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こいのうた  作者: あいぽ
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第一話 夜の校舎

生きてゆく力が その手にあるかぎり


笑わせてて いつもいつも


うたっていて欲しいよ



「こいのうた」

作詞浜田亜紀子

作曲 中島優美

歌 GO!GO!7188

暗闇の中、真っ直ぐと続く廊下に、窓から射す薄い月明かりが静かに揺れる。

静寂の中に響く、夏の虫たちの音色は、夜の校舎の薄気味悪さを一層際立たせていた。


「ねぇ、やっぱもう帰ろうよ。先生に見つかったらマズイって」


少し震える身体をまわりの者にはバレないように、一人の少年が静かに呟く。

時刻はちょうど22時を過ぎようとするところである。

こんな時間の校舎に教師などいるわけがない事は百も承知の上だが、まだ十二歳の少年にとって誰もいない夜の小学校は、冒険をしたい好奇心をはるかに打ち消すほど薄気味悪かった。


『22時22分、学校の図書室に少女の霊が出る』


なんてことはない。

どこの学校にもありそうな、そんな怪談話がここの小学校でも、いつからか噂されるようになっていた。

そこで、明日から夏休みが始まろうという終業式を終えた日の夜、この学校の好奇心旺盛な5人の少年たちは、クラスメイトたちを驚かせてやろうと『少女の霊捕獲作戦』と題して、先程からスマホを片手に夜の校舎の中を図書室に向かい歩いていた。

少年たちは、今夜、少女の霊をスマホに捕獲する事が出来れば、その動画を即時にツイッターに上げて、学校中の英雄になろうと心に決めていた。

先程から震える一人の少年をのぞいて。


「お前さぁ、そんなに嫌なら何でついて来るの?」

「ほら、もうすぐ22時22分になるよ。女の子待たせたら、カッコ悪ぜ」


先程から震える少年に、おどけたように他の少年たちは声をかけ、図書室へと先を急ぐ。


「ちょ…みんな待ってよ」


取り残された少年は、涙交じりの声で他の少年たちに訴えるも、恐怖から足が動かなくなる。

力を振り絞り、少しでも明るい方へ行こうと月明かりが射し込む校舎の窓へ身体を向けた時である。

月明かりが揺れる校舎の窓に、青白い光に包まれた子供の顔がすっと映り込んだのである。


「うわっ、ああ、あああああああああ!」


あまりの恐怖に少年は声にならない声を上げ、ついに廊下にしゃがみ込んでしまった。

しかし、その瞬間、静寂な夜の校舎に少年たちの笑い声があふれかえった。

青白い光に包まれた子供の正体は、怯える少年をからかおうとした、仲間の少年のイタズラだった。

怯える少年の後ろで、スマホのライトを自分の顔の下から照らして、窓に映しこんでいたのである。


「ほんと、こいつバカだよなぁ」

「お漏らしでもしてんじゃね」


少年たちはお腹を抱え大声でからかいあう。


「あ、いっけねぇ、もう22時22分過ぎてんじゃん」


一人の少年がふとスマホの時計を見て、一瞬誰もが口を閉ざした時である。

藍色をした無数の淡い炎のようなものが、図書室の方から少年たちに向かいゆっくりと流れてきた。

その淡い炎は、少年たちにまとわりつくように、彼らの身体のまわりをぐるぐるとまわり始める。

まるで、一人一人の少年たちの姿を確認するかのように、彼らの足元から頭上まで縦横無尽に彷徨い続けるのだ。

やがて、その炎は少年たちの頭上まで到達すると、一瞬、パッと弾けたように消えてしまった。

その時だ。

突然、静寂の中から、生まれたばかりの赤子の泣き声が響き始める。

その耳を射すように響く赤子の泣き声は、少年たちを覆い尽くすかのように徐々に大きくなり、少年たちは耳をふさいでも、直接聴覚を刺激するように脳裏に響いてくる。

うめきにも似た赤子の泣き声はどのくらい続いただろうか。

恐怖のあまりに、少年たちの意識が朦朧とし始めたころ、その泣き声は急にぴたりと止まり、夜の校舎に静寂が戻った。


『……ハヤク、ニゲナキャ』


少年たちは、やっと薄気味悪さから解放されたと思い、震える身体を奮い立たせ、この場から離れようと歩き出す。


ーーしかし。


「わたしは、ここにいるよ」

「わたしは、ここにいるよ」


後ろから、少女の囁くような声が聞こえてくるのだ。

恐る恐る少年たちは、振りかえると。


黒髪を、綺麗に肩までで切り揃えた少女が、少年たちの前にたたずんでいた。

嗚咽……。

本当の恐怖を感じた時、人は声が出なくなるのだろう。

5人で身体を抱きかかえるように嗚咽を漏らす少年たちは、ひとり、またひとりと夜の校舎に倒れこんでいった。


「わたしは、ここにいるよ」

「わたしは、ここにいるよ」


暗闇の中、薄い月明かりが揺れる夜の校舎に、淋しげな少女の声が木霊した。

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