つけてやる!」
次々に倒されてゆく傘下の雑兵達。フェイアンは忌々しいと言わんばかりの表情で口元に
手を当て、一方でバトナスは更に血の気を増して禍々しいオーラを練り始めている。
「で、でもお。皆が、どんどん、消えていってる……」
「落ち着け、バトナス。兵力差が逆転してしまったんだ。末席とはいえ、四大盟主の正規軍
と“七星”二人だぞ? そういう用意で来たんじゃないんだ。無駄に兵力を減らすような真
似はスマートじゃない。今は特に、な」
「……ちっ。分かったよ」
魔獣の気配が次々に死んでゆくのを感じ取り、エクリレーヌが苦しそうに涙目を浮かべて
いる。フェイアンも聞こえてくる剣戟と部下達の悲鳴を聞き、この相棒を押し留める選択を
した。
尤も、サムトリア軍やロミリア・セロ達にその心算はない。ハの字に展開して一つになっ
た三者の軍勢は猛烈な勢いで町を──“結社”の軍勢を呑み込み、この強襲を仕掛けてきた
使徒達へと遂に切り結び始める。
「……やれやれ。またしても巻き込まれてしまうとは」
「どうやら間に合ったみたいね……。大統領からの伝言よ。一旦船に戻りなさい。あの時視
た通り、ヴァルドーが今大変な事になっているわ」
「ここは我々に任せて、早く!」
変幻自在にしなる無数の暗器と、空間を穿つ強烈な魔導。
セロとロミリア、彼らに率いられた歴戦の冒険者達とサムトリア軍の騎馬部隊が勇ましく
フェイアン達の本隊とぶつかり出した。押し合い圧し合いになる中で、彼女はダン達に向か
って叫ぶ。
「ヴァルドーが……?」
「わ、分かった。恩に着る!」
予め相談して打っておいた策とはいえ、正直こうも心強い味方はなかった。いつか抱いて
いた不安が的中したことも聞かされ、ダン達は場を、翠風の町とアルノーらを彼女らに任せ
て走り出す。それぞれに腕の転送リングを起動させ、一斉に転移する。




