表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

奇妙な武器屋

作者: まんぼう
掲載日:2020/12/14

武器を中心とする短篇を書いてみました。少し特殊な性能を持つ武器です。


初めての投稿で拙い文章すが、楽しんでもらえたら幸いです。

#R15は保険です。戦闘シーンの描写も少しだけです。

 【短剣とドラゴン】


 <武器屋>


こぢんまりとした店のとても古ぼけた扉が開くと、その扉には似合わないチリーンと涼しげな音が鳴り、客が入ってくる。

入ってきた客は、少し若い感じだが体つきはがっしりとしていて、程よく筋肉が付いており、身のこなしも滑らかだ。古ぼけた見た目だが上位の防具をつけている。武器も使い込まれていたがそれなりの業物であることがうかがえる。それなりの上位ランクの冒険者だろう。

冒険者の男はキョロキョロと店を見回し、目的の武器を展示している場所に移動した。その中で一番安い短剣を手に取ると一旦躊躇しながらも奥のカウンターへ向かった。


「あの〜、す、すみません。」


「何かの?」と皺がれた声が帰ってきた。声がした方を見ると店のカウンターがあり、そこには声に相応しい年老いた老人がいた。


「こ、この短剣を試させてほしいのですが。」


すぐに返事は無く、老人のじっと値踏みするような視線を耐えていると


「ふむ、まあ良かろう。奥で試すがいい。」


老人はそう言って店の奥の通路を指さす。

冒険者の男は指示に従ってカウンター横の通路を奥へと向かう。暗い通路をしばらく歩いているといつの間にか白い霧のようなものに包まれていて、まるで外を歩いているようだった。


「おかしいなあ、廊下を歩いていたはずなのに。」


と呟き立ち止まって、周りに目をやる。暗い廊下でなく、ほんのりと明るく、しかし霧のせいで遠くまでは見通せない。10m先は白くなってわからない。足元を見れば、道みたいなものが前へと真直ぐ続いている。

暫くその道を歩いていると、ちょっとした広い場所に出た。その中央付近にテーブルとイスが、置いてあった。テーブルは1mほどの丸い形状でがっしりとした木でできていた。見た目はずいぶん長いこと使われている感じで暗くくすんだ色だった。イスもテーブルと同じ材質の木でできているようだ。

テーブルの側でしばらく佇んでいると


「立ってないで椅子に座ったらいかが?」と女性の声がした。声の方へ顔を向けるといつの間にか椅子に座った女性がいた。髪はこの周辺では珍しい黒髪で肩を超えるくらいの長さ、目は切れ長で瞳は髪と同じ色をしていた。ノースリーブの白いワンピースを着ていて黒髪と対照的な色でとても雰囲気に似合っていた。布地も光沢がありどこか幻想的な雰囲気を持った感じがあった。

男は頷くと対面の椅子に座った。


「お茶をどうぞ」


そう言われてテーブルの上を見ると確かにティーカップが置かれていた。お茶の用意などされていなかったと思っていたが、最初から用意されていた気もする。どうも心ここにあらずと言った感じだった。

男は言われるままカップを手に取り、一口飲む。暖かさが体中に拡がっていくのと同時に心も落ち着いたようで、話しかけることができた。


「美味しい紅茶ですね。茶葉はアークでしょうか」少し場違いな内容だったが。


「よくお分かりですね。アークの茶葉は入手が難しく嗜む人は少ないのですけど」

「ええ、ちょっとした伝手がありまして・・」

「それで、今回のご依頼の内容は?」


男は急な話題の転換について行けず、何の事かわからない様だったが、ようやく自分が何のためにここへ来たのか思い出したようだった。


「あっ、そうでした!お願いがあって」


女は男を遮るように手を上げた。そのまま手のひらを上に向けて何かを渡してもらうような格好をする。


「その前に、短剣を渡してください。」


『短剣・・・』そう男は呟くと慌てて腰のベルトに差していた短剣を女の手の上に乗せた。女は受け取った短剣を手元のテーブルの上に置いた。そして手をかざすと短剣が白く光り輝き始めた。

『そう、強く純粋な願いなのね』と男に聞こえないくらい小さな声でつぶやく。

女は顔を男に向けると、


「では、聞かせて。あなたの願い。」


と、言った。

男は姿勢を正して話し始めた



 <願い>



男は、冒険者だった。パーティーとしてBランクの中堅どころであり、個人としてもある程度 名の売れた冒険者だったが、Aランクへ上がるところで足踏みをしていた。簡単に言えば、壁にぶつかっていた。Aランクに成れれば少なくない安定した収入と名誉が望めた。それ相応の危険はあるが。

