表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-82.願い蝕む器がゆえに
102/436

82-(2) 新時代の答え

「──まさか。そんな、ことが……」

 リュカ及びクロムから伝えられたその内容に、アルノーは思わず顔を引き攣らせる。

 翠風の町セレナス・マルセイユ邸。一週間近くかけて完了した先祖“賢者”リュノーの手記の解読。

そこに書かれていたという内容を彼女達から聞かされるにつれ、彼の表情はどんどんと青

褪めていった。

 無理もなかろう。かの手記には驚くべき事実達が閉じ込められていたのだから。

 リュノーは異界人ヴィジターだった。それ故異次元の発想で、解放軍を勝利に導く名軍師となった。

 その仲間“精霊王”ユヴァンと、最後の戦いで相打ちになったとされる皇帝オディウス。

 何と彼らの遺体は結局見つかっていないというのだ。表向きは影武者を使って戦いの大義

を保持することを選んだが、ならば一体彼らは何処に消えてしまったのだろう?

 何より衝撃的だったのは……聖浄器の真実である。

 魔導開放の交換条件的に造られた、強い魔力を持つ“人間の魂”を核とした決戦兵器達。

 おそらくヨーハンが示唆していたのは、この記述だったのだろう。だからこそ自らがかつ

て使っていたそれの封印を解くことも、誰かに託すことも避けようとした。せめて知った上

で覚悟を決めて欲しいと、そう伝えたかったのだろうと。

 更に当時から暗躍していた“結社”の存在や、この世界を覆う違和感。稀代の英雄として

時代に愛された賢者は、その実この世界で目の当たりにした数多くの矛盾に密かに苦しんだ

苦悩の人であった。

「これだけ厳重に保管されていたんだ。当たり障りのない内容だとは、思っていなかったけ

れど……」

 あまりのショックに、一挙に押し寄せてきた情報の波に、アルノーは掌で頭を抱えながら

座るソファに大きく項垂れた。妻のルーシェや、同席していた屋敷の使用人達が、慌ててこ

れを支えに掛かる。

「若さんの言う通り、何もない訳はねぇとは思ってたが、これほどとはな……」

「えっと。異界人ヴィジターで、死んでなくて、ヒトの魂が核……?」

「ジークが六華は生きてるって言ってたの、そういうことだったんだね。レナ、大丈夫かな

あ。今私達の中で本物持ってるのって他にあの子くらいだし」

 衝撃を受けていたのは、ダンら残る仲間達も同じくである。

 唇を結んで努めて取り乱さぬようにし、そもそもそんな余裕すらなく、或いは情報を整理

してはこの先の困難や別ルートの仲間のことを憂う。

 内容を纏めたノートを手にしたリュカと、補佐役のクロムが皆の前にじっと立っていた。

一通り解読した内容を話した二人であったが、一番悩んだのは彼女達だろう。

「これが、例の書斎に収めてあった手記を全て読み解いた上での要点です。アルノーさん、

皆さん。大丈夫だとは思いますが、この情報は表には」

「え、ええ。話しません。話しませんとも。こんなことが公になったら、世界が大混乱に陥

ってしまう……」

 それでもあくまで気丈に振る舞い、リュカはアルノーに口外しない事を確認する。彼らも

また言わずもがなだった。当主の繰り返す首肯に、ルーシェら屋敷の関係者も恐ろしくて語

れそうにない。おそらく、今からでも記憶から消し飛ばしたい程な筈だ。

「ヨーハン様の知るべきこととは、こういう事だったんだな。自分達も途中で知ってしまっ

たからこそ、できれば僕らに同じ目に遭わせたくなかった」

「うう……。そう言われても、今更どうしろって言うんですかあ……」

「これで少しずつ話が見えてきたな。“結社”が聖浄器を集めてるのは、その強い魂の力っ

てのを利用する為か」

「おそらくは。方法までは分からないけど“大盟約コード”を破壊する為に強力な魔導をぶつける

ってことじゃないかしら?」

 サフレの理解。マルタの泣き言。

 破壊!? さらっとリュカが口にした情報にアルノーがまた驚いていたが、正直彼のメン

タルを一々気にしながら話を進める悠長さは許されていなさそうだ。

「オーニールの爺さんも“大盟約コード”はモノだって言ってたしな。まぁクロムが訊かなきゃ何

も話してはくれなかったんだろうけど」

