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「あいつら、つきあってんのかな」
テツは食堂のカウンターの列に並ぶ一組の男女をみて言った。
「そうなんじゃない?」
ぼくは無難な味のするとんこつラーメンをすすった。テツは大盛りのかつ丼を食べながら、「おれらにも彼女がいればもうすこし勉強頑張ったりできるのにな」と言い、「わからないところを教え合ったりしてね」と同意すると、「そうそう」とテツは言い、受験勉強をするにあたり、彼女がいるというのは癒しにも励みにもなるのだ、というようなことをつよく言うので、「現役で受からなかったのはそれがなかったからかもね」と半ば冗談めかして言うとテツも同意し、「おれたちが勉強しなかったんじゃない。勉強するモチベーションが上がらなかっただけだ」と言うので、「それ、勉強してないってことじゃん」とぼくは言い、テツは笑ってぼくも笑った。
周りをみると、後ろのふたつ先のテーブルに三人の女子が座っていて、「なぁ、あの三人だったら誰が一番かわいいと思う?」と、テツは言った。
ぼくは三人の女子をみるには振り向かなければならず、度々振り向いてみるのは気が引けたので(三人は二人と一人が対面になるように座っているので、振り向いても二人の顔は見えるが、一人は後頭部しか見えない)、「あのちょっと茶色い髪の人」と適当に後頭部しか見えていない人のことを言うと、「いや、お前見えてないだろ」とテツが言うので、「髪が綺麗そうだから」と、はぐらかすように答えた。好みについて話すときはほとんど中学の頃に好きだった人のことを思いだしながら話すけれど、今も好きなのかどうかはもうよくわからない。
「おれはあの金髪の子かな」
とテツは言い、さらさらと楽しそうにじぶんの好みについて話しはじめた。話すうち、熱をもって最近みたアダルトサイトやこっそり借りてみたというアダルトビデオの内容について語り始めたので、ぼくはあわてて話題を変えた。いやらしいことを話しているのにとても清々しい顔をしているので、テツはとてもいいやつだとおもった。
気が付くとほとんどの人は食堂から退出し、午後の授業が始まる時刻になっていた。
ぼくらは急いで次の授業のある教室へ向かった。