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B駅前のバス停で、砂丘行きのバスを待った。ペットボトルのミルクティーをふたくち飲む。
携帯電話を開き、テツやセキさんへ砂丘へ向かっている事をメールしようとしかけ、どこから何をどう話せば良いのかうまく話せる気がしなくなり、携帯電話を閉じた。
駅前の広い道路とたくさんのビルを眺めながら、受験の大事なこの時期にどうしておれはここにいるのだろうとおもうと、なんだか口元がにやけた。
砂丘へ向かうバスは停車し、乗り口の扉が開くと、バス停の前に並んだ乗客が乗りはじめる。
シートに座り、携帯電話を開いた。さっきと変わらず、新たな着信もメールもなかった。父も母もぼくがいないことに気がつかなかったのだろうか。気がついても、予備校に行っていると勝手に解釈したのだろうか。
朝早くから勝手に家を出たことについてあれこれといくつかの言い訳を考えていたが、午前十時を過ぎた頃になっても、ひとつの電話もメールも何の反応もないことに肩透かしをくらったようなそわそわと落ち着かない気持ちがした。
もしかすると携帯電話の電波が悪いのではないかとメールの問い合わせをしてみても、やはりだれからのメールもなく、見慣れぬ窓の外を見やりながら、どこか漠然としたさみしさが残った。
初めてみる景色が(もしかしたら以前にバスツアーで見ているのかもしれないが)通り過ぎ、やがて車内アナウンスは砂丘前を告げ、ぼくはバスを降りた。
アスファルトでできた広い駐車場があり、奥には木でつくられた階段がみえ、周囲には砂地でまばらに生える雑木林があった。
木目にちいさな砂の入りこんだざらざらした階段をあがる。小学校のグラウンドを駆けまわった頃の靴底の感触を思いだした。
階段をあがると砂丘がみえ、その先に海と水平線がすこしだけみえた。ずっと前に来た時もこんなだったと懐かしさよりも答え合わせをしているような気持ちがした。観光客はまばらに砂のうえを歩き、看板の前でラクダと業者がラクダの背に乗る客を待っていた。
リュックサックからペットボトルを取りだし、一口飲んだ。ゆるやかな砂の斜面を歩いて海へ向かった。
おだやかな白波は砂を濡らし、寄せては引いて陸と海の境界を曖昧に保っていた。濡れた砂は波を追うようにさらさらと海に流れ、波は砂を陸に押し戻した。
遠くで子供の笑い声が聞こえた。振り向くとちいさな女の子が波の動きに合わせ、前へ後ろへ動き、様子を見守る父と母らしき大人をみてはしゃいでいた。
ちいさな女の子をみながら、金色の髪をした彼女の白いワンピースはここでならとてもよく似合うだろうとおもった。
空を見上げると一羽の鳶がゆったりとした速度で円を描いていた。
砂丘から駅に向かうバスに乗り、ミズさんの言っていた停留所で降りた。
砂丘へ行く以外には目的がなかったのでまだ時間に余裕があった。
砂丘へ行けば彼女の手がかりになるような何かがあるような気がしていたが、特に何も無かった。わからないことに期待をかけ、勝手に裏切られたような気持ちになっているが、本当は一人のにんげんが何かの夢を見たぐらいで世界の何かが変わったりするはずがないとも思った。
十五分ほど歩いたところに「喫茶あんぶれら」はあった。住宅に囲まれ、店の向かいにはちいさな公園があり、ベンチに座ったお婆さんが顔をていねいにぬぐっていた。




