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しばらく歩くと、おおきな砂丘がみえ、その陰にふたつの砂山があった。ひとつは前につくったものと同じもののようにみえ、もうひとつはそれよりもおおきなものだった。
ふたつめの砂山をつくった覚えはなかったが、別のレム睡眠時につくったのかもしれない。
ぼくはふたつの砂山のとなりにみっつめの砂山をつくることにした。じぶんでつくったものと張り合っても仕方がないが、ふたつめの砂山よりおおきなものを作りたくなったのかもしれない。
昔、砂場で遊ぶ時はよく砂山をつくった。できるだけ美しく頑丈でおおきなものをつくろうと砂を集め、手で固め、ならし、時にはじょうろで水をかけ、頑丈にした。
おおきく立派な砂山ができあがると、砂山の向こう側にいる友達といっしょにトンネルを掘った。砂山が崩れないよう指で慎重に掘り、互いの指先がトンネルの中で触れ、うまく貫通したのがわかると、ぼくらは喜び合った。
あの頃、砂山をつくるのはとても楽しかった。けれども、今はほとんど退屈におもえた。
ふと気が付くと、みっつめの砂山は一番おおきくできあがっていた。達成感が得られるのではと、すこし離れてみっつの砂山を眺めた。でこぼこのみっつの砂山がいびつに並び、とても無駄なものができたようで、虚しくなった。
「彼女でもいれば勉強ももっとちゃんとやれるのにな」と言ったテツの言葉がふと、思いうかんだ。
「だから、ね。この問いは、ね」
「似てる似てる」
「うけるんだけど」
テツが日本史の講師の口癖を真似をすると、同じ授業を受けるふたりの女子は笑った。
ぼくとセキさんは授業を受けていない日本史の講師の真似をみて、ぎこちなく笑う。
ミト、セキ、オモヤ、と三人の名前をぼくは頭の中で確認する。ミトさんは背がぼくとおなじくらいですらりとしていた。髪は短く切られていて切れ長な目と長いまつげが際立っている。ラーメンが好きなのはセキさんで二日に一度は食堂でラーメンを食べている。お笑い番組が好きらしく、芸人の話題を人懐っこい声でころころと話していた。すこし色を抜いた茶色い髪にゆるいパーマがかかっている。オモヤさんは三人のうちいちばん背がひくく、肩くらいまでの髪は色を抜いていて金色にちかい色をしていた。「ずっと勉強ばかりだし、ちょっとくらいはなにか変えていないとバランスがわるくて」と、オモヤさんは言った。視力の良さそうなクルミみたいにおおきな目をして、茶色いフチの眼鏡をしていた。普段は聞き役にまわり、たまに鋭い返しをするとセキさんが、「オモヤがきれた」と言って茶化し、「きれてないから!」とオモヤさんがちょっと怒って話すやりとりがぼくはなんだか好きだった。