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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-82.願い蝕む器がゆえに
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82-(4) 式典(パフォーマンス)

 ──奇しくも、それはこの面会と同じ日に執り行われた。

 王都クリスヴェイルにて開かれた、アトス連邦朝の王器二振りの委譲式典。

 会場となった王宮前広場には、王器を一目見ようと集まった王都市民らを始めとして、各

国からの来賓やメディア関係者達がこれでもかと言わんばかりに詰め掛けていた。

「それでは、アトモスファイ・ハウゼン陛下より、我が国の王器『氷霊剣ハクア』と『風霊

槍コウア』が託されます」

 式典では先ずもって、メインイベントである聖浄器の引き渡しがあった。

 司会の合図で、左右からハーケン王子とミルヒ王女が一振りずつを慎重に抱えて近付き、

父・ハウゼンに手渡す。そんな彼らに相対するように立つのは、ブルートバードを代表して

団長のイセルナと、着慣れぬハガル・ヤクランに身を包んだジークの二人。

 そうして託されたのは、輝く青で統一された宝剣ハクアと、輝く金で統一されたコウア。

 イセルナとジークは、恭しく或いは不慣れでぎこちなく、それぞれこの二振りを受け取っ

て軽く頭を下げた。同時に周囲からは大きな拍手が沸き起こり、各社マスコミ記者らは一斉

に写姿器のストロボを焚いて、繰り返しシャッターを押す。

 ……まさかこれがレプリカだなどとは、誰も思うまい。

 ジークは手渡されたコウアに視線を落としながら、よくもまぁこんな博打が打てたものだ

なと思った。一見すれば二振りの輝きは本物で、裏側を知らされている自分達でもややもす

ればその事を忘れてしまいそうだ。大体千年も前の代物がこんなにピカピカだというのは不

自然なのだが、巷で膨らんだ王器の威光とやらはそんな思考力すら鈍らせてしまうらしい。

(もしバレたら、とんでもない事になるなあ)

 会場ではウゲツやケヴィン──正義の盾イージスからの出向組とアトスの近衛騎士団による厳重な

警備が敷かれていた。ぐるりと人の輪で境界線を作り、見物する市民や記者達をその外側に

維持する。

 はたして、彼らはこちらの目論見通りに思い、動いてくれるのだろうか? ジークは内心

気が気でならなかった。着慣れぬ礼装も然り、まるで高所を綱渡りしている気分だ。

 事前の打ち合わせ通り、イセルナと共にレプリカを人々に向かって掲げる。途端に彼らか

らは拍手が起こり、中には熱心に拝み出す者達さえいた。

 ……正直、罪悪感がチクチクと胸を刺す。

 安心してくれただろうか? 厄介払いができると思われただろうか?

 もしいざという時は、警備上の都合で一時的にレプリカを使ったのだと説明されるのだと

思う。実際、宝物庫で本物は見せて貰ったし、この式典が終わりここを経つ前にはそれらを

正式に回収する予定となっている。

(面倒臭いモンだな。政治ってのは……)

 メインイベントが済んでからは、ハウゼンの演説に始まり、各国来賓達による委譲歓迎の

スピーチの連続だった。

 あまり話は頭に入って来ない。ただその場に立たされ続けただけというのがジークの感慨

だった。どうせ誰も彼も話半分はパフォーマンスで、実際に腹に抱えている内容など人それ

ぞれなのだから。これを機に自国のアピールをしたり、ハウゼンに擦り寄ったり。或いはこ

の先自国の聖浄器──王器を引き渡さねばならない流れになることを内心警戒・反発しつつ

も、表向きは一致団結して“結社”との戦いに当たる態度を示さねばならないなど。

 手の中にある宝物も偽物で、入れ替わり立ち代りスピーチをする各国来賓らの言葉も何処

か上っ面だけさという嘆息ばかりが、繰り返し胸奥に去来する。

 ……いや、それは他でもない自分の本心か。何度となく裏切られ、その都度掌を返しては

称賛されたり、批判され続けてきたこれまでの旅を、条件反射的に思い出しているのか。

 それでも……自分達は戦う。彼らの為、だけではない。何よりも自分達の為に。

 家族に、仲間達に。大切な人達に次々と手を掛けてきた“結社”への怒り。積もりに積も

った因縁と、最早後戻りさえできない現状。

 そういえば副団長達は、翠風の町セレナスでどうしているだろうか? 先日リュノーの隠し部屋に

辿り着いたとは聞いたのだが、そこに何があったのか。

 ヨーハンじいさんは言っていた。自分達はもっと知るべきだと。

 そこにその答えがあるのだろうか? 知って、はたしてこの戦いにピリオドを打つ事はで

きるのだろうか?

 式典は特に滞りなく進む。次の者、次の者へとスピーチが続いていく中で、来賓やアトス

政府の高官らが時折ひそひそと話している。政治とはこんな目立つパフォーマンスばかりで

はなく、実際の所もっと一対一の密室に近い中、関係性で決まってゆくものなのだろう。

「──」

 やはり王器が人手に渡るのは面白くないのか、ミルヒ王女はドレスに身を包みながらも終

始むすっとしているように見えた。一方でハーケン王子は、淡々と関係者席の一角に座しな

がら、ふと何やら部下の一人にこそこそ耳打ち──報告を受けている。その横顔がフッと、

暗くなるのを見たような気がした。

 ウゲツらも出張って妨害テロを警戒していたが、どうやら今回“結社”が襲ってくる様子はない。

流石に目に見えて構えている真正面から要人達の殺害や王器奪取を目論むにはリスクが

高いと踏んだか。或いはもう、レプリカだという事がバレているのか……。

(考え過ぎか)

 関係者席の向こうで、仲間達が見守ってくれている。

 イセルナと共に、ジークはもう暫くこのもどかしい時間を過ごさざるを得なかった。

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