はじまり
仕事が終わり帰宅していると、とあるビルに設置された大型ディスプレイから壮大な音楽が流れてきた。
周りには足を止めてその画面を眺める人々も多々いる。私も足を止め画面を見る。画面の中で流れているのはとあるゲームのオープニングだった。
『白と黒の世界』
という題名のこのスマホゲームは『神を超越する』というサブタイトルが目を引き、若い年代を中心として今かなり大ヒットしている。アニメ化や書籍化、更には最近実写映画化まで決まったそうだ。もはやいまこのゲーム、略して『モノセカ』(白と黒をモノクロとしているらしい)を知らない人などこの日本にはいない。きっと周りの人々も今人気だからという理由で立ち止まって見ているのだろう。
だがしかし。私は違った。
ここでこのゲームの内容を簡単に説明したい。このゲーム『モノセカ』はいわゆるMMORPGというものだ。といっても魔物などを狩って強くなるというゲームではない。4つのチームに別れて戦い、勝利するという感じだ。このゲームの世界では4種の魔法があり、それぞれ火、水、風、土となっている。もともと人間達は魔法を持っていなかったが、この力を2000年前に人間に与えたと言われているのが神の愛し子『ユーリア』だ。このユーリアは魔法を人間に与えたことが原因で、この世界の神様である光と闇の神『レイニル』の怒りをかって殺されてしまうのだ。結果、力を得た人間は目まぐるしい発展を遂げ、ついには争いが始まり、魔法ごとに4つの派閥に分かれて戦争が始まるのだった。
というのがこのゲームの簡単な内容だ。他にも色々設定はあるのだがとりあえず省くとする。ところでこの『ユーリア』という存在。ゲームの中では古代の話として最初に出てくるだけであまり重要視はされていないのだが、ゲームの中の世界では力を与えてくれた聖女として崇められている。
そしてこの『ユーリア』は私の前世でもあるのだ。
決して私の頭がおかしくなった訳では無い。赤子としてこの世界に生まれた時からこの記憶はあったし、なんならその時『モノセカ』なんてゲームはこの世になかったのだ。ただこの世界に生まれた時、私はレイニルに殺されたという事実が当然のごとくとてつもなく恐ろしくて大泣きしたのだ。それは赤子としては当然の行為で周囲の人間は不思議には思わなかっただろうが、オムツを変えてもミルクを与えても泣き止まない私にとても苦労したことだろう。そして今現在、24歳の女として育つまで私はこの世界で生き延びる方法を必死に考えた。私はまた死んだら前世の世界に戻されるのだと何故か確信していたからだ。だから私はなるべく車道側は歩かないようにするし、年に1度は病院で全身検査を受けて、護身の為に空手や柔道、合気道まで習ったのだ。結局は死ぬので意味の無いことかもしれないが、少しでも期間を先送りしたかったのだ。
しかし人間、死ぬ時は死ぬ。こんなもの思いにふけっていた私は飲酒運転で歩道に乗り込んできた車に気づかず、衝突されてこの世を去ったのだった。