男としてもそこを目指していた。単に名誉だけでなく、思いを寄せている女性のためにもと考えていたのだ。

そう、男には結婚を考えている女性がいた。Aランクに上がれたらプロポーズをするつもりだった。女性の方も男の事を憎からず思っており、プロポーズを待っている状況だった。これまで順調にランクを上げていたが流石にAランクに上がるのは難しかった。それでも割と順調にAランクに届くところまで来ていたのだが、後一歩が難しかった。あと一つか二つの大きな功績を上げれば確実なのだが。

そこへ男にとって不幸が降りかかった。結婚を考えていた女性が領主に目をつけられてしまったのだ。しかも妾として。領民たちは、「また領主の悪い癖が」、「これさえなければ良い領主なのだが」と噂しているように偶に“良く”あることだった。男は冒険者だったが、下級貴族の出ではあった。しかし三男だったため家を継ぐことはできなかった。それもあって冒険者になったと言う事でもあるのだが。


領主も男が冒険者ではあるが将来有望で実力もあり貴族出身と言う事や臣下たちの諌めもあり、あまりごり押しをすることも出来ないと思い、条件を出した。それは、その領主の領地に住み着いたドラゴンを討伐することであった。ドラゴンと言っても下位種で一番弱いドラゴンではあるが、それでも強力な魔物である。そこは豊かな土地であり領主にとって大きな収入源であった。そのためかドラゴンが近年住み着いてしまい、ここ数年税が減収の状況にあった。

Bランクパーティーの冒険者であれば、何とか討伐が可能なレベルなので、依頼を出して何度か討伐を試みたが、Bランクの冒険者たちでは成功しなかった。被害が広範囲にひろがり領民が殺されるといった状況になっていればAランクの冒険者もしくはSランクの冒険者パーティーに討伐を依頼するところなのだが、ある範囲を縄張りとしてそこから出ることなく領民も縄張りを侵さなければ被害が出なかったし、減収といっても許容範囲であったため、緊急性が低かった。その為報酬が高額になるAランクのパーティーやましてやSランクのパーティーに依頼するのは躊躇われたのだった。

ただ、これを領主からの命令として男にドラゴンを討伐させた場合、外聞が悪いと考えた宰相は冒険者ギルドへの依頼という形にした。ほとんどその男への指名依頼みたいなものなのだが、その褒賞の一つとして女性を領主が諦めるとした。もちろん、表向きにできない(依頼書に明記できない)ことだが、領民たちにとっては公然の秘密だった。

男としてもドラゴン討伐の功績があれば、Aランクへ上がれるとの目論見もあって受けるしかなかったのだった。



 <ドラゴンとの闘い>



男は、荒い息を吐いていた。何とか互角の戦いをしてきたが、さすがにいろいろ準備してきたアイテムも尽きようとしていた。戦っているドラゴンは、アース・ドラゴンという種でドラゴン種の中でも最下位にあたる。上位になれば知性もあり会話することも可能と言われるが、伝説に近い。そんな上位のドラゴンは伝説の中でしか聞いたことはない。ただ、実際に存在はしているようで、上位ドラゴンの素材から作られた武具やアイテムなどが国宝として実在し幾つかの国の宝物庫に保管されている。今回は下位種の中でも最低位のアース・ドラゴンだから何とかなっているというところもあった。それでも男のBランクパーティーでは厳しい魔物であるのは間違いない。

闘い始めて1時間ほど経過したところで、アース・ドラゴンも弱ってきてはいた。そして、あと少しで倒せるところまで来ていた。しかし、男も男のパーティーメンバーも満身創痍の状態でメンバーの魔術師と治癒師もMPが尽きかけていた。最初、男は一人で立ち向かうはずだったが、パーティーメンバーが助力すると申し出てくれたのだ。


「はぁ、はぁ、おれの我儘に付き合ってもらってすまないな。」

「な、何、そろそろ俺もドラゴンスレイヤーと言う称号が欲しくなっただけさ」と盾役の男

「く、薬の調合にドラゴンの素材がちょうど必要だったしな。」と魔術師の男

「・・・」治癒師の男は無口だった。


男は、そう答える仲間たち(治癒師は表情からだが)を誇らしく思うのだった。


通常の戦術であれば、盾役の戦士が魔獣の注意を惹きながら男が攻撃をする。また後衛の魔術師や治癒師が後方支援を行うという形であった。今回は男がドラゴンを討伐する形を取らざるを得ないため、陣形を変える必要があった。

