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それは中学生の頃、同じクラスの女子からもらったプレゼントだった。それをもらった頃からそれをくれた人のことが気になりはじめていたが、何をするのでもなくほとんど会話を交わすこともなく卒業した。その人は高校へ入る前から誰それとつきあいはじめ、高校へ入ってからも誰それとつきあったとか別れただとか途切れ途切れに噂を聞いたが、おれはただそれを使い続けた。
「まだ、持っててくれてたんだ」
と彼女は言い、
「物持ちが良いだけだ」
とおれは言う。
「あたし、物をたいせつにしてくれる人って好き」
「どうして」
「だってあたしの事もたいせつにしてくれそうだもん」
中学を卒業してから何度も繰り返した甘い妄想が頭のなかで流れ、どうしようもなく自己嫌悪した。
パーカーのポケットにシャープペンシルを入れ、できるだけ握って過ごして一週間が過ぎた。
三日目にパーカーを洗濯しようと、うっかりシャープペンシルをポケットに入れたまま洗濯機にかけた。洗濯が終わってから気が付き、しわくちゃで生乾きのパーカーのポケットをまさぐると、青色のゴムのグリップがボロボロになり、ゴムのはがれた部分からは赤いプラスチックが露出したシャープペンシルが見つかった。
ぼくはひび割れた青いゴムをつまみ、芯の赤いプラスチックができるだけ見えないよう、無理矢理ゴムのひびをくっつけた。
また、一週間が過ぎた。
ぼくはパーカーの左ポケットに手をつっこんでいるのが癖になった。シャープペンシルを触っていないと落ち着かない気持ちになった。
「おまえ、最近ずっと手ぇつっこんでないか」
テツが言った。
「いや、まぁ願掛けみたいなものをやってて」
「手ぇ入れてるのが?」
「うん。まぁ……」
テツは一瞬眉をひそめ、「あまり根詰めるなよ」と言った。
砂丘の影で手のひらのなかにあるはずのシャープペンシルが無いことに気が付き、あぁ夢なんだろうとおもった。
ひさしぶりにみた気もするし、いつもみていた気もした。
砂漠を当て所なく歩き、じりじりとした太陽のつよい光を浴びながら、すこしも焼けるような熱を感じていないことに気がついた。ここが夢のなかだと意識すると、身体の皮膚に触れる寝間着の布とあたたかな布団のぬくもりが感ぜられた。目が覚めかけているだけかもしれないともおもったが、どうせなら夢が覚めるまで歩いてみたいとおもった。