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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔下〕  作者: 長岡壱月
Tale-69.羽捥げし、蒼染の鳥(ブルートバード)
1/428

69-(0) 彼らの轍

※旧版(現〔上〕巻)の初回掲載日=2016.1/9


▼第Ⅵ部『古記なる旅路リプレイ・ザ・レコード(前)』編 開始

 ──志士十二聖ししじゅうにせい

 およそ千年前、世界を席巻していた大帝国ゴルガニアに対し、果敢にも反旗を翻した十二

人の英傑達の総称である。

 即ち、帝国将校の一人でありながら、圧政に苦しむ民を憂い、解放軍を立ち上げた十二聖

の長“英雄”ハルヴェート。その腹心であった“大戦士”ベオグと“忠騎士”レイア。

 正義感に溢れた若き竜族ドラグネスの青年“勇者”ヨーハンと、その終生の友であり解放軍の頭脳と

して才覚を振るった“賢者”リュノー。

 東方の小さき國の剣豪皇“剣帝”シキ、妖精族エルフの弓使い“弓姫”アゼル、義の為ならば命

も惜しまぬ在野の武侠“巨侠”デュバルに、反帝国のパトロンとして力を貸した地底層──

魔界パンデモニムの有力者“闇卿”エブラハム、謎多き旅の道化“千面”のイグリット。

 何よりも有名なのは、敵味方を問わず傷付いた人々に手を差し伸べ、のちに己が名を神々

の御遣いとして祀られる事となる“聖女”クリシェンヌ及び、当代最強の魔導師と謳われた

若き天才“精霊王”ユヴァンであろう。

 始めはごく小さな力だった。

 だが、圧政と果ての見えぬ未来からの解放を願った人々の力は徐々に集い、大きくなり、

何より先頭に立つ十二聖らの活躍により、やがてその巨大なうねりは人類史上稀にみる大国

であるゴルガニアすらも呑み込んでいった。

 正義の勝利。

 かくしてゴルガニアという大帝国が滅んだその時、人々は如何に歓喜したか。

 歴史に刻むべき偉業。

 故に現在も、十二聖の名は数多くの伝承・物語の中に登場し、最も身近な所では曜日の名

ともなっている。


 ──だがしかし、そんな華やかな呼び声とは裏腹に、当の十二聖達は必ずしも幸福な余生

を送った訳ではない。史実は伝える。彼らもまた、等しくヒトであったことを。

 “英雄”ハルヴェートは病に倒れ、戦後の統一政府完成を見る事なくこの世を去った。

 “剣帝”シキは、その尋常ならざる力を恐れた義弟に謀られた末、壮絶な最期を遂げる。

 “弓姫”アゼルは俗世に関わったとして里の古老達に追放され、名軍師として称えられ何

不自由無かった筈の“賢者”リュノーも、後年自身の大書庫に閉じ篭ってしまう。

 もしかしたら彼の戦いの最後、皇帝オディウスと刺し違え亡くなった“精霊王”ユヴァン

の──戦友とものことを、彼らは悼んでいたのかもしれない。だが今となってはもう確かめる術

もない。


 夥しい──数え切れぬ犠牲の上に今日いまがある。

 しかしそれでも尚、ヒトは繰り返し争いを続けてきた。かつて帝国がそうしたように未だ

見ぬ浮遊大陸だいちを求め、開拓し、国を作り、諍いの種を撒く。止めようのないうねりと共に豊

かさを、己が好転を求め、突き進む。

 かつてのような大戦はない。

 だが今この時こそが……まさに膨大な争いの世なのかもしれない。

 “結社”もまたその一例に漏れぬのだろう。幾度もの犠牲を受け、世界は改めて大きな戦

いの波へとさらわれていく。

 誰に選ばれたのか。その戦いに今、この新たなる時代の『英雄』の卵達がかち合わされよ

うとしている。翻弄されようとしている。


 皮肉にもその旅路は、かつての『英雄』達を求め、足跡を追ってゆくものになるのだが。

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