最初は何とかなっていた。ドラゴンにダメージを的確に与えて弱らせることができていた。しかし、戦闘が長期戦を呈してきた時点でドラゴンの方が優勢になっていた。

そこに考えられない事態が発生した。近くの岩場の陰に10歳くらいの男のことがいたのだ。しかもドラゴンをよく見ようとして身を乗り出している。

何とか男の子がドラゴンに見つからないように戦うが、それが余計に不利な方向へと状況を変えていった。しかし男の努力をあざ笑うかのように男の子はドラゴンに見つかってしまう。そしてドラゴンは餌を見つけたかのように男の子へと向きを変えた。男はその隙をついて、岩場から男の子を連れだすのが精一杯であった。



 <短剣>



後ろにいる男の子が無事かどうかを確認して前を向く。今にも襲い掛かろうとしているドラゴンを見て、男は思わず腰に差している短刀に手をやった。不意に脳裏に女との会話がよみがえる。



「あなたの置かれている状況は分かったわ。それであなたの望みは?」

男は考えをまとめるように少し間を置いて話し出した。

「彼女を奪われたくないのだが、その阻止する方法を思いつくことが出来ない。彼女を領主の元から連れ去ることもできなくはないだろうが、悪手だ。結局はドラゴンを討伐するしかないのだが、確実に倒すことが出来るほどの実力を持っているほどでもない。まあ負ける気はないし、何とか倒すことが出来ると考えている。が、その時ある噂を聞いて少しでもドラゴンを確実に倒すことが出来ないかと藁をも縋る状態でここを訪れたのだ。」


「ドラゴンを倒すための武器を要望されるのですね?」

「焦っていたのでしょう。そんな都合のよい武器や道具があるわけでもないのに。あなたに相談して気持ちが落ち着いた・・」

「ありますよ。そんな都合の良い武器が。」と男の言葉を遮って女は言った。


「えっ、ドラゴンを倒す武器がですか?」

「そうです。ここは武器屋ですので。」と女は微笑む。然も当たり前の様に。

男は唖然としてしばらく固まっていた。

何とか再起動すると「本当にあるのですか?」と呟くのが精一杯であった。

「ええ」そう言うと女は最初に男から受け取った短刀を渡した。男は短刀を受け取って首をひねる。


「その短剣は見た目はみすぼらしいですが、魔術を付与した武器です。効果は使用者の命を媒介(・・)として切りつけた対象を滅ぼすことができるといったものです。」

「“滅ぼす”ですか?」

「そうです。対象は生物に限りません。無生物も対象です。例えば、堅牢な扉に対して使えば、その扉だけを滅ぼせます。この場合扉が塵となって消えてなくなるといった形ですが。

その短剣はドラゴンに対しても有効です。倒すと念じて使えば命だけが、全身を対象とすれば身体自体を滅することができます。」

「ただし、命と引き換え(・・・・)ですか・・・・」

 

しばらく無言が続いたが男が再び思い出したように話した。


「そういえば、報酬はどうなるのでしょうか。」

「報酬は成功した後にいただくことにしているわ。あなたが目的を果たせなかった場合は特に必要ないし、たぶん払えないでしょうから。」



 <領主の孫>



少し気を失っていたのだろう。武器屋でのやり取りを思い出していた。頭を振って意識をしっかりとさせる。腰にある短剣から手を放し、愛剣である両手剣を構えなおし背後の男の子を意識しつつドラゴンを見つめる。


 ◇ ◇ ◇


男が男の子をドラゴンから庇う少し前に遡る。その男の子は領主の孫であった。

男のパーティーがドラゴンと戦っている後方に近衛騎士に守られた領主がいた。

本来、領主はこの場に来ることなど一切考えていなかった。しかし、たまたま話を聞いた領主の孫にどうしてもドラゴンの討伐を見てみたいと駄々をこねられ、領主が折れたのだ。遠くから眺めるだけとの約束で近衛騎士を護衛に討伐場所にやってくることになったのだった。