「それも妙なんだけどねえ。議長さんも言ってたけど、壊すだけなら何とでもなりそうじゃ

ん? でも結社れんちゅうは、わざわざ回りくどい方法を取ろうとしてる」

「……もっと別の意図があるのかもしれません。魔導とは魔力マナ──魂のエネルギーとの交信

です。そのシステムの大元をなくそうというのなら、ただ断ち切るだけでは不十分なのかも

しれない。聖浄器を、大量の魂の力でその巨大な流れ、魔流ストリームを操作しなければただ魔導に支

障が出るだけではなく、この世界そのものがおかしくなってしまう恐れがある……」

 訥々と、頭を抱えながらも発言に割って入ったリュノー。

 その、魔導を扱える一介の人間の指摘に、リュカ及びダン達は思わず目を見張ると一斉に

彼を見つめた。

「そっか。単純に毟っても“在るべき世界”どころか、世界そのものがグチャグチャになり

かねねえのか」

「あ、あれ? じゃあ“結社”って良い人達ってことに……?」

「いやいや。手前の都合で引っ掻き回してることには変わらねえだろ。だがまぁ、奴らの理

想像っつーか青写真が見えてきた感じだな。ヒトがどうなろうと、魔導開放以前の状態に世

界を巻き戻す」

「……」

 理解できたり、余計に混乱したり。

 だが少なくとも、これまでほど不明なまま結社かれらと戦うことは避けられそうだ。

 敵にも明確な目的──理想がある。在るべき姿。世界を“大盟約コード”に縛られぬ姿に定義し

直そうという訳か。

 さりとて、彼らの暴挙を許していい理由にはならない。クロムが少し、視線を逸らして黙

っている。

 そもそも何故、そこまでして“大盟約コード”を軸とした今の世界を壊そうとするのだろう? 

壊さなければならない強力な理由でもあるのだろうか?

「……爺さんは、自分達の聖浄器を使って欲しくなかったんだろうな」

「ええ。だからこそ、その理由であるリュノーの手記まで私達を誘導し、考え直して貰おう

としたのかもしれません」

「気持ちは分からんでもないがな。言っちまえば、生贄で作られた武器で正義の味方面する

んだ。知っちまったら後ろめたさはあるさ」

「でも、もしこのまま“大盟約コード”が無くなるようなことになれば、人々の犠牲やもたらされ

る被害は今の比ではなくなります」

「……ボク達や、皆に奴らがやってきたことも、帳消しになんてならない」

「ああ。彼らの大義は一つの見解だが、その為に切り捨てるものが多過ぎる。……それでは

駄目だと思ったんだ。今を必死に生きている人々にこそ手を差し伸べる。救世を謳うなら、

先ずはこちらがそこまで歩み寄るべきだったんだ」

 最初、ダンが確認するようにごちた。リュカが小さく頷き、その意図を汲んでいる。

 グノーシュも渋い表情かおをする。だがサフレやミア、皆はそれでいて足を止めようとは考え

なかった。これから起こりうる災いと、これまで起こってきた犠牲を、ただ指を咥えて諦め

ようとはしなかった。

 クロムも言う。それはかつて敵として必死に剣を交えながら、それでも自身の絶望を感じ

て涙さえ流したジークの姿。そんな若き現在いまの命と、ずっと押し殺してきた矛盾にようやく

向き合い彼は今、かつての古巣を止めようとしている。

「皆さん……」

「今更、引き返せやしねえよ。元よりこっちが買った喧嘩だ。止めてみせる」

「まだまだ詳しい情報が欲しいですね。“大盟約コード”周りの詳しいことについて、大書庫に文

献があればいいんですけど……」

 アルノーが、ルーシェ達が息を呑んで見守っていた。

 今はまだ、彼らは折れる事を知らない。いや、何度となく水を差されてきたからこそ、逆

に貫くことを選ぶ他なくなっているのかもしれない。

 ともかくこの情報を、秘匿しつつも仲間達で共有する必要があった。話し合い、一度船に

戻ってイセルナ達と合流する場を設けることにする。リュノーが遺した文献も、引き続き読

み解こうと示し合わせた。ただ力で勝つだけでは足りない。それは何より、これまでの旅の

中で痛いほどに味わってきた現実だ。

「──た、大変ですッ!!」

 ちょうど、そんな時だった。

 皆が集まる応接室に、一人の守備隊員が転がり込んで来たのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