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不審死特別捜査係  作者: 那由多
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風呂場の殺意-事件ファイル1-

 有名な大学教授である金吉一穂が死亡した。死因は溺死だった。還暦を過ぎた金吉は恐らく溺れてしまったのだろう。

 彼には、二歳年下の妻がいた。金吉和子だ。彼女は、飼っている犬の散歩に出かけており、帰ってきて一穂が風呂から上がらないことを不審に思い、風呂場を覗くと研究資料を手に風呂の湯に沈んでいる彼を発見した。直ぐに救急車を要請したが、既に死後十五分ほど経っており、蘇生は出来なかった。

 特に事件性はなく、事故死と診断された。


 所轄の窓際部署である、不審死特別捜査係の係長である上田は、この死について少し気になった。

 不審死特別捜査係と言うのは、たった5人の部署で、何か不祥事を起こすと移動させられる。特に仕事はない上に、一課や二課の雑用として使われる。

 上田は、もともと捜査一課にいたが、連続殺人事件を止めることが出来ず、責任を取って移動になり、その時に不審死特別捜査係が設立された。

 残りの四人についても同じような事情があった。高間は、警視庁のネットワークにハッキングをかけてきた凄技クラッカーに敗れて、責任を取らされた。松本は、鑑識で青酸カリの瓶を事件現場の前に忘れて、慌てて戻ったところ回収された後だったことで責任を取らされた。廣瀬は、捜査情報の伝達ミスの責任を取らされた。江守は、犯人の人相を描く係だったのだが、そこでミスをして移動させられた。

 要は、出来損ないを集める部署なのである。上田はもともと優秀な刑事であったから、嫌がらせでこの役を押し付けられた様なものだ。

 役に立たない者を如何に上手く使うかが勝負の部署だ。

 上田はこの金吉一穂の死亡について不審に思っていた。この様な死に方をするものはいる。しかし、明らかにタイミングが良すぎる。妻が散歩に行っている間に死んでいるなんて。

 早速、金吉がいた研究室を訪ねた。

「金吉さんは、生前どんな人でしたか?」

研究室の副教授が答える。

「如何にも研究者って感じです。集中すると三日連続で寝ず食わずで論文を書いていましたね。この研究室の学生なら誰もが知っています。」

「誰かに恨まれていたとか?」

「まあ、業界内では有名なケチでしたからね。機材やら何やらを少しでも安くしようと値切りまくっていましたからね。そりゃ恨みを買っていたかもしれませんね。」

「そうですか。」

「所で、その相手に心当たりは?」

「なんせ数が多いものですから。」

 部屋に戻った上田は、高間に命じて周辺の監視カメラを当たらせた。松本と江守、廣瀬と上田で二人組になり、聞き込みに出かけた。

 その頃、一人で残った高間は、

「おい、不審死特別捜査係の高間ぁー。」

「その、粘着質な声やめてほしいですね。何か用ですか?」

「捜査やめろや。どうせまた、係長が勝手に始めたんだろ?」

「命じられたのでやらないわけには。」

「捜査一課長から、直々に命令が下った。『やめろ。』とな。」

「そうですか。お引き取りください。」

「チッ。調子に乗るんじゃねぇーぞ。」

 捜査一課の南東に嫌味を言われていた。

 一時間後、上田は廣瀬と金吉宅にいた。

「奥さん。先生のパソコンがハッキングされているかもしれないので見せて下さい。」

「はぁ。どうぞ。」

 上田が調べている間に、廣瀬が話を聞く。

「旦那さん。どんな人だったんですか?」

「研究者としては凄かったかもしれませんが、夫としては落第点でした。家でろくに話もしませんでしたし。」

「どうして結婚を?」

「若いころの彼は、真面目でとても魅力的だったんですよ。」

 上田が会話に割り込む。

「そうですか。所で十キロのドライアイス何に使ったんですか?」

「主人の注文はわかりません。」

「受け取ったのは?」

「私です。」

「直ぐに冷やさないと無くなりますよねぇ。何処で?」

「直ぐに主人がきて持って行きました。」

「そうですか。風呂場を見せていただいても?」

「ええ。こちらです。」

 廊下に出て直ぐに風呂場はあった。

「おかしいですねぇ。作業用の天井の板に隙間がありますねぇ。」

「洗った時に空いたのかもしれません。」

「奥さん。もう嘘はやめたらどうですか?」

「何のことです?」

「あなたですね?殺したのは。」

「はぁ?何ですかいきなり。」

「あなたは、作業用の天井の板を外し、そこにドライアイスを入れた。そして、旦那さんを入浴させて殺した。」

「何のことかさっぱり。」

「高濃度の二酸化炭素を大量に吸うと意識障害を起こします。死因は溺死でしたが、あなたが強制的に起こしたものですね?」

「・・・。」

 廣瀬は、

「これ、何に使うんですか?風呂場の隅にありましたが。」

「その手袋は掃除で・・・。」

「ドライアイスを素手で触ると火傷をしてしまう。だから手袋をした。」

「・・・。」

「調べれば手袋痕が出ますよ。」

 和子が独白し始めた。

「あの人が悪いんです。研究者だからと我慢してきたのに、彼は、あの人は他の女にダイヤの指輪を贈っていたんです。私はそんな高価なものもらったことなんてなかった。」

 松本から電話が掛かってくる。スピーカーにする。

「先生は、ヨーロッパの研究所に移籍する予定だったそうです。相手方の人事部の女性に賄賂として指輪を贈ったことがわかりました。」

「・・・、そんな。」

 上田は、

「確定するまであなたには言えなかったんじゃないですか?糠喜びはさせたくなくて。」

「っ、・・・。」

こうして不幸な勘違い殺害は、幕を閉じだ。

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