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七月に入ると日差しの強い日が増えた。ぼくは数日前からパーカーを羽織るのをやめ、Tシャツを一枚だけ着ている。Tシャツにはシャープペンシルを入れるポケットがないので、赤と青の色をしたシャープペンシルは机の引き出しのなかにしまっている。
あの巨大な鳥の夢をみてから、一ヶ月近くが経つ。あれからぼくは砂漠の夢をみていない。
久しぶりに駅前のコンビニに寄り、いくつかの漫画雑誌を立ち読みした。予備校に通う内、次第に読まなくなった連載漫画のストーリーがわからなくなっていた。
できるだけ夜更かしはせず、早起きを心がけ、予備校できちんと授業を受けて、空いた時間は自習室で過ごした。昼食は集まりのまばらになった食堂より、駅に近いデパートの11階のフードコートで済ませたり、その屋上で握り飯やハンバーガー等を食べた。訳のわからない夢を見なくなる日を望んでいたけれど、夢を見なくなると現実は淡々として、とてもつまらないものにおもえた。
デパートの屋上の端から分厚いガラス越しに地上をみると、ミニカーみたいにちいさな車がぶうぶうと十字路を渋滞気味に走っている。
窓の端に腰をかけ、テリヤキハンバーガーの包みを開きながら、金色の髪をした彼女のことを考えた。目の前でみせる屈託のない笑顔を思いだすと、彼女はどんな名前だったのだろうかとひどく気になった。聞いたところで聞こえはしなかっただろうが、それでも口にして聞いてみればよかったと後悔した。しっかりとした鼻の男は今もまだあの砂漠のなかにいて、彼女と一緒に過ごしているのだろうか。彼女の親密さを含んだ、まっすぐな視線を思いだし、胸が締め付けられるように苦しくなった。
どうせただの夢なんだから苦しむだけ損だ、悩んだところで意味が無い、考えるだけ時間の無駄だとテリヤキハンバーガーを口に詰め込み、ドリンクといっしょに無理矢理飲みこんだ。
屋上から下りのエスカレーターを足早に降りていると、11階から二人組のカーディガンを羽織ったお婆さんがぼくの前で横並びになって乗った。二人は何かを楽しそうに話していて、後ろのぼくには気が付かない。ぼくはお婆さんの三段ほど後ろにさがり、エスカレーターの赤いてすりに手をのせ立ち止まる。
エスカレーターはゆっくりと進み、ぼくは手持ち無沙汰気味に両側の鏡張りの壁をぼんやりと眺めた。階の変わる途中の壁に、一枚のモノクロの砂漠の写真の入った広告が目に留まった。エスカレーターの流れに合わせ、二段ほど後ろ向きのまま段をあがりながら、確認するとデパート内での催物の告知広告だった。8階催事場で来週まで開催されている写真展の告知のようだ。すこし胸がざわめいた。9階から8階へ降りるとき、お婆さんたちはぼくに気が付き、縦に並びなおした。ぼくはお婆さんたちの後ろに立ったまま、8階でエスカレーターを降り、エスカレーター沿いに歩いて催事場へ向かった。




