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持ち場に戻り、しばらくするとベルトコンベアが動きはじめる。延々と流れてくる冷蔵庫にパイプを向け、点検をする。頭がぼんやりして眠くなる。ぼうっとしたまま点検を続けていると、いつの間にかまたベルトコンベアは停止し、休憩になった。
ぼくは持ち場を離れ、トイレに行き、用を済ませ、ペットボトルの水を飲んだり、メールのチェックをして過ごした。新着メールは一件もなかった。
六時までまだ五時間ある。あと二日もこれを繰り返すのかとおもうと憂鬱になった。仕事を終え、家に帰って眠らずに予備校へ向かうのは無理だとおもった。明日の夜もまたここで、今日と同じように作業を続けなくてはいけない。きちんと眠っておかなければ、明日の仕事の途中には眠ってしまいそうだ。あぁ、はやく家に帰って眠りたい。眠りたい。
ベルトコンベアが動きはじめる。
冷蔵庫が流れてくる。
パイプを向け、点検をする。
三日続ければ、三万円近く稼げる。
そうしたら、砂丘に行ける。
砂丘に行けば、お金はほとんど無くなる。
何も無かったら?
無駄足になる。
金色の髪をした彼女。
ずっと見ていない夢。
もう眠い。
眠たい。
あそこには何があるのだろう。
砂丘を見てどうするんだろう。
わからない。
三万円あれば砂丘に行ける。
三万円を使って砂丘に行く。
行ってみないとわからない。
行ってみてもわからないかもしれないけれど。
ベルトコンベアが停止した。
工場の外に出ると、ポニーテールの彼女がいた。
「あら」タバコをくゆらせ、「君も吸う?」と、彼女はすこし楽しそうに言う。
「いや」とぼくは言い、「ちょっと眠くなるといけないから」と答える。
「もう眠たいんでしょ?」
彼女は微笑む。
「大学生?」
「あぁ。うん」
「じゃあ、友達と徹夜で遊んだりもしてるでしょ?」
「うん。まぁ、まだ、すこしだけ、かな」
「そうなんだ。今、一年生?」
「うん」
「それなら授業も大変だしね」
彼女はふふふと笑って、ぼくもつられて笑う。
「あの、何年生、ですか?」
「二年。ミズでいいよ」
「矢村です」
「やむちゃん」
彼女はころころと声を弾ませ、「また次の休みでね」と言い、タバコを胸ポケットにつっこみ、ポニーテールを揺らせて帰っていった。
ぼくは嘘をつき、大学生になってしまった。
深夜午前二時前、眠気はすこし収まった。
ごうんごうんとベルトコンベアは動き、ピッ、ピッ、とパイプから深夜でも快活な短い電子音が鳴り、冷蔵庫は停まることなく動いていく。
冷蔵庫に異常があるときは、短い電子音はピーピーと長い電子音に変わる。その時は、ベルトコンベアの停止ボタンを押さなければならない。ベルトコンベアが停止すると、このラインに携わる人の作業を止めてしまうので、ボタンを押すのはどうにも躊躇する。




