17
人影は砂丘から降り、ぼくの前に近づいた。カフェでみた金色の髪をした彼女だった。
彼女はぼくに微笑みかけ、口をぱくぱくとさせ、何かを言った。彼女が話しかけているのはぼくではない他の誰かだ。彼女はぼくが彼ではないことに気が付いていないのだろう。
ぼくは彼女の方を見ないで、砂丘に背を預けたまま遠くをみつめた。
彼女はぼくの目の前に顔を近づけ、口をぱくぱくとさせた。
「ぼくは彼じゃない」
ぼくは声にならない声で言った。金色の髪をした彼女は、ぼくをしばらく見詰め、ぼくの横に座った。ぼくはじっと正面だけをみていた。誰かの代わりに彼女と接するのは嫌だった。
顔を動かさないまま、目の前の空と砂だけを見続けるのは退屈で苦痛だった。目の端に映る彼女もぼくと同じように正面を向き、ぼんやりしているようにみえた。彼女と、この男の普段の関係が気になった。この二人はいつもどんな風に接しているのだろう。
ぼくは我慢ができなくなり、そっと横を向き、彼女をみた。彼女はうなだれ、うすく目を閉じ、眠っているようにみえた。まっすぐ地面に向いて落ちる髪は艶のある金色でとてもきれいだった。
ピピピピ、と音量を上げて電子音が鳴り、目を開けるといつもの天井があった。部屋の気温は昨日よりもすこし高い。
「面白い夢ね」
セキさんは食堂のとんこつラーメンをすすり、言った。夢のことはテツ以外に話すつもりはなかったが、テツは最近あまり食堂に来なくなった。「たぶんデートじゃないかしら」と、セキさんはどこかたのしそうに言い、ぼくの顔をのぞく。
「ねぇ、矢村君は最近、何か面白い話とかないの?」
セキさんはぼくの返答にはなにも期待していないような軽い口調で言い、ぼくはすこし考え、夢の話をした。
「そのかわいい女の子はいつもでてくるの?」
「いや、最近、でてくるようになっただけだよ」
「自分も違う顔だったって、外国の人の夢でもみているの?」
「どうだろう。変な夢だよね」
「変わった夢だけど、私もずっと同じ夢とかみてみたいな」
たとえば、毎日お笑いのライブをやってる劇場の夢とか、とセキさんはつけ加えて言った。
「知ってる芸人はでてこないかもよ」
「でも、お笑いを毎日やってる劇場の夢なら、ベテランから新人までいろんなライブが見放題なわけでしょう。もし、観られるんなら私はもうそれで十分だよ」
セキさんは言い、とんこつラーメンのスープにレンゲをつっこみ、飲んだ。
「もし、劇場の夢をいつもみているとしたら」
ぼくは言った。
「そこのお客さんというより、支配人とか警備員とかのスタッフとかだったりして、あまりライブは観られないかもしれないよ」
もう、とセキさんは言い、「夢が壊れる」と言った。
「そもそも、今みてるような夢だと、声、聞こえないしね」
と、ぼくが言うと、「あ」とセキさんは声を漏らし、「そりゃあ、あきまへんわ」と言って笑った。