「なかなかの迫力だな。魔物討伐は人間同士の戦争とはまた随分と違ったものだな。」

領主は十分離れた場所からドラゴンとの闘いを見ていた。孫も十分楽しんでいるようだ。

「おじい様、すごいね。」

「ああ、そうだな。」

「僕、将来あんなすごい冒険者になる!」

「そうか、そうか」と好々爺の様に笑う。


暫くドラゴンとの闘いを手に汗を握りながら見ていて領主はふと孫が傍にいないことに気付いた。領主は近くにいる騎士団長に尋ねる。


「騎士団長、儂の孫はどこにおる?」


騎士団長は問われて周りを見回すが、孫がいないことに気づき顔を青くする。


「どうした、孫はどこだ!」重ねて問う領主に、

「も、申し訳ありません。お孫様は近くにおりません。」と答える。

「馬鹿者!すぐに探さんか!!」


「はっ」と答え、騎士団長は部下の騎士たちに命令を出し、孫を探すため騎士たちが駆け出していった。

どうやら騎士団の面々も眼前の戦いに気を取られていたようだった。

報告が来るまで領主は苛々と周辺を歩き回った。実際それしかすることが無かったのだ。

ようやく、一人の騎士が走って戻ってくるのが見えた。

近くに駆け寄ってきた騎士に領主は問いかける。


「どうだ、見つかったか。」


騎士は何とか息を整えると報告した。

ドラゴンのいる方を指差しながら、


「ドラゴンの左前方。約20-30mの距離にある岩陰におります。」


と報告した。


「なっ、なぜ、そんなところに。」


領主は声を漏らす。質問されたと感じた騎士は思わず返答した。


「た、たぶん、もっと近くでご覧になりたかったのでは。」

「そんなことは、どうでも良い。早く連れ戻してこぬか!」

「申し訳ありません。今は待つしかない状況です。」

「なぜだ!」

「ドラゴンはまだ、お孫様に気づいておりません。冒険者との戦いに集中しています。ここで我々騎士隊が近づきますとドラゴンの注意が騎士たちに向き、ひいてはお孫様がドラゴンの脅威に晒されることになります。」

「お前たちがドラゴンを退ければ良いだけではないか。」

「残念ながら、今ここにいる戦力ではお孫様をお守りしながらドラゴンを退けることは出来ません。」

「なにっ!では、あの冒険者たちはそんなに強い者たちなのか。」

「はい、彼らは相応の準備をして4人でドラゴンと戦えていますが、我ら騎士のみでは少なくともあと5人は必要です。それでも犠牲者は避けられませんし、守り切れるか分かりません。せめて魔術師がいれば。」

「そんなに差があるのか。」

「はっ!」


孫の方を見る領主に騎士団長が語り掛ける。


「今は、ドラゴンが少しでも遠くに離れてくれることを見守るしかありません。」


 ◇ ◇ ◇


意識をドラゴンに戻すと、口を大きく開けてブレスを吐く体勢だった。

男のパーティーメンバーの魔術師が最後のMPを使って攻撃魔法を唱えていたが、間に合いそうにない。男の子を守りドラゴンを倒すにはあの短剣を使うしかなかった。

男は予備として腰にある短剣を素早く取り出すと両手で構え、ドラゴンがブレスを吐くのと同時にドラゴンへ向けて駆けだした。

ファイアブレスがドラゴンの口から吐き出される。しかし、その炎は短剣を避けるかのように左右に分かれ、男の後ろにいる男の子には届かなかった。ただ、傍目から見れば男はファイアブレスに飲み込まれた様な形だった。



 <教会にて>



男の遺体は、街の教会へと運び込まれた。孫を助けた男を無下には出来なかったようだ。それに不思議なことが男の遺体には起きていたこともあったためだ。

ドラゴンのファイアブレスを受けたにしては、装備をはじめどこにも損傷が無く、皮膚にはやけどをした部分が無かった。それに心臓は止まっているのにまるで生きている様な状態なのだ。所謂、仮死状態であった。実際、街の教会まで運ぶのに半日ほど経ったが体は冷たくなっていなかった。

男の遺体を教会へ安置して程なく知らせを聞いたのだろう、男の婚約者である女性が教会へ飛び込んで来た。その音に驚き入口の扉を見た人々は女性に気づくと女性のために道を空けた。教会の入り口で中央に安置されている男を見るとすぐに駆け寄り男に縋り付いて泣き崩れた。女性のすすり泣く声が教会に響く。教会に集まった人たちも声をかけることが出来ず見守ることしかできなかった。

そこへ女性に声をかけたのは領主だった。


「すまぬ、我が孫を助けるために。」


さすがに領主も単にドラゴンを討伐できずに死ぬのであれば、それまでの実力と割り切ったが、そこに孫が討伐の最中に近寄ってしまい、その孫を助けるために亡くなったことに対しては申し訳なく思っていた。しかもドラゴンの討伐も成しえた上でだ。

女性にさらに声をかけようとするが声が出ず、女性を見つめていた。


暫く泣き伏していたが、女性はふと急いでここに来る途中の路地であった女の事を思い出した。胸元にある短剣が「早く私を使え!」と催促している様な気がして。


 『この短剣を男の心臓に突き刺しなさい。そうすれば、男は生き返る。・・・』


胸元にある短剣を取り出す。短剣を振り上げて、ためらわず男の心臓めがけて突き刺す。周りも最初は何が起こったのかわからなかった。


 ◇ ◇ ◇


知らせを聞いて婚約者は教会へと急いでいた。嘘であって欲しいと願いながら。走って急いでいる時、ふと声が聞こえた。そんな声など無視して進もうとしたがその声だけは頭に浸み込む様に響いた。が、それでも走っていると、いつの間にか白い霧に囲まれていてどこにいるかわからなかった。


