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おなじ夢をみている  作者: メイツル
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9

「来週模試だな」

 テツが憂鬱そうに言う。ぼくも憂鬱そうに頷く。

 五月の模試はまだ力試しのつもりで良い、と英語の講師はホワイトボードに解説を書く手をやすめて言った。夏休みを経て、秋、冬と受験勉強をはじめる現役生が増えてくる為、今後、だんだんと平均点が上がり、偏差値は上がりにくくなるのだと言う。今回の模試ももちろん成績は良いに越したことはないが、悪くてもこれから、良くても安心せずに勉強をつづけて欲しいと続け、すこしの世間話をはさんで授業を再開した。


 ちいさな砂山がまた増えていた。

「めっちゃ増えとる……」

 声にならないつぶやきが漏れた。かかとを砂につけ、うしろ向きに歩いて砂山のまわりに円を描いた。円の外側にも目立つようにもうひとつ円を描き、近くに、「ダレカイル?」とカタカナで文字を残した。

 砂山から離れ、すこし離れた別の砂丘に隠れて様子をうかがった。

 誰も来る気配もないまま目覚まし時計のベルが聞こえ、目が覚めた。


 左手のポケットをまさぐると何もないので、いつもの砂漠の夢だと思い出した。何度も繰り返す砂漠の夢にも慣れてきて、もうすこし面白い夢がみられればいいのにとおもい、おれの想像力が足りないからこんななのか、今の心情が反映されているからこんななのか等と思案し、やっぱり受験への不安なのかもしれないと勝手な夢診断を試みつつ、夢くらい好きにみさせてくれよとじぶんの脳へ不満をもらした。

 二重の円で囲んだ砂山は変化が無いようにみえた。「ダレカイル?」と書き込んだ砂にはいくらかの変化があった。文字にはいくつかの線がひかれていた。自分で文字の上に線をひいたとは考えにくく、別の誰かの跡におもえた。文字にひかれた線の近くの足あとをよくみると、ぼくのものよりもひと回りちいさいようにみえた。足あとは砂丘の上までつづいて曖昧に消えていた。

 ぼくは空の左ポケットに手をつっこんだまま、砂丘の上に立ち尽くし、ただ地平線を見詰めていた。

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