82-(1) 宝物庫にて
所は変わり、クリスヴェイル王宮内。
ジーク達北回りチームの面々は、空いた時間を使って、同城地下宝物庫に安置されている
という本物のハクアとコウアを見せて貰う事になった。主たるハウゼン王は公務と式典の準
備で多忙なため、代わりにハーケン王子が案内役を務める。
「着きました。こちらです」
何十人もの衛兵を率い、何重にも厳重に仕切られた大扉を通りながら。
ハーケンらに従って地下へと降り、途中宝物庫内の財宝の数々を横目にしながら、ジーク
達はやがてそこに立っていた。
表面にびっしりと緻密なレリーフが刻み込まれた、小さな丸いくぼみのある石扉。
以前教団本部の始祖霊廟で、ダン達がリュノーの大書庫で見たものと同じ扉だ。中央の大
人の背丈ほどの位置にはやはり、丸く小さなくぼみとそこから走る溝が刻まれている。
「王子」
「ああ。では早速」
そしてごくりと息を飲んで石扉を見上げるジーク達の一方で、ハーケンは部下が慎重に小
箱から取り出した小さな宝珠──志士の鍵を受け取った。それを片手にし、もう片方の手で
別の部下が差し出したナイフの刃先に指を押し付けると、つぅっと自らの血を準備する。
「……なあ。あんたは厳密には十二聖の末裔じゃないんだろ? その血で開くのか?」
「ああ、それならご心配なく。確かに“忠騎士”レイアは伴侶や子を成しませんでしたが、
盟友として我々アトモスファイ一族は代々その聖浄器を守護する任を担ってきました。です
ので我が国の“鍵”は我々の血でも起動します。おそらくは別途守護者の一族がいる封印に
ついては同様にこうした例外が適用されているものかと」
「ふーん……」
ジークがふと気になり訊ねたが、ハーケンの慇懃とした面持ちと言葉遣いは揺るがない。
実際この志士の鍵をくぼみに嵌め、溝に血を伝わせた瞬間、硬く閉ざされていた石扉はまる
でスイッチが入ったかのようにゴゴゴ……と轟音を立てながらスライドしていった。
奥には祭壇があった。ずらりと、左右それぞれに剣と槍を携えた蒼銀の甲冑騎士──ガー
ディアン達が並んでいる。彼らが一斉に構えを敬礼のそれに変えて迎えてくれたのを見る限
り、ハーケンの言葉に偽りはなさそうだ。ちらっと一度、彼が肩越しにこっちを確認したの
を合図に、一行は恐る恐ると祭壇の方へと上がってゆく。
「……これが氷霊剣ハクアと、風霊槍コウアか」
「綺麗な青と金ですねえ。宝物って感じがします」
「寧ろ今だにピカピカってのがおかしいんだが……。まぁ聖教典の時もそうだったけどよ」
「身が引き締まるよ。式典自体はともかく、これが私達に託されるんだ」
「ええ。……大丈夫かしら。こんな物を職人さんが作るなんて……」
祭壇の専用台に刺してあったのは、千年近い時を経ても静かに輝きを保ちつつづける、青
い長剣と金の長槍だった。
見るからに強力な魔力を感じる。ある者は感心し、またある者は改めてこの異質に思わず
眉を顰め、或いは式典でこの本物を模したレプリカが用いられることに不安を覚える。
「はは。心配するのはそっちか」
「どうなんだろう? 要するに金ぴかにしておけば誤魔化せそうな気もするけど……」
そんな団長の少し別方向の不安に、仲間達は苦笑した。確かにこうして実際に本物を目に
した後では、無理もないかもしれない。だが、だからといって自分達に何ができる訳でもな
いだろう。この国の職人達の技術力を信じるしかない。
『……』
暫くの間、ジーク達はこの二降りの宝物をじっと眺めていた。
もし本当に用心するならば、式典が終わるまでここに閉じ込めておいた方がいいものを、
わざわざ事前に見せてくれたハウゼンの心遣い──誠意にはほとほと感服する。一行はここ
には居ない、かの賢君に心の中で礼を述べておいた。実娘のように反対意見・慎重論もあっ
たろう。それを説き伏せて、今回の式典に臨む──大きな目的の為に皆が団結することの大
切さ。……尤も、それも結局はケースバイケース。正義という名の都合でしかないのもまた
事実だが。
「うーん。剣はジークさんかイセルナさんだとして、槍は……サフレさんですかね?」
「うん? ああ、誰が持っておくかって話か。そうだなあ、あんまり考えてなかった。レナ
の時は成り行きというか、これ以上適任って奴がいなかったし」
「船デ保管シテ貰ウトイウ選択肢モアリマスヨ?」
取らぬ狸の何とやら。そんな厳粛に気圧されての沈黙も、ややあってのんびりと仲間同士
のやり取りで解されていく。
「……ハーケン王子。もしかしてですが、最近ここへ誰か入られましたか?」
そんな中、イセルナが一人ちらっと祭壇内の片隅──先程の封印扉がスライドした溝の方
を見つめていた。
気のせいだろうか。厳重に保管されていた割には、埃の積もりが少ない気がする。
「ええ。二年前、大都消失事件の折に敵軍から守ろうと一時的に……」
それが何か? ハーケンが彼女の問いと、向けていた視線を見て理解したのか、数度目を
瞬いてから言った。確かにそう言えば、当時はこのクリスヴェイルも“結社”の軍勢が押し
寄せていたと記憶している。
「そうですか」
スッと視線を祭壇の方、仲間達に戻し、イセルナは頷く。
ええ。ハーケンも特にそれ以上何かを突っ込み、言及する訳でもなく、二振りを前にした
ジーク達を黙して眺めて、微笑う。