不意に声が聞こえた。


「あの男を生き返らせたい?」

「えっ」


立ち止まり周りを見回す。誰もいないはずの正面に女が佇んでいた。


「落ち着いて聞いて。もう一度言うわ。あの男を生き返らせたい?」


と囁いた。

女性は静かに頷く。男の婚約者に話しかけたのは武器屋で男と話をしていた黒髪の女性だった。服装もその時と同じ白いワンピースを着ていた。


「では、この短剣を。」そういうと短剣を婚約者に渡す。その短剣は、男が武器屋で入手してドラゴンを倒した短剣だった。だが、少し違いがあった。刀身のみすぼらしい外見は払拭され、まるで聖剣であるかの様に白く輝いていた。でも柄のみすぼらしさは前と変わらずであったが。領主の孫を助けるため、男がドラゴンを倒すために使った短剣なのだが、黒髪の女性が何故か所持していた。

「この短剣を男の心臓に突き刺しなさい。そうすれば、男は生き返る。と言うより、目を覚ますといった方が正確かしら。」


婚約者は、素直に短剣を受け取る。


「これを胸に刺す・・・」

「そう。必ず心臓に刺さるようにしなさい。でないと、生き返らないばかりか身体が消滅するわ。短剣に吸収されて。」


婚約者は“消滅”という言葉を聞いてビクッと体を震わせる。


「それにあまり時間も無いの。あと1時間以内に行わないと短剣の輝きが消えて効果が無くなるから。」


その言葉を聞いて短剣を見る。その後、女性に声を掛けようとして前を向くと女性はいなかった。しかも白い霧もなくなり、街の大通りに佇んでいた。先ほどの事が幻ではないと主張しているかのように、手で短剣を握りしめていた。


 ◇ ◇ ◇


婚約者は胸元にある短剣を取り出す。心なしか女から貰った時より輝きが鈍ったような気がした。

周りの人たちは、婚約者が短剣を取り出したことを不思議に思ったが、次の瞬間目を疑った。あろうことか、婚約者がその短剣を横たわっている冒険者の男の胸に突き刺したのだ。

短剣は何の抵抗も示さず、柄のところで止まることなく、そのまま男の体内に埋まってしまい完全に短剣が見えなくなった。


静寂が教会を包んでからどのくらい経っただろうか。男はまるで良く寝たというようにむっくりと起き上がると周りを見渡した。そして、婚約者を見つけると驚いた顔をしながらも抱きしめた。


「ここは? なぜここに?」

「あなたがドラゴンと相打ちになったと聞いて」


男はようやく頭がすっきりしたのか、


「そうか、あの短剣でドラゴンは倒せたのか…」と呟いた。

「短剣?」

「いや、何でもない。」


男は立ち上がり、女性も立ち上がらせる。

男は女性の手を取り騎士の礼の様に跪き、女性の顔を見つめて


「どうか、私と結婚して欲しい。待たせてしまって済まなかった」


女性は目を見開き、しばらく声が出なかったが、何とか返事をする。


「ええ、喜んで」


女性は再び涙を流すが、先ほどとは違う涙だった。


「ありがとう」

男はそういうと立ち上がり女性を抱きしめる。


「すまなかった、ランクにこだわり過ぎた。君を幸せにすることが一番大切な事だったのに。」

「いいの、あなたが無事に戻って来てくれただけで」

「今後もこんなことがあるかもしれないが」

「大丈夫、あなたは必ず帰ってくるわ。今回の様に」

「まいったな。約束するよ、必ず帰ってくるって」


男は再び、女性を強く抱きしめた。


 ◇ ◇ ◇


教会の外には短剣を渡した女がいて、何故か手には先ほどの短剣を持っていた。婚約者に渡した時とも少し様子が異なっており、白い輝きも心なしか落ち着いた感じで短剣に馴染んだ感じだ。


「何とか収まったわね。あのままだと使いづらい武器になって価値が落ちるところだったし。これでまた一つの武器が集まったわ。今回は上々でしょう。

 それにあの男にとっても良い結果となったことだし。」


そう言って女は教会に背を向けて歩き出す。手には先ほどの短剣を持って。


女の姿が消えても、教会からは祝福の声が漏れてきていた。


できれば、2作目をがんばって仕上げたいと考えてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